【完結】高嶺の花がいなくなった日。

文字の大きさ
5 / 17

しおりを挟む

『おい、いつもジロジロ見てきて気味が悪いんだよ』

私たちの関係が始まったきっかけはダリッジ侯爵家主催のパーティーだ。
それまではルノアの隣で見つめることしか出来なかった彼。悪態だったとしてもすごく嬉しかったの、だって王太子様が私みたいな女に声をかけて下さるなんて思ってもみなかったから……。

レイモンド様は私の好意につけ込み身体だけを求めるようになった。
ほんとにズルくて酷い男、それでも嬉しかった。

ルノアには悪いと思ってても、優越感の方が何倍も強かった。綺麗なあの子に勝った気がして……。

大丈夫、ルノアならきっと許してくれる。
賢くて優しいあの子なら、親友である私を許してくれるはず。そう、絶対に大丈夫。
私は心の中で何度も自分に言い聞かせてきた。

それなのに……




バキッ!

家に戻った私は、お父様と顔を合わせるなり突然顔を殴られた。

「お前はなんてことをしてくれたんだっ!」

お父様の怒鳴り声に侍女たちは悲鳴をあげる。私は床に倒れ込みながら顔を上げた。

「お父様……」
「黙れっ!父などと呼ぶな汚らわしいっ!」

必死に伸ばした手を振り払われる。

「あぁ……最悪だ、もうおしまいだっ!お前がルノア様と友人だというから社交場でも鼻高々でいられたのに……明日からどんな顔をして街を歩けば良いんだっ!」

頭を抱えながらソファーに座り直すお父様。側にいるお母様は私のことを一切見ようとせず、慰めるようにお父様の肩を抱いた。
重い雰囲気に耐えきれず、私は下を俯きながら口を開いた。

「……ルノアを、探してくるわ」
「……何だと?」
「る、ルノアを見つけて、ゆ、許してもらうの」

……そうよ。
確かに私は悪いことをした。でも、被害者であるルノアが許してくれれば全てが上手くいく。

「あ、あの子は優しいからきっと許してくれる!そ、そしたらまたいつも通りに……」
「お前は何も分かっていないんだな」
「へ?」

お父様は吐き捨てるように呟いた。お母様も、蔑むやうな冷たい視線で私を睨みつけてくる。

「な、何でっ?だってルノアが許してくれれば」
「これはもうお前たちだけの問題じゃないんだよ。ルノア様が許したところで、たちが黙っちゃいない!」
「あ、あの方って……」
「国王陛下の妹君であるアレグロ公爵夫人、それに王国騎士団団長のクロッガー卿、大商家のマノン一派……多くの有権者が彼女の後ろ盾になっている。そんな彼らがルノア様を傷つけたお前たちを許すと思うのか」

地鳴りのような低い声にビクッと肩が跳ねた。
その名はどれも有名な名前で、一介の子爵令嬢である私がどうこう出来る相手じゃない。

「本当なら今すぐこの国を出て身分を隠し細々と生きるのが最善だ。だが、国王陛下はそれをお許しにならなかった」

お父様の言葉にサァっと血の気が引いていった。
そうだ、国王陛下はレイモンド様と結婚し平民として暮らせと仰った。
それってつまり……

「周りから向けられる白い目に耐えながら生きていけ、そういう意図だろう」
「そ、んな……っ」

貴族の世界なら多少の常識はある。
でも平民になったら?手を出してはいけないなんて、そんな話が通用する?
ここに来て私はようやく全てを理解した。

「い、いやっ!嫌よっ!平民になりたくない……れ、レイモンド様と結婚したくない……っ!」
「もう何もかもが遅い」
「た、助けてっ!ねぇ、お願いよお父様っ!お母様っ!わ、私はただレイモンド様に憧れていただけでっ!ま、まさかこんなことになるなんて思ってなかったの!」
「うるさいっ!」

縋りつこうとすれば腕を振り払われた。

「アーシャ、お前にとってルノア様は何だ?自分を甘やかすだけの存在か?都合の良い金づるか?」
「ち、違っ……!」
「お前はいつまでも被害者ぶっているが一番お辛いのは、苦しいのはルノア様だ。……おい」

涙でぐしゃぐしゃになった私にお父様が声を掛ければ、お母様は部屋の隅に置いてあった鞄を手に取り私の前にそれを置いた。

「……少しのお金と食料が入ってるわ。あとは自分たちで何とかしなさい」
「お母様っ!」
「……ごめんね、ちゃんと育ててあげられなくて」

お母様は絞り出すように言った後、逃げるように部屋から出て行った。一度も振り返らずに。

「……しっかりと罪を償いなさい」
「っ!ま、待ってお父様っ!いかないでっ!」

お父様も部屋から出て行く。
気付けば部屋には私一人。誰もいない部屋を見渡しながら、何もかも失ってしまったのだと私は気付いた。


ねぇルノア、今、どこにいるの。

ルノアなら……優しくて大好きなルノアなら、こんな惨めで可哀想な私を許してくれるよね?
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 公爵令嬢のフィオレンサ・ブリューワーは婚約者のウェイン王太子を心から愛していた。しかしフィオレンサが献身的な愛を捧げてきたウェイン王太子は、子爵令嬢イルゼ・バトリーの口車に乗せられフィオレンサの愛を信じなくなった。ウェイン王太子はイルゼを選び、フィオレンサは婚約破棄されてしまう。  深く傷付き失意のどん底に落ちたフィオレンサだが、やがて自分を大切にしてくれる侯爵令息のジェレミー・ヒースフィールドに少しずつ心を開きはじめる。一方イルゼと結婚したウェイン王太子はその後自分の選択が間違いであったことに気付き、フィオレンサに身勝手な頼みをする──── ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

【完結】もう一度あなたと結婚するくらいなら、初恋の騎士様を選びます。

恋愛
「価値のない君を愛してあげられるのは僕だけだよ?」 気弱な伯爵令嬢カトレアは両親や親友に勧められるまま幼なじみと結婚する。しかし彼は束縛や暴言で彼女をコントロールするモラハラ男だった。 ある日カトレアは夫の愛人である親友に毒殺されてしまう。裏切られた彼女が目を覚ますと、そこは婚約を結ぶきっかけとなった8年前に逆行していた。 このままではまた地獄の生活が始まってしまう……! 焦ったカトレアの前に現れたのは、当時少しだけ恋心を抱いていたコワモテの騎士だった。 もし人生やり直しが出来るなら、諦めた初恋の騎士様を選んでもいいの……よね? 逆行したヒロインが初恋の騎士と人生リスタートするお話。 ざまぁ必須、基本ヒロイン愛されています。 ※誤字脱字にご注意ください。 ※作者は更新頻度にムラがあります。どうぞ寛大なお心でお楽しみ下さい。 ※ご都合主義のファンタジー要素あり。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

処理中です...