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番外編 皇帝が愛を知るまであと……②
しおりを挟む「皇帝が愛を知るまであと……①」の続きです。
「相変わらず古びた屋敷だねー」
メイエルの屋敷に着けば見慣れた顔の使用人たちが応接室に連れて行く。この屋敷には子供の頃から来ていたからなんというか……おばあちゃんの家に来た感覚に近い。
ソファーに座りながら時間を潰す。
それにしてもジェラルド遅すぎ。
所用で出掛けているといる彼女を待ち続けるのに飽きた僕は立ち上がり部屋を出て行こうとする。
「陛下、どちらに?」
「暇だからノーマンの部屋でも荒らしてこようかなって」
「……ほどほどになさって下さいませ」
困った顔で使用人は僕を送り出す。
ノーマンのやつ無表情だしリアクション薄いから何やってもつまんないんだけどねぇ。
のんびり廊下を進んでいけば遠くの方からドタバタと足音が聞こえて来る。というか近付いて来てる?
目を凝らせば前方から迫ってくるのは……
「段ボール?」
え、猛スピードで積み上げられた段ボールがこっちにやって来る。というか待って思った以上に速い!
バタンっ!
案の定走ってきた段ボールの塊は僕に勢いよく衝突した。
大きな音を立てて廊下に崩れる箱と中からこぼれ落ちる大量の布の上に僕は倒れ込んだ。
目の前には誰かの足らしきものが見える。
つまり、段ボールの塊の正体はこいつって事ね。
「いたたたたぁあ……」
「おい、そんな荷物抱えて走んなよ」
「すっ、すみませんっ!」
ふぅとため息を吐き立ち上がる。
女の声……にしても、こんなそそっかしい奴居たっけ?
布の塊がモゾモゾと動き中から人が現れる。
ボサボサの髪に瓶底みたいな眼鏡、灰色メインの着古したワンピースに身を包んだ彼女はぶつけたであろう後頭部を摩りながら立ち上がった。
「お怪我はありませんかっ?!」
僕の姿を見るなり慌てて彼女は言う。
……ん?それだけ?
仮にも僕、この国の皇帝なんだけど。
「別に、……お前は?」
「わっ私は大丈夫ですっ!というか誰かにぶつかって転ぶのなんて日常茶飯事ですし!」
「いやそれ危ないから」
あたふたと喋る彼女にため息をつく。
なるほど、最初は僕の存在にビビってこんな口調なのかと思ったけどこれが素か。
「うわぁあぁ!きっ生地が、大事な生地がぁあ!」
「うるさい」
「せっ先生に怒られる!というか殺される!」
急に大声を出し散らかした布をかき集める。
何コイツ、さっきから声大きい。
彼女は急いで段ボールの中に布を集めていく、勿論その間僕の存在なんか無視。
「ねぇ……」
「今何時だろうっ?!早くしないとお客様との打ち合わせに間に合わないよぉ!もう到着してるかな?!やっぱり私にお客様の対応なんか……」
「ちょっ」
「いやとりあえずやる事やってから殺されよう。うん、逃げたら余計酷い目に遭ってしまう……すみませんっ、急いでいますので!」
僕の言葉を聞かず彼女はぶつぶつ呟き、何を思ったのか急に立ち上がりまた段ボールを持ち上げる。そして呆気に取られたままの僕にペコリと頭を下げそのまま廊下を走って行った。
嵐のように去っていった女の後ろ姿を見つめる。
「……何、あの女」
結局ノーマンの部屋には行かず応接室へと戻る。
悪戯する気分じゃなくなったし、それよりさっきの騒がしかったやつの正体の方が気になっていた。
「いやー待たせたなっ!」
バタンと大きな音を立てて部屋に入ってきたジェラルド。
相変わらず声が大きいバアさんだなぁ。
「遅いよ、僕を待たせるなんて」
「突然来るって言ったのはお前だろォ?少しくらい待ちなよわがまま皇帝様」
ドカッと正面に座り豪快に笑う。
まぁジェラルドがこういう性格なのは知ってるけど。
「で?パーティー用の服だっけ?」
「うん。今度皇宮で他国の外務官とか呼んでやるんだ。あんまり服ないから新しいのを新調しようと思って」
「なるほど。お前が今持ってる服は比較的落ち着いてる物だから今回は生地にこだわりたいんだよねェ」
紙にデザインを書いていくジェラルドは手の動きを止めキョロキョロと辺りを見回した。
ん?なんだ?
「おかしいねぇ……まだ来てないのかい」
「誰が?」
するとバタバタと走る音が廊下から聞こえてくる。
この感じ、まさか……。
「遅れましたァァア!!!」
大声と共に飛び込んできたのはさっきの瓶底メガネ女。
「紹介するよシャリオン。今回お前の服を作る予定の…」
「カイリで御座います!お初にお目にかかります陛下!」
バッと顔を上げた彼女と目が合う。
「「…………あ、」」
彼が運命の人に堕ちるまで、あと………。
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