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第1章 少女が統べる国と嘱託補導員

057 先輩の伴侶と明日の予定

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「た、食べられるんですか? こんなに」

 テーブルに置かれた多量の肉。
 山盛りになった様は、肉屋でも始める気かと突っ込みを入れたくなるぐらいだ。
 十人で食べるにしても、食べ切れる気がしない。
 いくら奢りだからと言って、無理に頼み過ぎじゃないだろうか。
 さすがに食材を無駄にするのは避けたいところだが……。

「問題ありませんよ」
「この人、見た目通りの大食漢ですから」

 と、シニッドさんの両隣に座る、互いに顔立ちが似通った少女化魔物ロリータ二人が、俺の問いに穏やかな口調と共に答えてくれる。

「ええっと……」
「私は姉のウル」
「私は妹のルー」
「「亜人(ライカン)の少女化魔物です。シニッドと真性少女契約ロリータコントラクトを結んでいます」」
「その息の合いよう。そっくりな顔。もしかして……」
「「はい。双子です」」

 もしかしたらと思っていたが、どうやら印象通りだったようだ。
 美少女双子姉妹二人共と契約とは。中々やるな、シニッドさん。

「いや、まあ、確かに俺も大食いではあるけどよ。こいつらも俺と同じかそれ以上に食うからな。華奢な見た目で騙されんなよ?」

 彼は肩を竦めながら言う。見比べてしまうと信じられないが……。
 契約者がそう言うなら、そうなんだろう。
 食べ始めれば本当かどうか分かることで嘘は言うまい。

 ……しかし、改めて見ても禿頭とくとうで筋骨隆々とした大柄の男と二人の小柄な美少女という絵面は犯罪臭が凄まじいな。
 体格差的にはトバルの父親のエノスさんと母親のクレーフさんのそれと同じぐらいだけども、シニッドさんは如何せん顔が怖い。禿頭の上に強面だ。
 言っちゃ悪いが、ヤクザか何かかと思う。

 しかし、少女化魔物が存在するこの世界。
 これから先、こういうペアを何度も見ることになるのだろう。きっと。恐らく。
 ウルさんやルーさんのことではないが、シニッドさんが言った通り、なるべく見た目で判断しないように気をつけよう。

「お前、何か失礼なこと考えてねえか?」
「いえ」

 睨むように俺を見るシニッドさんに対し、目を閉じて簡潔に否定しておく。

「……まあ、いいけどよ」

 自白も同然の反応だが、シニッドさんは許してくれたようだった。懐が深い。

「とにかく、食いたいもんがあったら、ちゃんと自分で注文しろよ。折角の奢りだ。俺達は俺達で食い捲るからな」

 そう言うや否や、大量の肉をロースターに載せて豪快に焼き始めるシニッドさん。
 香ばしい匂いが一気に立ち込めていく。
 彼は凄まじい観察眼と大胆かつ繊細な箸さばきで、肉が焼き上がった傍から間髪容れずにタレにつけ、豪快に二、三枚一気に口の中に放り込んだ。
 ……あの動き。間違いなく身体強化しているな。
 そして、それは隣のウルさんとルーさんも同様。
 絶妙な焼き具合になった肉に素早く箸を伸ばし、シニッドさんと同等のペースで、しかし、こちらは上品さが全く損なわれない無駄に洗練された動きと共に食べ始めた。

 超高速でロースターの上を行き交う箸がぶつかり合うことはない。
 三人の素晴らしいコンビネーション、信頼関係が垣間見える。
 見る見る内に肉が減っていく。

「ほ、本当によく食べるのね」

 その様子を見て、困惑気味に呟くフェリト。
 表情を見るにイリュファ以外は皆、同じ気持ちに違いない。

「お前達も遠慮せずに食べるのだゾ」
「お金の心配はしなくていいのです……」
「トリリス様もディーム様もこう言っていますから、私達も食べましょう」

 と、慣れた様子のイリュファに促され、とりあえず俺達も注文を始めることにする。
 そろそろ空腹も限界だし、奢る側がああ言っているのだ。
 遠慮するのは逆に失礼だろう。トリリス様の性格的にも。

