【完結】番犬と呼ばれた私は、このたび硬派な公爵様に愛されることになりました。

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15 イーサン視点

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「…………」
「…………」

ヴィアイント公爵家からの帰りの馬車。
もうすぐコルトピア家に着くというのに、僕もリアンナも一言も話すことはなかった。

リアンナはずっと窓の外を眺める。
その表情はいつもの穏やかな淑女の顔でも、僕だけに見せる高飛車な女の顔でもない。

目も当てられないほど醜い、憎悪に満ちた顔だった。




あの時、空気が変わったのはほんの一瞬だった。

勢いよく公爵から離れたリアンナは顔を真っ青にして唖然とする。顔を上げた公爵の目は鋭く光り、何も言わずに僕を見つめていた。
冷たいアイスブルーの瞳に睨まれると、心臓を鷲掴みにされたようにまばたきすらも躊躇う。きっとこの人は視線だけで人を殺せてしまうんじゃないか、と思えるほど……彼が恐ろしかったんだ。

『俺の評判を下げたいのであれば勝手にすればいい。略奪だと何だの、好きに噂を流せ』
『なっ?!』

予定にない反応を返されリアンナは顔を真っ赤にして叫ぶ。

『宜しいんですの?!私ではなくあんな子を選ぶなんてどうかしてます!それこそ社交界で笑われ者になってしまいますよっ?!』

キンキンと響く金切り声に、公爵はフッと鼻で笑う。

『興味ないな、貴女のことも貴女のいう社交界も。俺にはリゼリアだけ側に居てくれればいい』

そう言ってパンと手を叩くと、数人の衛兵たちが部屋に押し入ってきた。彼らは何も言わずリアンナの腕を掴むと、強引に公爵の元から引き剥がした。
それと同時に僕の腕も掴み、そのまま2人して簡単に屋敷から追い出されてしまった。

去り際、公爵の口元が小さく動く。
僕にしか見えない角度で、たった一言。

『2度と姿を見せるなよ』

それは、間違いなく僕への牽制だった。




コルトピア家に到着し、リアンナは馬車から静かに降りていった。

「イーサン」

振り返ったリアンナが名前を呼ぶ。

「このまま諦める?」
「……は?何言って、」

当たり前だろと吐き捨ててようとした。……なのに、言葉が上手く出てこない。

(諦める?僕が?……リゼリアを?)

カッと身体中が熱くなる。

(……僕がどれだけあの子のことを想ってるか、何でポッと出てきたあんな男に奪われなきゃならないんだ?)

初めて出会ったのはコルトピア家主催のパーティーだった。
参加者は全員コルトピア家よりも爵位が下で、皆リアンナばかりを持ち上げていた。媚びへつらう奴らばかりのパーティーは居心地が悪く、僕はすぐに会場を後にした。その帰り道、まだ賑わう会場を下から見上げたときバルコニーに人影を見つけた。
それが、夜風で涼むリゼリアだった。
月明かりに照らされた彼女はまるで夜の女神のようで、僕の心は一瞬で掴まれてしまった。

リゼリアが美しいのは外見だけじゃない。
ひたむきに剣を振るう彼女は誰よりも真っ直ぐだ。腐りきった貴族の世界で、彼女だけが純潔なんだ。

それからすぐにコルトピア伯爵に賭け決闘の話を持ちかけた。案の定、金に目がない伯爵はすぐに食い付き僕をよく呼びつけるようになる。
リアンナだって、高価なドレスや宝石を与えてやれば簡単に身体を開いた。そう……奴らを懐柔するのは簡単で、リゼリアまであと一歩だったのに。

「……諦めるわけ、ないじゃないか」
「そうよね。良かったわ」

(だがこれ以上公爵家に目をつけられるのはまずい)

に気付かれれば、全て終わりだ。
それだけは何としても死守しないと……!

「公爵がああ言ってる以上、正攻法でリゼリアを取り戻すのは不可能ね。こうなったら力ずくしかないわ」
「力ずくだと?分かってるのか、相手はあのルドルフ=ヴィアイントだぞ」
「うっさいわね!」

キンと耳鳴りのような声にたまらず言葉をのむ。

「あれだけ馬鹿にされて…、このまま黙ってなんかいられないわよ!!ふふっ……あの男もリゼリアも、絶対後悔させないと気が済まないからぁ!!」

リアンナは目を血走らせ、ぶつぶつと独り言を続けた。

「狙うなら来月の国王陛下の生誕パーティーよね……ふふっ、あははっ!恥をかかせるには絶好の機会じゃない!」
「り、リアンナ……」
「あーすっごい楽しみ!ねぇイーサン、アンタ何でも協力してくれるわよね?そうよねぇ?!」

ガシッと両肩を掴まれ身動きが取れない。

(これがあのリアンナか……?)

そこには美しいと評判の令嬢の姿はない。あのリアンナが、嫉妬と屈辱で壊れたただの醜い女に成り下がっていた。

「何をする気だ……?」
「ふふっ、あの男が一番嫌がることをするの。そうね、まずは当日公爵が身につける服と同じ色のドレスを用意してちょうだい。あとは……力自慢のチンピラ数人かしら」
「何をする気だ」

物騒な要求に冷や汗が垂れた。

「何をするかですって?そんなの決まってるわ」
「……」
「パーティー当日、リゼリアを汚して公爵に見せつけてやるのよ」
「なっ?!」
「なんならアンタが相手をしても良いわ。とにかく公爵が傷つけば何でもいいから」

ふふふっと楽しげに笑う。

リアンナは完全にイカれてしまった。じゃなければ妹を恥辱しろなどと命令しないだろう。……彼女はプライドを守ることを決めたのだ。

(でも……そうか、僕もまた壊れている)

人道を踏み外すことを知ってなお、あのリゼリアがようやく僕のモノになる。想像しただけで……


「たまらないね、それは」


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