ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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幕間 1→2

104 特異思念集積体と成長する器

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「イサク、サユキ、イリュファ、リクル、フェリト……そして貴方はテア」

 ホウゲツ学園職員寮の自室。
 ゴスロリ系ワンピースのスカートを畳に広げながらペタンと座るテアに、サユキが人差し指の示す方向を一つ一つ変えながら言う。
 一応、テアはそれに合わせて視線を動かしているが、それ以上の反応はない。
 まあ、彼女は赤子のようなもの。そう簡単に進展はないだろう。
 それでも、サユキを筆頭にリクルもフェリトも進んで教育を施そうとしている。
 成果が乏しくとも投げ出すことなく。どことなく楽しそうに。

 対照的に、ガラテアに強い敵意を抱いているイリュファは、複雑な顔をしながら少し離れたところでその様子を眺めるばかりだ。
 外出の際、影の中にいる時も基本こんな感じらしい。

「これが鉛筆、消しゴム、紙。それから……この絵が犬、猫、鳥、魚」

 実物と子供用の教材を使いながら続けるサユキだが、やはりテアは目線を動かすのみ。
 ガラテアの肉体であるはずのテアだが、やはり邪気のようなものは全く感じられない。
 ぼんやりとしている姿を見ていると、彼女の出自を忘れてしまいそうになる。
 服を脱がして球体関節を見れば、否が応でも思い出さざるを得ないが。
 そんなテアを見詰めながら、俺は自分自身とガラテアについて考えていた。

「なあ、イリュファ。ライムさんは、強かったな」

 そして、若干手持無沙汰になっているイリュファに話しかける。

「…………そうですね。正直、想像を超えていました」

 イリュファからすれば脈絡がなく、俺が何を言いたいのか今一分からないだろう。
 それでも彼女は、表情に疑問の色を微かに浮かべながら一先ず同意を示した。
 配慮ができるメイドさんである以上に、ライムさんの実力はイリュファ自身も認めざるを得ないものだったからに違いない

「そのライムさんをして決して敵わないとさえ言わしめたガラテア。そんな相手に、俺は本当に勝てるのか?」

 認識操作というチート染みた能力を、少女化魔物ロリータの意思を完全に無視して使用すれば彼の実力に限界はないと言っても過言ではないはず。
 それを実行するしないはともかくとして、その辺りを全く考慮に入れることなく、決して敵わないなどと言うことはないだろう。
 彼はそうした可能性も含めた上でそう断言したはずだ。

「弱気になっているのですか?」
「いや、そういう訳じゃない。ライムさんにも後は任せろって言ったしな。ただ、今一勝利への見通しが立たなくてさ」

 最大レベルのライムさんより上と想定すると、まるで勝ち目がないように思える。
 正直、それでは困る。
 救世の転生者の敗北は、世界の終わりだと言うのに。

「大丈夫です。勝ち目はあります。ただし、イサク様でなければ、救世の転生者でなければ決して生じ得ない勝ち目ですが」
「ライムさんもそんなようなことを言ってたけど、救世の転生者であるアドバンテージって前世に裏打ちされたイメージ力ぐらいのもんだぞ? 少なくとも俺の場合は」

 客観的に見て、人間が出せる最高出力(この世界基準)に簡単に近づけるだけで、人外レベルの強さに至れる訳ではない、というのが正しい評価だろう。
 勿論、それだけでも十分に優遇されている訳だが。

「そんな俺で倒せるってことなら、優秀な複合発露エクスコンプレックスを持つ少女化魔物や少女征服者ロリコンを集めて物量で押せば何とかなりそうなもんだけど……」
「強さの問題ではないのです。いえ、勿論、最低限の力は必要ですが」
「……強さの問題じゃない?」

 イリュファの返答に、どういうことだと問うように繰り返す。

特異思念コンプレックス集積体ユニークはご存知ですよね?」
「そりゃイリュファに教わったし。まあ、俺には余り関係ないって聞いてたけど」

 特異思念集積体とは、ある特定の魔物の呼び名だ。
 この世界の魔物は人間の思念の集積体であり、それ故に神話や伝説、伝承等々に登場する本来架空の存在だったものが形を伴って現れてくる。
 その中には当然ながら特に有名な個体・・が存在したりもする。
 ある種族の中で際立った強さを持ち、特別に名を持つに至った魔物。
 あるいは、そもそも同時期に一体しか存在し得ない魔物。
 言うなればネームドモンスター、あるいはユニークモンスターだ。

 そうした魔物は人間の思念が集中するため、複合発露という訳ではないものの、時に第六位階と同等の力を放つことがあると言う。
 このような魔物が特異思念集積体と呼ばれる。
 並の人間にとっては、暴走した少女化魔物並の脅威だ。

 とは言え、攻撃系のアーク複合発露エクスコンプレックスを使用できる真性少女征服者にとっては、余程特殊な逸話を持つ魔物でもない限りは敵ではない。
 何故なら、あくまでも相手は魔物。少女化魔物ではないからだ。
 有無を言わさず討伐しても何ら問題ない。
 有効な複合発露で先制攻撃して終わりだ。
 救世の転生者が出張る必要はない。
 むしろ俺が手を出せば、それで生活している人間の糧を奪うことになりかねない。

