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しおりを挟む「さて!懺悔の時間は終わった?そろそろ本題に移ろう」
パンと手を叩き不敵な笑みを浮かべる皇帝陛下。
ビクンとフレイアの肩が大きく揺れ、ジーク様は完全に目を泳がせている。
「……何でも要求を飲もう。何を望む」
「現国王の廃位とモニータ家の王家離脱。ティムレット侯爵家の称号返上、及び賠償請求」
「なっ!」
「あとは……フレイア=ティムレットの身柄はグランディーノ帝国で預かろうか」
指を折りながら数える陛下に対し、ジーク様は顔を青ざめながらパクパクと口を開ける。
事実上の侵略、モニータ王国は解体されグランディーノ帝国の属国になる事を示していた。
「フレイアをどうするつもりだ……っ!」
ギリっと歯を軋ませながらジーク様は皇帝陛下を睨み付ける。そんな威嚇なんてどうも思っていないように陛下はニヤリと笑みを浮かべながら彼を見下ろす。
「そうだねぇ、一生牢屋の中は可哀想だから……どこかの変態貴族にでも嫁がせてあげようか」
「っ!貴様っ!」
「それとも不老不死でも研究してるマッドサイエンティストにでも受け渡そうかな」
身動きが取れないジーク様を尻目に格子の向こう側にいるフレイアの頰へとそっと触れる。フレイア自身はまるで意志が通っていない置き物のような目でぼんやりと陛下を見つめていた。
それにしても……フレイアの様子がおかしい。
結婚式前に会った時は煩いくらい自分から喋ってたのに。
まるで抜け殻みたい……。
私達がここに到着する前に何かあったのかしら。
「まぁこんな女どうなろうと僕の知った事じゃないけど……ソフィア、どうしようか」
「えっ、私ですか」
「君が被害者なんだ。君が好きに決めなさい」
ニコッと微笑む陛下は小さく手招きをし、フレイアの側へと私を呼び付ける。
正直、結婚式前にされた事が頭から離れない。
大切なドレスを破られ、強欲なまでに自分の意見だけを通そうとするフレイアがやっぱりまだ許せない。
私は……。
ゆっくりと近付き改めてフレイアを見下ろす。
いつも綺麗にしていた髪はぐちゃぐちゃに乱れ、顔や手には汚れが付きみすぼらしく見れる。そこには今まで嫉妬し憧れていた妹の姿はなかった。
「……フレイア」
名前を呼べばビクッと肩を震わせる。
決して視線は合わせず全てに怯えているみたい。
「今日で貴女と会うのは最後。だから……最後にちゃんと話をしましょう?」
出来るだけ優しい声でそう言えば、恐る恐るフレイアは私へと視線を向ける。
泣き腫らした目元と化粧の崩れた顔が痛々しく見えた。
「お、ねぇさま……」
「私ずっと貴女が羨ましいと思ってたの。明るくて、欲しいものを欲しいと言える貴女が凄くて……嫉妬してた」
自分で話して何だか笑えてくる。
情けない姉だわ本当に。
「そんな自分が凄く嫌だったの。でもこの国に来てロア様に出会って……初めて幸せだと思えるようになったのよ」
「っ……!」
「だからフレイア、一人で生きて。誰かに頼らず自分の力だけで生きていけるようになって」
フレイアがこんな風になってしまったのは、周りが過剰に甘やかしてしまったせい。だから当然父上や母上に責任があるし、姉として叱る事を放棄した私にだって責任はある。
ズルくて、卑怯にさせてしまった。
「あっ……」
ポロポロと涙を零すフレイア。
いつもの媚びた顔とは違い、子供が泣きじゃくるようにクシャクシャになりながら泣いている。
何だか小さい頃に戻ったみたい。
私は少しだけ笑ってしまった。
「……皇帝陛下」
「決着はついた?」
「ええ。陛下お願いです、どうかフレイアの命だけは」
私は陛下の足元に膝をつく。
どんなに馬鹿でも一応血の繋がった妹だから。
懇願する私の頭上で陛下はハァと大きなため息をつく。
分かってるわ、無茶な事を言ってるって。
でもお願いするしか私には……。
「……フレイア=ティムレットにはグランディーノ帝国で一から更生してもらおうか」
「更生?」
「一般庶民として暮らす事。もちろん使用人も居ないし仕事もさせる。もし泣き言一つでも言ったら……その時は命の保証はしないよ」
それでいい?と少しつまんなそうに言う陛下に、私は再び頭を深く下げる。
生きていれば絶対にやり直せる。
だからもう一度、もう一度頑張ってフレイア。
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