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3 子爵令嬢は失う
しおりを挟む彼女は完璧な人、まさに"高嶺の花"
ルノア=ダリッジ侯爵令嬢。
よく手入れされた長い金髪と澄んだ青い瞳、傷ひとつない白い肌に清廉さが溢れる佇まい。
どこに行っても彼女はみんなの視線を集めていた。
それに比べて私は……
『あら?アーシャったらまたそばかすが増えた?』
『ちゃーんとお手入れしなきゃダメよぉ?』
『君は顔さえ見なきゃいい女なんだがなぁ』
『付き合えないよ、スキモノだと思われるだろ』
友達になってくれる令嬢なんかいなかったし、私が良いと言ってくれる殿方もいなかった。なのに……
『アーシャ、いい名前ね。これからよろしく』
あの瞬間、私の世界はキラキラと光りだしたの。
「離せぇっ、はなせぇえええ!」
今、私の目の前で叫んでいるのはこの国の王子様。
美しい顔を歪ませながら暴れる姿は、さっきまで威厳に溢れていたレイモンド様とは似ても似つかない。
引き摺られるようにして部屋から出される時、扉近くで立っている私とすれ違う。
「お前のせいだっ!アーシャっ!お前のっ!」
「……レイモンド、さま」
「お前のような底辺の女、私に抱かれるだけでも褒美だというのにっ!お前なんかのせいでこの私が、わたしの人生が台無しだぁっ!」
酷く暴れるので衛兵さんたちの足が止まる。
「アーシャ!おいっ聞いてるのかっ!この不細工!」
私に罵詈雑言を投げつける彼から視線を逸らす。
「……さっさと連れて行け」
国王陛下の冷たい言葉をきっかけに、再び衛兵さんたちはレイモンド様を引き摺り歩き出す。
「許さない、ゆるさないゆるさないっ!」
退室した後もレイモンド様のお声はここまで聞こえていた。それでも……私にはどうすることも出来ない。
「キンダル子爵令嬢」
「っ……はい」
「王の前まで来なさい」
「………は、い」
体も声も震えてしまう。
私みたいな子爵家の娘が、国王陛下の御前に姿を見せることなんてまずあり得ない。
初めてお顔を拝見する国王陛下はレイモンド様とよく似たお姿だった。ただレイモンド様とは違い、その目は鋭くて怖い。何も言わなくても空気で感じ取れた。
陛下は、怒ってるんだ。
「あ……ぁ、っ」
「アーシャ=キンダル、そなたに王令を下す。廃嫡されたレイモンドと籍を入れ平民として暮らせ。ただし、キンダル子爵家との関わりを今後一切認めない」
書状を読み上げるように淡々と告げられる。
レイモンド様が廃嫡?それに私は家を出て結婚?何もかもが分からないけど……
「話は以上だ」
「おっ……お待ち下さい、陛下」
声を掛ければ周りに控える家臣らしき男の人たちが身構える。当然、身分の低い私から陛下に声を掛けるなんて御法度。それでもなりふり構わず私は前を向いた。
「は、発言の許可を……おねがい、します」
「……良いだろう」
ホッと胸を撫で下ろした。
ふぅと小さく息を吐きもう一度顔を上げる。
「れ、レイモンド様の廃嫡を、お考え直していただけないでしょうか」
「ほぉ……」
「わ、わ、わたくしなんかのせいでレイモンド様がお立場をなくされる必要はありませんっ!全てはわたくしが悪いのです……あの方は、悪くありません…」
涙が溢れてくる。そう、全部私が悪いのだ。
あの方はこんな醜い私を拾って下さった。もちろん本命にはなれなかったけど……それでも、身体だけでも愛してくれた。
私が……レイモンド様を、守らなきゃ!
「……では、全てはお前が悪いと」
「そうでございます」
「で?」
「え……?」
「それで?」
それで?
陛下は私を見下ろしながら吐き捨てた。
「全ての責任がお前にあるとして、だからどうすると言うのだ」
「ど、どうする……とは、えっと」
「察しの悪い女だな。お前がこの責任をどう取れる、そう尋ねているのだ」
「せ、責任ですか?」
これは陛下からのチャンスだ。返答によってはお咎めなしかもしれない。
考えなきゃ、私が取れる"責任"を。
「し、子爵家を出ますっ!」
「それでは足りん」
「き、キンダル家の資産を全て王家に!」
「貴様は私を馬鹿にしてるのか?」
ビクッと肩が震えてしまう。
あとは何?!何が出来る?!私が出来ることなんて……
「そうだ。お前に出来ることなんて何もない」
「っ!」
「責任を取るだと?世迷言を!」
ガタンと音を立て椅子から立ち上がる国王陛下。カツカツと音を立て私の前に立ち、そしてグッと顔を近づけて来た。
蛇に睨まれた蛙のように、指一本も動かせない。
「お前が出来ることはたった一つ。ルノア嬢への懺悔をしながら、あの馬鹿者と共に潔く散れ」
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