13 / 16
13 シャルル視点
しおりを挟む「ご気分はいかがですか?」
暗く湿ったこの場所では、いつも以上に自分の声がい冷たく反響する。
ぼんやりと足元だけを灯す松明と、鼻がひん曲がってしまうほどの下水の臭い。対獣人用の地下牢に足を踏み入れたのは今日が初めてだ。
一際暗い牢には頑丈な鉄格子がはめられ、中にいる罪人は気配だけを頼りに目隠しをしたままこちらを見上げた。
「なるほど、こんな状況でも流石に息子の声はお忘れではなかったのですね」
「やはり……シャルルか、」
こうして名前を呼ばれるのも久しぶりだ。が、感動の再会とはならないだろう。
謀反者として捕らえられた罪人、ランセル=スコットを見下ろす。
「落ちるところまで落ちましたね」
「っ!!」
「メイから報告は上がってきています。まさか月に15本も違法ドリンクを姉上に飲ませていたとは」
ハァと大袈裟にため息をついてみれば、こちらが見えていないはずの父上は気まずそうに顔を背けた。
獣人の血液が混入したドリンクは若返り効果やダイエット効果が見込めるとして裏社会で出回っていた。一時的な効果は現れるものの依存性が高く、使用を止めれば幻覚症状などの副作用が一気に襲いかかってくる。
まさに、薬物と同等のドリンクなのだ。
用心深い父上が副作用のことを知らないはずがない。
理解した上で、姉上に飲ませていたのか。
「……レイチェルはどこにいる」
「西の塔に幽閉されています。罪人とはいえ一応王妃ですからね、幸いまだ副作用の兆候も見られないのですんなり話がつきました」
まぁ納得はしていなかったが。
暴れながら隔離場所へ連れていかれる姉を思い出し苦笑する。
「馬鹿なことをっ……レイチェルはこの国唯一の王家だぞ?アイツを表舞台から引き摺りおろせば、それこそこの国の未来が!」
「ああ、それなら大丈夫です」
「あ?」
「ゾーネシア王国はシャンデラ帝国の属国となることが決まりました」
「………は、?」
目隠しをしたままポカンとする姿が、あまりにも間抜けでつい笑ってしまう。
ようやく話を理解できたのか、ぷるぷると怒りで震える父上はガシャンと鉄格子にしがみつく。
「お前、お前ぇっ!じ、自分が何を言ってるのか分かってるのかっ?!我ら獣人が人間の下につくだと?は、恥を知れ馬鹿がっ!」
「……まぁ、予想通りの反応ですね」
「ふざけおって、ふざけおってぇ!そ、そんなの上級貴族どもが黙ってるはずがない!は、ははっ!血迷ったなシャルルよ、あの老いぼれ共がそう簡単に……」
「承諾して下さいましたよ、皆様」
コツンとヒールの音がする。
父上は予期せぬ第三者の、しかも女性の声に挙動不審に辺りを探る。
ランタンを持った彼女は父上の正面まで歩み寄った。
「この、匂いは……っ?!」
「まぁ素晴らしい、スコット卿とはそう何度も言葉を交わしていませんでしたが、私のことを覚えてて下さったのですね」
彼女の綺麗な指先が父上の目隠しに触れ、シュルとそれがほどけていく。
「あ、あ、あ、……どうして、どうしてここに、お前は、お前は……なんで、どうして」
父上が真っ青になるのも無理もない。
何故なら目の前にいる彼女……ラヴィエラ様は、この世に存在しないと自ら確認したばかりなのだから。
まぁ事情を知っている俺からすれば彼女を会わせたくなかったんだが……
「ふふっ、一度ご挨拶がしておきたくて」
「ご、あい……」
「ええ。お義父様」
ラヴィエラはニコっと微笑み、父上に見せつけるように俺の腕に自分のを絡めさせた。
「へ……ぁ、え?」
「……ラヴィエラ様、付いてきてはダメだと言ったはずですけど」
「良いじゃない少しくらい。結婚式にだってお呼びせずご挨拶もまともに出来てなかったのよ、最期くらいお話したってバチは当たらないでしょう?」
イタズラっぽく微笑む彼女を見れば言葉を飲み込む。全くこの人は……こっちが強く怒れないのを知っててやるからたちが悪い。
「ラ、ヴィエラ=ロスト……お前は、へ、陛下の番で」
「あー……父上、彼女はラヴィエラ=ロストではありません。リプソン侯爵家当主のラヴィエラ=リプソン、そして私の妻です」
「………」
あ、ついに言葉も失ったか。
パクパク口を動かすだけの父上に苦笑する。
きっと父上の頭の中は疑問ばかりでぐちゃぐちゃだろう。
行方不明だった王の番が、敵国の名家を名乗り再び姿を現した。しかも縁を切ったとはいえ息子の妻として……流石に少し同情する。
しかしラヴィエラ様は俺ほど優しくはない。
「ところで先程、良からぬお言葉を聞いてしまいましたけど」
「は?良からぬ、?」
「ええ。レイチェル様がこの国唯一の王家だと、スコット卿はそう仰いましたけど」
すぅっと目が細くなり、真っ直ぐ牢の中にいる父上を捕らえていた。
「まるでバレイン陛下がもう戻ってこないような言い方ですが……何かご存知ですの?」
行方不明の王と、既に罪を犯した元側近。
彼らが無関係であると誰が信じてくれるだろうか。
後に、ランセル=スコットは国王殺しという最大の罪を被り、その命尽きるまで一生鞭を受け続けた……らしい。
274
あなたにおすすめの小説
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜
く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた
静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。
壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。
「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」
番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。
狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の
少年リノを弟として家に連れ帰る。
天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。
夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。
音無砂月
恋愛
幼い頃から気心知れた中であり、婚約者でもあるディアモンにある日、「君は運命の相手じゃない」と言われて、一方的に婚約破棄される。
ディアモンは獣人で『運命の番』に出会ってしまったのだ。
番など、御免こうむる
池家乃あひる
ファンタジー
「運命の番」の第一研究者であるセリカは、やんごとなき事情により獣人が暮らすルガリア国に派遣されている。
だが、来日した日から第二王子が助手を「運命の番」だと言い張り、どれだけ否定しようとも聞き入れない有様。
むしろ運命の番を引き裂く大罪人だとセリカを処刑すると言い張る始末。
無事に役目を果たし、帰国しようとするセリカたちだったが、当然のように第二王子が妨害してきて……?
※リハビリがてら、書きたいところだけ書いた話です
※設定はふんわりとしています
※ジャンルが分からなかったため、ひとまずキャラ文芸で設定しております
※小説家になろうにも投稿しております
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる