ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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第1章 少女が統べる国と嘱託補導員

065 少女化魔物の被害者

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「何かあったんですか?」

 件の村にシニッドさんと共に入り、手近なところにいた男性を捕まえて問う。
 不安と心配の入り混じったような表情を見るに、事情を知っているはずだ。

「あ、ああ。実は近くの川に水精の少女化魔物ロリータが出現してたんだが――」
「それは俺達も知っている。その補導のために来たんだからな」
「おお! アンタ、補導員か!」

 シニッドさんの言葉に、助かったと言わんばかりに安堵の表情を見せる村の男性。
 しかし、どういう訳か彼はすぐに顔を曇らせた。

「どうした?」
「……実はあの少女化魔物、どうやら暴走してしまったらしくてな」
「暴走!?」
「ああ。それで、そうと知らずに近づいた村の子供が……」
「まさか犠牲者が出たんですか!?」
「い、いや」

 思わず身を乗り出して強く尋ねた俺の勢いに、男性は気圧されたように後退りする。
 威圧してしまったようで申し訳ないが、幼い子供のこととなれば冷静ではいられない。
 俺は男性が遠退いた分だけ前に出て、詳細を問い質すように彼を見据え続けた。

「い、命に別条はない。だが、その、右腕を切断されてしまってな」

 何てことだ。
 適切な処置をすれば確かに命に関わる程ではないだろうけども……重傷じゃないか。
 子供が腕をなくすなんて、想像しただけで胸を掻き毟られる。

「くっつけられないんですか!?」
「この村の医者では無理だ。しかし、都市まで連れていくにも……」

 指の場合でも、再接合できる許容時間はちゃんと冷却保存していて数時間と聞く。
 交通手段がバスもどきメルカバスぐらいしかない田舎の村では厳しいか。
 一応、影の中に入って貰って俺が運ぶと言う手はあるにはあるが――。

「すみません。その子のところへ連れていって下さい」
「君を? 何をするつもりだ?」
「俺がその子の腕をくっつけます」

 一々都市の医者のところに連れていくよりも、その方が手っ取り早い。
 前世の知識に裏打ちされた祈念魔法は、こんな時のためにこそあるはず。

 とは言え、俺はまだ外見的には二次性徴前の子供。
 ともすれば妄言と捉えられ、怒りを抱かれかねない。
 呆気に取られたように口をポカンと開く男性の反応はまだマシだろう。
 焦りの余り先走ってしまった。

「できるのか? イサク」

 と、彼に代わってシニッドさんが尋ねてくる。
 その目を俺は真っ直ぐに見詰め返し、そうしながら力強く頷いた。
 それを受け、シニッドさんは男性に向き直ると一歩近づいて口を開く。

「俺からも頼む。こいつなら治療できるはずだ」
「わ、分かった」

 強面のシニッドさんに迫られ、男性は慌てたように了承した。
 シニッドさんにそのつもりはないだろうが、こちらはこちらで半ば脅したような感じになってしまった。状況が状況なので許して欲しいところだ。

「案内してくれ」

 とにもかくにも意思が変わらない内にと促され、男性は若干戸惑いながら歩き出す。
 行く先は村の外からも目立っていた場所。周囲に人の集まった家屋。
 予想通りと言えば予想通りだ。

「その人達は?」

 集まった人々の端に近づくと、その内の一人が俺達の姿を認めて尋ねてきた。

「都市から来た補導員だ。あの少女化魔物の鎮圧に来たそうだ」

 それに案内してくれた男性が答える。

「そうか! 助かった!」
「だが、その前に、アンドリューの様子を見せて欲しいとのことだ」
「アンドリューの様子を?」

 どうやら子供の名はアンドリューと言うらしい。
 治療と言わないところを見るに、俺にそれができると信じてくれてはいないのだろう。
 まあ、このなりでは当然か。

 村人達に道を開けられ、その古い日本家屋のような家に入る。
 内装を見るに、どうやらここは医療施設だったらしい。村の診療所というところか。
 案内の男性の後に続き、そのまま奥に進む。
 すると、木製の寝台に寝かされた少年の姿が目に映った。
 どうやら意識を失っているらしい。
 二の腕の半分ぐらいから先のない右腕にタオルがかけられている。
 傍には医者と思われる白衣の青年。
 それから少年の両親と兄らしき子供の心配そうな姿も見える。

「アンドリュー君の容体は?」
「……貴方は?」

 俺が尋ねると微妙に面倒臭いことになると考えてかシニッドさんが問い、医者の青年が訝しげに俺達を見ながら尋ね返す。

「水精の少女化魔物を鎮圧に来た補導員とその連れだそうだ」

 俺は単なる連れか。
 まあ、まだ補導員(仮)だから誤りとまでは言えない気もするけれども。

「応急処置は施しました。命に別条はありません。ですが、腕はもう……」
「切り落とされた腕は?」
「そちらにありますが……」

 医者の青年の視線の先。金属製のトレイのようなものに白い布がかけられている。
 盛り上がり具合から考えて、彼の言葉通り少年の腕だろう。
 ちゃんと現場から持ってきてくれていて助かった。
 それがあるとないとでは消耗が桁違いになる。

「ちょっと失礼」

 俺はそのトレイを手に取ると、素早く少年の傍に寄った。

「な、何を――」
「申し訳ありませんが、イサク様の邪魔はご遠慮下さい」

 突然の俺の動きに唯一反応して止めようとする医者の青年。
 その手を影の中から出てきたイリュファが掴む。以心伝心。助かる。
 その間に、俺は布を取り払って治療された切断面に接触させるように腕を置いた。

「命の根源に我はこいねがう。『除去』『再生』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈救世〉之〈復元〉。命の根源に我は希う。『縫合』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈救世〉之〈抑塞〉。命の根源に我は希う。『代謝』『促進』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈救世〉之〈促療〉」

 祈念魔法によって治癒し始めた患部と壊死し始めた腕の断面を除去し、健康な切断面を再生。それを接合し、同時に一気に代謝を高めて治癒させる。

「なっ!?」

 見る見る内に接合部は綺麗になり、肉の不自然な盛り上がりもなく元通りとなった。
 余りにも呆気なく完治した腕を見て、医者の青年が驚愕で言葉を失う。
 まるで何ごともなかったかのようだ。

「緊急の医療行為として、ご容赦下さい」

 役目は終わったと手を離し、一つ丁寧にお辞儀をしてから再び影の中に戻るイリュファ。
 インフォームドコンセントも糞もない無理矢理な行為。
 しかも医師免許もない人間の処置。
 乱暴な真似だったのは間違いない。

 とは言え、一応この世界でも緊急時は一般人でも医療行為を施すことは可能ではある。
 まあ、命に関わらない状況なので厳密には緊急とは言えないかもしれないが……。
 少年の人生にとっての一大事なので大目に見て欲しいところだ。

「一先ずこれで元通り動かせるはずです。経過の観察は任せます。もし異常があるようなら、都市の医者に診せて下さい」

 目を見開いたまま呆然としている医者の青年に淡々と告げ、それから同じような目を俺に向けているシニッドさんに顔を向ける。

「シニッドさん」

 用件は済んだ。
 後はこれ以上被害が増えないように、速やかに暴走した少女化魔物の補導に行くべきだ。
 声色と目線にそうした意図を込める。
 すると、彼は我に返って頷き、診療所の外に向かって歩き出した。
 俺も黙ってその後に続く。

「ま、待って!」

 と、少年の兄(仮)が慌てたように呼び止めてくる。

「お兄ちゃん達、アイツを退治しに行くんだろ!?」
「……退治じゃないよ。補導だ。暴れるのをやめて貰うんだ」

 勢い込んで迫ってくる彼に、その反応の意味を何となく察して俺は諭すように告げた。

「そんなんじゃなく! 弟をこんな目に遭わせた魔物なんか退治してくれよ!!」
「ピーター、やめなさい!」
「でも、お母さん!」

 傍にいた女性、母親に窘められ、ピーターと言うらしい少年の兄は不満げに叫ぶ。

「魔物……か」

 まだ幼いことを考慮に入れれば、何より、弟の腕を切り落とされたことを考えれば、気持ちは理解できなくもない。しかし……。

「君は何故、川に近づいたんだ?」
「え?」
「まだ大きな被害は出ていなかったとは言え、村の何人かが少女化魔物の攻撃を受けていたことは知っていたはず。大人に川には近づくなとも言われていたんじゃないか?」

