【完結】王女殿下、こんなあざとい婚約者(♂)でよければ差し上げます。

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16 ルーシャス視点


『守ってくれてありがとう』

少女は可憐な笑顔で言った。

泣くのを我慢していたんだろう、手のひらにはきつく拳を握っていた時に出来た爪痕がくっきりと付いていたのを覚えている。

それが俺の初恋。
この手で彼女を守ると決意した冬の出来事だ。





「出してくれ」

御者に言いきる前に馬車の扉を思い切り閉める。
待機していたシノは暇潰しに読んでいた本をパタリと閉じ、帰ってきたばかりの俺をじろじろと観察してきた。

「……機嫌が悪いのはステラ嬢に散々待たされたのが原因ではなさそうですね」
「馬鹿いうな、ステラにだったら一日中待ちぼうけを食らっても怒らない」
「相変わらずの溺愛っぷりで。では、何かありましたか」

どうやらこいつにだけはお見通しらしい。
というより、シノは俺が怒ったり焦るのはステラに関することだけだと分かっていた。

「あのバカ娘、フェルナンド=ロブスを騎士にするらしい」
「となると、やはり不正に?」
「あぁ、予想通りの展開だ」

今日行われた入団学科テスト、その試験会場であのくるくるの金髪パーマを見つけた時はやはりと察した。
学園で騎士への特待生だったフェルナンドには一応受験資格はある。が、不真面目だった話を聞くかぎり十中八九不合格だろう。しかし……

(王女の態度から見るに……教師を買収したか)

どんなに出来の悪いテストでも採点するのは一人の人間、そいつが不正を働けばどんな奴だって合格を貰える。

そしてこの方法は二次となる実技テストでも効く。

「実技テストは試験官となる元騎士団員との模擬試合でしたね。制限時間内に試験官から1本取る、これがなかなか通らないとか」
「まぁ元とはいえ相手は騎士、候補生など赤子の手をひねるようなものだよ」
「となるとフェルナンドの相手をする元騎士団員が怪しいですね。元騎士といえど全員が武勲を挙げ褒章をもらった訳ではないですし。調べておきましょう」
「助かる」

シノはすぐさま自分の手帳に書き込んだ。

考えられるのは2パターン。
金に目がくらんだ騎士か、王家の要望を全て叶えることが忠義だと勘違いしている騎士。

(前者であれば解決は早いが、後者であると厄介だな)

実技テストは学科の合否発表から1週間しか経たずに行われる。それまでに裏切り者の特定が間に合うかどうか……

「それからお耳に入れておきたい情報が一つ。近頃王女殿下が下級貴族の者たちを集めて何やら動いているようです。名目上はより市民に近い下位の声を聞く意見交換の場となっておりますが……その中心となっているのが、オルガン=ロブスだそうです」
「そうか」
「弟の汚名を返上するために子爵自らが提案したと。当初、国王陛下は王女殿下へフェルナンド=ロブスが近づくことを危惧しておられましたが……その、」
「娘に押し切られ承認した」
「……はい」

どこまでも甘い父親だ。
その浅はかな行動が娘を、国を窮地に追いやっていると何故気がつかない。

だが国王が渋々折れてしまうほどの言い訳を、あの王女が思い付くはずもない。となれば……

「オルガン=ロブスか」

裏で暗躍しているのはこいつで間違いない。

「シノ、オルガン=ロブスはどんな奴だった?」
「本当に覚えてないんですか」
「あの頃は敵が多すぎたからな」
「……ったく。ロブスは何でもそつなくこなすタイプでしたね、子爵家の生まれでなかったら間違いなく文官として出世していたでしょう。それに男子生徒や教師たちからの支持も高かったはずです」
「女子生徒からは?」
「それは貴方が根こそぎ人気をかっぱらっていたので、あえてノーカンです」

嫌みのように笑うシノの言葉はあえて聞き流す。

「ステラ嬢とフェルナンド=ロブスが婚約した後、オスカート家からの出資を元手に土地開発事業を始動。今やその業績は土木部門でも上位だとか」
「へぇ……だが地主や役人が必ず絡む話だろ?新規事業主が利益を出すには何十年もかかるはずだ」
「揉めた話が宰相ここまで上がってこないということは、よほどやり手なんでしょう」

シノの言葉が妙に引っ掛かる。

土地を所有する貴族は特に欲深い。
いくらオスカート家の後ろ楯があるとしても新参者の、しかも子爵相手にそう簡単に自分の土地テリトリーに侵入を許すだろうか。

(となると、まず間違いないな)

「シノ、その開発事業に絡んだ貴族の銀行口座と金の動きを細かく調べてくれ。妻の買い物から子供の学費まで全てだ」
「は、はい」
「それから……郊外にある娼館で、ここ最近出入りしている人物がいるかどうか。それが誰でいつなのかも詳しく知りたい」
「承知致しましたが、何故娼館なんです?」

どうやらシノは皆目検討がつかないらしい。
だが、逆に俺にはロブスの考えていることが手に取るように分かってしまう。

「野心家ってやつは何だって利用する」
「は、はぁ」
「そんな奴らが得意とするのが"交渉"さ。ニコニコと笑顔で近づき、相手が好きな物をちらつかせ信頼を勝ち取る。階段を一段ずつ登ってくみたいに」
「ロブスがそうだとして、じゃあ……」
「ああ」

馬車の窓から外を眺める。

「いつの時代も、腐った貴族を動かすのは"金"と"女"って決まってんだよ」
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