ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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幕間 1→2

AR09 ささやかな前進

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「アチラでは、仏の顔も三度撫ずれば腹立てる、と言うそうだね。彼は二度目。とは言え、言動が言動だったからね。私なら三度目を待つことはできない。けれども――」

***

 少女祭祀国家ホウゲツの大都市の一つ、学園都市トコハに存在する世界最大と言って過言ではない教育機関。ホウゲツ学園。
 そこは国風に違わず少女化魔物ロリータを尊重する校風であり、人間のみならず少女化魔物をも教育する設備もまた無駄に充実している。
 職業の斡旋も手厚く、少女化魔物の失業率も極めて低いとのこと。
 少女化魔物の待遇に関しては世界一と断言していい。
 そうした状態は、少なくとも俺の故郷であるフレギウス王国では考えられない。
 少女化魔物を平等に扱うウインテート連邦共和国ですら、ここまでの厚遇はない。

 そもそも、この国自体が社会の常識から外れている。
 象徴的な存在とは言えトップに少女化魔物を据え、国内最大の教育機関の学園長、副学園長までもが少女化魔物。異常としか言いようがない。
 それでも数百年もの間、その体制のまま存続してきたのは、英雄ショウジ・ヨスキが他国に平時の干渉を禁じた以上に、質の高い戦力を保有しているからに他ならない。
 その事実を、俺は先日、身を以って知った。
 恐らく少し年上なだけで二次性徴も迎えていない人間に、完膚なきまでに叩きのめされてしまった。あの年齢の人間でああなのだから、その評価は本当なのだろう。

「ちょっと貴方、聞いてるの?」

 そんなようなことを少しばかり現実逃避気味に考えていると、眼前に立つ少女の形をした存在が不機嫌そうに問うてきた。
 今現在。俺がいるのは、ホウゲツ学園の敷地内にある少女化魔物専用の寮の前。
 そこに来た理由は、一言では言い表せない。否、自分でも完全に理解できていない。

「毎日毎日、寮の前をうろうろして。何のつもり?」

 黙る俺に更に語気を強める彼女。その容姿は見覚えのあるものだ。
 しかし、長い青髪を風で流しながら海のような深い青の瞳で俺を睨む姿は、俺の記憶の中にあるものとは似ても似つかない。
 当然だ。俺の傍にいた時の彼女、クラーケンの少女化魔物であるメイムは、常に狂化隷属の矢によって操られていたのだから。

「いや、それは、その……」

 そんな彼女の視線に射竦められ、思わずしどろもどろになる。
 ここ数日。停学処分が延長され、日課となった反省文を生徒指導室で書いた後。
 もやもやした気持ちを昇華できずにいた俺は、学生寮への帰り道の途中、毎日ここへと半ば無意識に足を運んでしまっていた。
 物陰に隠れていたつもりだが、彼女の口振りからするとバレバレだったようだ。
 これまでの価値観が顔を出し、見下していたはずの相手に恥を晒したと反射的に感じてしまって羞恥心で顔が熱くなる。

「ハッキリしなさい!」

 そうした俺の内心を読み取ったのか、ムッとしたような態度と共に強く出るメイム。
 割と気が強い性格だということも、今初めて知った。

 そんな彼女に気圧されながら、俺は何とか形だけでも取り繕おうと試みる。
 他国にありながら祖国のやり方に固執したのが敗因だったのだと自分自身に言い聞かせ、長年染みついた感情を抑え込みながら。

「わ、悪かった。その、謝りたかったんだ。おま……君に」
「………………へえ」

 詰まりながらも何とか謝罪の言葉を口にすると、メイムは驚いたような声を出す。

「で、本当のところは?」

 しかし、これもまた上辺だけだと即座に見抜かれたようで、そう簡潔に尋ねられた。
 それでも一度は驚愕を顕にしていたのは、たとえ見せかけだけであろうとも少女化魔物に謝る人間ではないと俺を見ていたからだろう。
 実際、あの日以前はその通りだった。

「……正直、分からない」
「分からない? ふざけてるの?」
「いや、本当にそうとしか言えないんだ。気づいたら、ここに来ていた。その理由が分からなくて、ただただ毎日同じことを繰り返した。…………もしかすると、こうすることで何かが変わると思ったのかもしれない」

 看破された以上、嘘をついても仕方がない。
 真正直に答え……そうしていく内に少しだけ絡まった思考がほんの一部だけ解けていき、ここに来た理由を我がことながらようやく僅かに理解する。

「セトの兄に、いや、奴の少女化魔物に負け、今までの自分を否定された。だから、分からなくなった。何が正しいのか、正しくないのか。その答えを、与えて欲しかった」
「与えて欲しいって、他人任せもいいところね」

 堰を切ったように口から出た言葉に、メイムは呆れたようにスッパリと言う。

「……けど、まあ、無駄に美辞麗句を並べて取り繕われるよりは余程マシだけど」

 一拍置き、彼女は少しだけ視線を逸らしながら続けた。
 一応、フォローしてくれたらしい。
 しかし、そこで会話が止まって沈黙が互いの間に降りる。
 短くない時間、気まずい空気が続く。
 それを嫌うように、メイムが一つ小さく嘆息してから再び口を開いた。