 言いながらピーターの両親を一瞥すると、彼らは気まずげに俯いてしまった。
 当然、注意の一つや二つはしていただろうが、足りなかったと悔やんでいるのだろう。

「大方、度胸試しでもしていたんだろうけど」
「う……」

 俺の言葉に反論できずに口を閉ざすピーター。案の定か。

「怒るのも、相手に反省を求めるのもいい。被害が被害だからな。けど、自分の短慮を棚に上げて有無を言わさず退治してくれだなんて逆恨みも甚だしいぞ」

 自己責任とまで子供に言うのは酷だが、正直なところ何の落ち度もないとは言い難い。
 それを子供だからと流すのは、彼自身のためにならない。
 先達たる者、心を鬼にして指摘しなければならないこともある。

 まあ、治療を施して被害を最小化してから言うのは少し卑怯かもしれない。
 もしアンドリューが死んでいたら同じことは…………。
 いや、たとえそうだったとしても同じことを言わなければならない。
 俺はあくまでも補導員なのだから。その立場でものを言うだけだ。

「ましてや少女化魔物は人の思念から生じた存在。少女契約ロリータコントラクトを結ぶまでは、基になった感情に多かれ少なかれ縛られている訳だから被害者的な側面もないでもない」
「でも……」
「まともな少女化魔物なら補導の後、ちゃんと教育を受ければ己の行動をしっかり反省するはずだ。そうでないなら、いくらこの国でも厳しく処罰させられる」

 それでも唇を尖らせて未だ不満げな様子を見せながら俯くピーターに近づき、彼の顔を下から覗き込むようにしながら頭に手を置く。

「それでも納得できないって言うんなら、他人に任せず自分の手でそういう気持ちを全部ぶつけるんだ。暴走さえしてなければ、相手は言葉が通じる存在なんだから」

 納得していないのは黙りこくる様子から分かる。
 これ以上この場で言葉を重ねても効果は薄いだろう。どう結論するかは彼次第だ。
 敵視し続けることを選んだとしても、それはそれでいい。
 しかし、願わくば、少女化魔物を観測者たり得る存在としては認識して欲しいものだ。
 単なる魔物、人間に害をなすだけの下等な存在と見なすのではなく。
 少しの間、そんなことを考えながらピーターを見詰め、それから顔を上げる。
 再度シニッドさんに視線をやり、今度こそ共に診療所を出る。

「こういうこと、よくあるんですか?」
「多くはねえが、少なくもねえってところだな」

 言葉の感じからすると数%というところか。
 しかし、それでも一万人いれば数百人はいるということだしな。

「まあ、だから、人類至上主義者みたいなのも出てくるんだろうよ」

 大半は少女祭祀国家ホウゲツらしい国民性になるとしても。
 有り触れてはいないが、珍しくもない光景。特別でない出来事。
 だからこそ集団が形成されるだけの数が生じてしまい、影響力が出てきてしまう訳だ。
 無論、基本的に被害が発端である彼らを安易に責められる話でもないが。

「少なくとも、ピーター君達には冷静に判断できる大人になって欲しいものですね」
「…………お前、本当に十七歳か? あの治療の手際と言い」
「え? あ、まあ、その、父さん達の指導の賜物ですよ」

 不審の目を向けてくるシニッドさんには苦笑しつつ、誤魔化し気味の返答をしておく。
 子供が被害に遭ったこともあり、つい気張り過ぎてしまったかもしれない。
 どこに敵対者の目があるか分からないのだから、少しは自重しなければ。

「そ、それより、急ぎましょう。暴走してるのなら早く何とかしないと。村の人のためにも。その少女化魔物のためにも」
「まあ、そうだな」

 今優先すべきは事態の収拾だ。
 シニッドさんもまたそう判断し、俺達は今度こそ水精の少女化魔物の下へと急いだ。
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