【完結】王女殿下、こんなあざとい婚約者(♂)でよければ差し上げます。

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13 フェルナンド視点


「やれば出来るじゃないか」

謁見を終え馬車に戻る道中、兄さんは僕にだけ聞こえる声でそう言った。
その顔はどこか楽しそうで……

「……こうなること分かってて僕を見捨てたんだ」
「なんの事だ?」
「………」
「ふっ、まぁそう拗ねるな」

ククッと小さく笑う兄さん。ほんとこの人は鬼だ!

「大体、王女だろうが勝手に人を裁く権利などない。決めごとは全て宰相が吟味し国王がGOサインを出す。長らく続いたこのシステムが覆ることはないさ」
「……でも今は空席だよ」
「ああ。だからこそ次なる宰相が必要なんだよ」

あのおじさんが宰相をやめたせいで今国中がパニックになってる。
国王は塞ぎ込んじゃってるみたいだし、古いだけのお役人たちはてんてこ舞い。唯一の救いは宰相補佐と若手の役人たちで、すぐに状況を把握し動いているから最悪の事態は防げているらしい。

(たった一人いなくなっただけでこんなことになっちゃうんだ)

そもそも何であの人、宰相を辞めたんだろう。
騎士になるより絶対お給料は良いだろうし、家だって大きいんだから婿養子にならなくてもいいはずなのに……


「フェルっ!!」


後ろからな大きな呼び声に足を止める。

「ハンナさま……」

振り返ると息を切らせこちらに近付いてくるハンナ様がいた。

「いいかフェル、俺に合わせろ」
「え?」

兄さんはぼそっと呟いた後、ハンナ様に向かって深々と頭を下げる。

バシンっ!

目の前にやって来たハンナ様は何も言わず真っ先に兄さんの頬を平手打ちした。

「アンタっ!フェルに謝りなさいよ!」
「は、ハンナ様っ?!」
「実の弟を差し出すなんて信じられないっ!アンタそれでもお兄ちゃんなわけっ?!フェルがかわいそうでしょ?!」
「は、ハンナさまっ!ぼ、僕は大丈夫ですぅ!」
「でもっ!だってぇ!」

(兄さん、何でずっと黙ってるんだよ!)

やられ放題なのを見かねて仲裁に入ると、兄さんの肩がプルプルと小さく震えていた。

「あぁ……そこまでこの愚弟にお優しくして下さるとは、やはり殿下は女神のようなお人だ」
「「へ?」」

予想外の言葉に僕もハンナ様も動きを止める。
顔を上げた兄さんは、今までは見たこともないくらい爽やかな笑顔をハンナ様に向けた。

「オスカート侯爵令嬢の不敬を見逃し、ミリオン元宰相の無責任な行動をも寛容に対処なさるハンナ王女殿下こそ、我がアレキウスの誇りで御座います」
「なっ……お、お世辞は別に」
「それに国一番と名高いこの愛らしお姿をこのように間近で拝見できるなんて、ロブス家最大の名誉で御座います」
「っ……そ、そう?ま、まぁ別に?話くらいならついでにしてあげても良いけど?」

(あ、ハンナさま機嫌良くなったみたい)

わざとらしいほどの媚びに気を良くしたのか、ハンナ様はフンと鼻を鳴らした。

「光栄で御座います。ですが我々の身分は子爵家、殿下と言葉を交わすことすら出来ませぬ」
「……ちょっとくらい平気よぉ」
「この場にルーシャス=ミリオンがいればまたグチグチと小言を言われてしまいます。アイツの嫌みは天下一品ですから」
「あら、ルーシャスの知り合い?」
「アカデミー時代はいつも学年一位を取り合っておりました」

ニコニコと朗らかな雰囲気の兄さん、でもその瞳の奥は全然笑っていない。

兄さんが言うには、あのおじさんはミリオン家だから特別に待遇されているんだって。アカデミーでは皆公平にしなきゃいけないのに、先生たちはあの人が次期宰相だからすっごく贔屓してたみたい。
だから兄さんはいっつも負けんだって。

(なんか……スーちゃんみたい)

平和の象徴オスカート家。
その一人娘のスーちゃんはいつも周りから注目されてた。学頭が良かったのも先生たちの贔屓があったからなのかな?

「じゃあ頭はいいのねアンタぁ」
「宜しければいつでも殿下にお教え致します。特に政治であれば高位なお役人様たちよりもリアルを伝えられますし」
「そう、かしら?」
「ええ。それに下級貴族との意見交換の場を設けて下されば、立ち話ではなくゆっくりお話が出来ますよ」

ボソリと呟けばハンナ様は少しだけ考えてみせた。

「……そうよね、国のためならたまには身分の低い者の話を聞いてみるのも悪くないわね」
「ぜひご検討を」
「フェルも来るでしょぉ?」
「えっ!は、はいっ」
「ならお父様に掛け合ってみるわ!」

そう言ってハンナ様はドレスをひらりと靡かせバタバタとどこかへ行ってしまった。
嵐のようなお人だとは思ってたけど、一体どうしちゃったんだろう……

「ふふっ……ふ、はははははっ!」
「兄さん?」
「ああも単純とは。であればわざわざ遠回りせず直接狙えば良かったな」

能面のような表情が崩れ、子供のように楽しそうに笑っている。何がなんだか分からないまま僕はただ兄さんを眺めていた。
十中八九、それはハンナ様のことだろう。

「ミリオンが不在の今、残っている役人たちはこれといった功績を残さず名ばかりのボンクラばかり。そして空いている宰相の座」
「……っ、嘘。まさかそんなっ!」

無謀だ。どう考えても。

「無知な王女バカ娘を操り、俺が国を牛耳ってやる」

自信に満ち溢れた兄さん。その目は濁っていて、僕のことなんか1ミリだって見えていない。

(どうしよう、どうしよう……スーちゃん!何とかしてよ!)
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