「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。負けたのなら、貴方の考え方は正しくなかったってことでいいんじゃないの。少なくとも貴方にとっては」
「それは、そうかもしれないが………俺がまるで敵わないと思った祖国の人間達の強さも偽りじゃない。俺が勝てなかったアイツらは正しかったのか?」

 そもそも俺が少女祭祀国家ホウゲツくんだりまで来る羽目に遭ったのは、俺ことレギオ・サラ・フレギウスが祖国では落ちこぼれだったからだ。

 ちょっとした火を出すだけの少女化魔物から生まれた男。
 王族に連なる者ながら序列は親の代で既に極めて低く、財産のほとんどは母親を買うために失われた。ホウゲツ学園への入学は苦肉の策としか言いようがなかった。
 権力争いに参加する資格もない敗北者。それを認めたくなくて、この国においては他人を見下すことでしか自分を保てなかった。

 そんなみっともない俺の考えが正しくない。それはいい。
 それはいいが、しかし……。

「俺と同じような考えを持ちながら、俺よりも遥かに強かったアイツらは一体何だ?」
「貴方にとってって言ったでしょ? まあ、正しい正しくないって言うより、適してるか適してないかって言った方が誤解がないかもだけど」
「適してるか適してないか?」
「そう。……少女化魔物として、フレギウスの王国の価値観を正しいとは思わない。けど、そういう環境で強くなれる人間は実在する。ソイツにとっては、その価値観は正しい、適してるんでしょ。けど、貴方はそうはなれなかった」

 俺の問いに、メイムは一つ頷いてから不機嫌そうに答える。
 だから、俺にとっては正しくない、か。

「貴方は貴方に適した方法を探さないといけないってこと。もしも、まだ強くなろうって意思があるんならね。そしてそれは、これまでの貴方の考え方を全て捨て去る必要もあるかもしれない」

 メイムの言葉。理屈としては分からないでもない。
 しかし、この価値観は生まれてこの方、俺の根底にあったものだ。
 簡単に切り離せるものでもない。

「俺は、どうすれば……」

 思わず、道を見失った迷子のように弱々しい声を出してしまう。
 そんな俺を前に、メイムは心底面倒そうに深い溜息をついた。

「はあ、もう。我ながら難儀な性格よね。運も悪いし。ライムの奴の言い分を鵜呑みにしてちょっと手伝ってあげたら、担当がこんなのだったんだもの」

 それから自虐するように呟くと、俺を真っ直ぐに見据えて人差し指を突きつけてきた。

「あの人に言われたでしょ? 目を開いて、もっと少女化魔物という存在を見ろって」
「それは……けど、あれだけのことをした俺には――」

 少なくとも、この学園にいる少女化魔物は近づいてこないのではないだろうか。
 それでは目を開いて見るも何もない。

「あのね。半ば強制とは言え、貴方と私は少女契約ロリータコントラクトを結んでるのよ? それは今も続いてる」

 唐突に思える内容に、俺は何が言いたいのかと首を傾げた。
 確かに俺は、暴走パラ複合発露エクスコンプレックスを使うために彼女と少女契約を結んだ。
 そして、それは未だに破棄されていないが……。

「だから、私が手伝ってあげるわ」

 一層、不本意な顔をしながら告げ、ツンとしたように斜め上に視線を逸らすメイム。
 その内容に心底驚く。
 いくら俺でも、あれだけの仕打ちをした相手に手を差し伸べることが普通ではないことぐらいは分かる。そも、こうして話す以前に足蹴にされても不思議ではない。

「この私の初少女契約が、こんな何も弁えてない馬鹿の愚かにも程がある行動に使われただけで終わるなんてハッキリ言って汚点以外の何ものでもないもの」

 そんな俺の混乱を感じ取ってか、メイムはそう理由を口にした。
 嫌な記憶を僅かなりとも書き換えたい、というところか。
 そういうことならば、少しは理解できる気がする。
 そう思っていると、メイムは「ほら」と俺に手を差し出してきた。
 意味が分からず、ただ彼女の手を見詰める。

「握手よ握手」

 すると、不満そうな声のまま強く促され、俺はその手を躊躇いがちに握った。
 触れ合った部分から、相手が人間と同じ命であることを示すような温もりが伝わる。
 顔を上げると、確かな意思を感じさせる青い瞳で俺を見ていた。
 だからなのか――。

「この学園でたくさんの少女化魔物を見て、それから結論を出しなさい」

 そんな彼女の言葉はセトの兄のものよりもスッと心の中に入ってきて、俺は少しばかり視界が開けたような、そんな気がしたのだった。

***

「三度目の正直。そうそう人は変わるものじゃないけれど、君に完膚なきまでに叩きのめされたことと、奇特な少女化魔物の温情のおかげで、彼はようやく少女祭祀国家ホウゲツらしい生き方に少しだけ目を向けてくれた訳だね」
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