「サユキはイサクと同じの!」
「私は鶏肉以外なら何でもいいわ」
「プルプルしたのがいいです!」
「私は自分で頼みます」

 各々のリクエストを満たした皿が並び、俺達もシニッドさん達に倣って食べ始める。
 皆、空腹だったためか普段以上に食欲旺盛で、すぐに最初に頼んだ分だけでは足りなくなって追加を注文することになる。
 そうなると勝手を知って各々傾向が出てくる。
 俺は意図的に幅広く注文し(久し振りなのでタン多めだが)、サユキは俺の真似。
 フェリトは豚トロが気に入ったようでそれを中心に。
 リクルはコラーゲンたっぷりのホルモン。
 イリュファはエビやホタテなどの海鮮系。

「野菜も食べないと駄目だぞ」

 途中、もはや申し訳程度でしかないが、バランスを考えて言う。
 するとサユキとフェリト、リクルの三人は素直に注文したサラダをもしゃもしゃ食べるが、イリュファは聞こえなかった振りで少しの肉と海鮮盛り合わせを食べ続ける。
 実は意外と彼女、野菜が余り好きではない子供っぽいところがあったりする。
 ……まあ、基本不老の少女化魔物。偏食したところで体調を崩したりはしないし、むしろ嫌いなものを無理に食べる方が精神的な要因でダメージを受けかねないが。

「……仲がよくてよろしいですね」
「イサクは少女征服者ロリコンの才能がありますね」
「は、はあ。えっと……ありがとうございます」

 いつの間にか食事を終えて俺達の様子を眺めていたウルさんとルーさんに褒められ、しかし、その音の響きに何とも言えない気恥ずかしさを感じながら返す。

「少女化魔物と信頼関係を結ぶことは、少女征服者にとって何よりも大事なことだからな。本当の意味で強くなろうと思うなら」

 続けて、シニッドさんが二人の言葉に補足を入れる。
 それは心構えだけのことではないだろう。
 真性少女契約という明確な強さの形もまた存在しているのだから。

「で、だ。研修についての話だが……どうする? 開始は明日からがいいか? 多分、今日は朝から学園長様につき合わされて疲れてるんじゃねえか?」
「まあ、トリリス様のせいで疲れてるのは事実ですけど――」
「酷いゾ、二人共。ワタシはよかれと思ってやっているのだゾ」

 相変わらず反省の様子もなく楽しげに言うトリリス様。仕方のない人だ。
 内心呆れるが、まあ、それはいい。

「ええと、明日なんですけど……」
「明日は学園の入学式があるのだゾ」

 俺の言葉を引き継ぐようにトリリス様が言う。

「それが何か? まさか今更入学するとでも言うんですかい?」
「そんな訳ないのです。イサクの弟達が入学するので両親の代わりに式に出席したいとのことなのです。イサクは弟達のよき兄貴分として慕われているのです……」

 一言以上足りないトリリス様に代わり、おおよそのことを言ってくれるディームさん。
 彼女の存在は本当に助かる。

「ああ、成程。同じ年に少女化魔物の子供が三人。今年入学でしたかい。なら、念のために俺も警備に参加した方がいいんでは?」
「そうだナ。頼まれてくれると助かるゾ」
「別に構いませんぜ」

 どうやら村が襲われた事件は彼の耳にも届いていたらしい。
 入学式という一つの大きなイベント。狙われる可能性がないとは言えない。
 警護の人員が増えるのは頼もしい。

「じゃあ、研修は明後日からだ。さっきも言ったが、厳しく指導してやるから覚悟しろよ」

 それからシニッドさんは俺に向き直り、そう再度試すように言ってくる。

「ええ。望むところです」

 対して、俺が挑むように笑って返してやると彼はフッと表情を和らげる。
 そんな感じで、この都市における指導者との初顔合わせの昼食会は終わったのだった。
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