「けど、それが今、何の関係が?」

 頭の中で軽く整理してから、首を傾げつつイリュファに問う。
 まあ、わざわざ言うくらいだから関係があるんだろうけれども。

「そうした魔物も魔物の一種です。少女化魔物になる可能性があります」

 対してイリュファは、あるともないとも言わずに説明を続ける。
 結論をスパッと言わずに、迂遠に前提から話すのは彼女の悪い癖かもしれない。
 いや、俺も割とその傾向があるけれども。

「例えば、ライムの少女化魔物は二人共そうでした。認識操作の力を持つルシネは悪魔(シャックス)。転移能力を持つパレットは悪魔(サルガタナス)が基になった魔物です」

 第六位階の認識操作と転移。どちらも破格の力だ。希少性も非常に高い。
 成程。特異な魔物が基になっただけのことはある。

「逆に、何の変哲もない少女化魔物がよくも悪くも有名になり、改めて思念が集積することもあります。その場合、使用する複合発露に補正が入ったり、魔物の特徴が現れた際の副次効果が強化されたりします」

 順番が後になるか先になるかの違い。
 まあ、十分あり得る話だろう。何せ――。

祈望之器ディザイアード、特にこの印刀ホウゲツなんかも似たような仕組みで第六位階の力を得ているはずだしな。然もありなんって感じか」

 と、そこまで考えて、本題との関連性に何となく気づく。

「つまりガラテアは……」
「はい。一つの例外を除き、ガラテア程に有名な存在はいません。故に、特異思念集積体やイサク様が今おっしゃった祈望之器に近い構造で特性が付加されているのです」
「一つの例外…………つまり、救世の転生者も同じ、ってことか」
「その通りです」

 人類の脅威たるガラテア。
 それに対抗するための存在である救世の転生者。
 世界中全ての人がそう認識しているが故に――。

「五百年の蓄積。救世の転生者のみがガラテアに勝つことができた事実が転じ、ガラテアには救世の転生者以外勝てないことが一つの法則のようなものになってしまった訳か」
「はい。その共通認識により、ガラテアには救世の転生者以外の攻撃に対して強い耐性があり、反面、救世の転生者の攻撃には弱く、有効打を与えることができるのです」
「……成程な」

 ようやく理解できた。ライムさんがあそこまで頑なになっていた理由も。
 いよいよ以って責任重大だと感じる。

「とは言え、無為無策で勝てる訳ではありません。十分に力を蓄えなければ」
「分かってる。とにかく相性がいいってことが分かっただけで心の曇が晴れた。一つ一つ着実に強くなれるように頑張っていくさ」
「……はい」

 己を鼓舞するように意識的に声を明るくした俺の言葉に頷き、しかし、イリュファは一瞬だけ目線を揺らして表情に罪悪感を過ぎらせる。
 まただ。
 だが、相変わらず、その反応の理由は分からない。
 聞いても、いつものようにはぐらかされるだけだろう。
 もっともっと。無条件に頼ることができるぐらいに強くなることができれば、彼女の真実を知ることができるのだろうか。
 小さな無力感を顔には出さないまま思う。
 イリュファは最初に俺の全てを知り、それから今まで共に歩んできた仲間だ。
 それだけに、可能ならばその心に寄り添いたいものだ。
 そんなことを考えていると……。

「イサク、サユキ、イリュファ、リクル、フェリト……そして貴方はテア」

 また振出しに戻ったサユキの言葉が耳に届く。
 それに釣られるように、イリュファ共々視線をそちらに向ける。
 とは言え、テアはまた視線を動かすだけだろう。
 そう予測しながら彼女の目を見ると、丁度視線が合い――。

「イ……」

 その口が僅かに音を発した。

「あ! テアちゃん、今声を出したですよ!!」
「イサクって言おうとしたみたいね!」

 対して、リクルとフェリトが二人で盛り上がる。
 かく言う俺も思わず目を見開き、割と興奮してしまった。

「テアちゃん、サユキはサユキだよ」

 サユキもまた少し身を乗り出し、自分を指差しながら言う。
 が、今度は視線を動かすだけで、テアは声を出すことはなかった。
 それでもサユキは残念な顔はせず、嬉しそうな笑みを浮かべる。

「テアちゃんもイサクのことが好き。よかった」

 どうやらテアの反応からそう確信したようだ。
 だから、自分の名を口にしようとしてくれなくとも喜んでいるのだろう。
 好きな人を好きな人は大切な人。全く以って彼女らしい。

「一歩一歩、少しずつ頑張ろうね。テアちゃん」

 そしてテアを囲み、一層教育に熱が入るサユキ達。
 その光景を、イリュファはまたもや怒りとも悲哀とも取れない複雑な感情を視線に湛えながら見詰め続けていた。

 世界は当たり前に少しずつ変わっていくもの。
 そんな中で俺は、テアの成長が吉兆であることを願わずにはいられなかった。
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