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しおりを挟む笑顔が見れると思っていた。
今まで私に拒絶され続け、ようやく心が通じた嬉しさで涙を浮かべると思っていた。
第一声は私への「ありがとう」
それから飛び込むように抱き着いてくるものだと思っていた。疑いもなく。
それなのに……
「用がないのでしたら失礼します」
「ま、待ってくれぇっ!」
立ち去ろうとする彼女の前に再び回り込む。
「わ、私だっ!バレイン=ゾーネシアだっ!もちろん覚えているだろうっ?!お前の番だっ!」
「……さぁ?」
「怒っているのか?わ、私がまだ許せぬと言うのか?!だからそんな悪ふざけをしているんだな?!は、ははっ」
乾いた笑いを含ませながら訴えかける。
「レイチェルとは縁を切った!い、いやっこれからちゃんとする!お前と離れてから指1本だって触っていないんだ!」
「………」
「あ、いやっ跨がられたことはあったが……とにかくっ!私からあの女への愛情はこれっぽっちも残っていない」
弁明するたびラヴィエラの表情が曇っていく。
どうして喜ばない?私がお前一筋だと言ってやっているのに。
こんなに必死になって女を口説いたのは生まれて初めてだ。
地位も名誉も、女も金も、全部手に入れてきた。この容姿と血筋さえあれば男も女も喜んでついてきたのに。
本当に欲しい者は、どうして手に入らない?
膝をカクンと折ってラヴィエラの前に跪く。こんな真似、一度だってしたことはないんだぞ。
「愛してる」
「!」
「本当に愛してるんだラヴィエラ。お前のことを1日だって忘れたことはない。可愛くて可愛くて仕方がないんだ。戻ってきておくれ私の元に。絶対に幸せにする、これまで5年分もまとめて。もうお前を手放しなくないんだ」
彼女に向かって手を差し出す私を、ラヴィエラは何も言わずただ見つめていた。
番は運命。
私がこんなに愛しているようにラヴィエラだって私を愛しているはず。今は少し意地を張っているだけ、しかしそれを許してやるのも男の務めであろう。
そろそろ素直になれ、ラヴィエラよ。
さぁ早くこの手を取れ。取れ。取るんだ。
「……バレイン様」
「ラヴィっ!」
「気持ち悪いです」
聞いたこともない低い声に呼吸がピタッと止む。
「先ほどから一人で語っておりますが、私はラヴィエラという人間ではないと言っておりますよね?」
「え……い、いやでも……」
「それなのに長々と一方的に喋ってて。貴方、一度でもその女性の気持ちを汲んだことありますか?」
「へ……?」
「私が代わりに教えて差し上げますわ」
スッと高く上げられたラヴィエラの右足は、躊躇うことなく差し出した手を踏みつける。
「いぃっ?!」
「まず、本当に愛した女性を口説きに来たのならそれまでの女性関係はきっちり片付けておくのがマナーでは?その言い方だと中途半端に放り投げていらしたようですね。それなのに絶対に幸せにする?馬鹿馬鹿しい、面倒を野放しにしたままの癖になんて無責任なお人でしょうか虫酸が走ります」
「いいい痛いぞ、ラヴィエラっ!?」
「だから違うと言ってるでしょう。人の話を聞かない改善もしないなんて子供以下ですわ。そんな男と結婚?無理無理無理、幸せになれる確率なんて0.0000001%もありません」
ようやく足を退かされ、痛む手を擦りながら彼女を見上げる。
これは夢か?幻なのか?
縋るように見上げれば、冷たい蔑んだ目が容赦なく見下ろしていた。
「貴方みたいな自己愛の塊、大嫌いですよ」
■□■□■□■□■□
気付けば森の中を彷徨っていた。
生きている心地がしない、まるで心臓をくり貫かれた気分だ。
呼吸も細々と繰り返し視界も霞んでいる。
番からのはっきりとした"拒絶"に、身体だけでなく精神的にもダメージを受けた。
「大嫌い……だいきらい…、だい、きら…い」
ぼそぼそ呟きながら屍のように歩くだけ。
私は何を間違えたんだ。
何が足りなかったんだ。
あいつの気持ちに答えてやったのに。
どうして受け入れないんだ。
人間の分際で……小娘のくせに……
どす黒い感情が沸き上がるものの、最終的には悲しみで涙が溢れてくる。
こんな思いをどうして私が………
あぁそうか。
ラヴィエラはずっと前にこんな思いをしていた。
5年前、彼女は今と同じように私に縋っていたじゃないか。それなのにずっとあの離れに閉じ込められて、1人寂しく生きてきた。そんな風にしたのは……他でもない私自身だ。
どうして私は彼女に許してもらえると思っていたんだ。
鼻を頼りに馬車を降りた場所へと戻ってくる。
が、そこには馬車だけでなくランセルの姿も見つからない。
残り香から推測すると、恐らくあいつらは私を追うことも戻りを待つこともせず、さっさと帰っていったらしい。
「は……は、はははっ。ははははははははは」
私は捨てられた。
運命にも、国からも。
何もかも失った私はただ、その場で崩れるようにうずくまりながら……笑うしなかったのだ。
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