ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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第2章 人間⇔少女化魔物

126 戦況と失敗

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 元の世界における東京近辺にある学園都市トコハを出発してから数分。
 大分県の辺りにある小都市ウラバへの千キロ弱の道のりを、アーク複合発露エクスコンプレックス裂雲雷鳥イヴェイドソア不羈サンダーボルト〉によって一気に翔け抜け、俺達は目的地付近の上空に至っていた。

「さて、父さん達は……」

 大体の位置を地図で確認した上でコンパスを使用しながら飛行してきた訳だが、当然ながらGPSなどない世界では正確無比な移動は不可能だ。
 加えて、ウラバの街中を戦場にしているとも限らない。
 可能であれば、むしろ被害の少ない別の場所に誘導しているはずだから。
 そうなると、単純にウラバを目指せばいいという話にもならなくなる。
 ここまで来ると、さすがにコンパスは当てにできない。
 最終的に頼りになるのは己の目か祈念魔法などによる探知。あるいは、その両方だ。
 この場合は……。

「イサク。雪を降らす?」
「……いや、やめておこう。それに気を取られて隙ができたりしたら危険だし、俺の予想通りなら目で見れば分かるはずだから」

 影の中から後者を提案してきたサユキに少し考えてからそう答え、俺は一定の高度を保ちながら辺りを注意深く見回した。
 日が落ちて薄暗くなった時間帯。
 それだけに、強化された視覚があれば不自然な光源は必ず目につく。
 父さん達が戦っているのであれば――。

「見えた。あそこだ」

 地上で噴き上がった炎が視界に映る。
 更に目を凝らせば、二体の巨大なドラゴンの姿。
 どうやら二人共、母さんの真・複合発露〈火炎レッド巨竜ギガ転身ドラゴナイズ〉を全力全開で使用しているようだ。加減できる状況ではないらしい。
 俺は即座にそちらへと進路を取り……しかし、その上空で一度留まって機を窺う。
 いきなり乱入して混乱させる訳にはいかない。
 ついでに戦況も確認しておくことにする。まずは対象の数からだ。

「トロールの少女化魔物ロリータが三人、サラマンダーの少女化魔物、グールの少女化魔物、ワームの少女化魔物、ウロボロスの少女化魔物がそれぞれ一人ずつ、計七人か」

 戦場は、ウラバの街から数キロというところにある見通し易い平原。
 目を向けるべき場所に当たりがつけば、暗視機能をも強化された視覚によって全体的な状況を正確に把握することができる。

「……ほとんど魔物の侵攻ですね」
「だな」

 影の中から同じ光景を見ていたイリュファの言葉に頷く。
 トリリス様の情報通り、その七人の少女化魔物達は一様に、完全に魔物化することによって生命力や再生力を強化する複合発露エクスコンプレックスを有しているらしい。
 暴走に伴って常時発動しているが故に、全員少女とは言い難い異形に成り果てている。
 まあ、同じ少女化魔物である母さんも今は似たような状態にあるが……。
 恐慌をきたしたように暴れている彼女らと、父さんと連携して理性的に戦っている母さんとでは、少し眺めただけでも印象が全く違う。贔屓目ではなく。

「うわ」
「ひい」

 と、突然血飛沫が舞い、フェリトが嫌そうな声を、リクルが小さな悲鳴を上げる。
 眼下では、人間大のウーパールーパーに似た姿で四足歩行状態にあったサラマンダーの少女化魔物が、ドラゴンと化した父さんの爪によって足を全て切り落とされていた。

「……エグイわね」
「痛そう、です」
「と、父さん、容赦ないな」

 しばらく会わない内に残虐ファイトに目覚めたのかと一瞬驚くが、直後、地面に落ちた前足や飛び散った血が分解されるように消え去ってしまった。
 更に、サラマンダーの少女化魔物の四肢の切断面から瞬時に新たな足が生えてくる。
 その光景を目の当たりにし、俺は父さんの戦い方に納得した。
 複合発露による再生能力。それも織り込み済みだった訳だ。
 ……逆に、再生を前提とした攻撃を余儀なくされているとも言い換えられるが。

「お父さんとお母さんだけ戦ってるの?」
「ん? いや――」

 純粋な疑問という風のサユキの問いかけに、他の補導員達へと目を移す。
 シニッドさん達、ガイオさん達、他の斡旋所で依頼を受けた人達。
 数にして三十二名。
 彼らは暴走した少女化魔物を取り囲んでいた。

「他の補導員達は、暴走したあの少女化魔物達を逃がしたりしないように、陣形を組んで包囲しているみたいだ。多分、交替で相手をしてるんだと思う」

 街に被害が出ることのないように。
 恐らく、半日近く膠着状態を作り続けていたのだろう。
 その予測を裏づけるように包囲の一部が前に出てきて、代わりに父さん達が下がる。

「ほら」
「あ、ホントだ」

 次に対象を直接抑える役目になったのは、ガイオさん達二人と見知らぬ補導員八人。
 数の違いは実力の差と見て間違いない。
 さすがは父さんと母さんというところか。

 しかし……対象を殺さない縛りで延々と戦い続けるのは、少々厳しいものがあるな。
 概念的な生命力と再生力のゴリ押しで来ているだけに、脳を揺さぶっての気絶、あるいはダメージの蓄積による行動不能などは見込めない。
 見た感じ狂化隷属の矢もない。
 それでも膠着状態の維持だけなら、交代要員を集めれば十分可能かもしれない。
 だが、そのためだけに複数の補導員をこのウラバに釘づけにしてしまうのは、さすがに社会全体としての損失が大き過ぎる。

 そういう意味でも確かに。
 補導よりも捕獲、対象の無力化を優先しなければならない状況と言えよう。
 ならば俺も、課せられた役目を果たすべく速やかに行動する必要がある。
 父さんと母さんが下がった今、タイミング的に介入するのにも丁度いい。
 だから俺は地上へと降下を開始し――。

「父さん、母さん」

 全身から炎を噴き出して臨戦態勢のままでいる二人に近づくと、そう呼びかけた。
 勿論、歴戦の補導員たる二人。
 降下の過程で、接近する存在に気づいて警戒していたが……。

「その声は、イサクか!?」

 子煩悩な両親だけあって、声色で即座に気づいてくれた。

「しかし、その姿は……」

 一方で、〈裂雲雷鳥・不羈〉発動状態にある俺を目にし、驚きのリアクションを示す。
 そう言えば、この姿を見せたのは初めてだったか。

「そうか。ルトアの真・複合発露じゃな」

 とは言え、外見の特徴からすぐに気づいたようで、母さんは納得したように頷いた。

「それよりも、どうしてイサクがここに? ランブリク共和国からの緊急依頼を受けたんじゃなかったのか?」
「そ、そうじゃ! そうじゃった! 一体どうしたのじゃ!?」

 父さんの言葉でハッとして、何か問題でも起きたのかと過剰に心配をし出す母さん。
 こんな場所でも相変わらずだ。

「ああ、うん。そっちは終わったから、こっちの手伝いに来たんだ」
「お、終わった、じゃと?」
「確か難易度EX級じゃなかったか?」
「まあ、言っても暴走原因が完全に分かってた案件だったから」

 ここウラバの混沌とした状況に比べれば、ランブリクの件は極めて単純明快だった。
 イメージ力に任せたゴリ押しで、即座に最上の結果を得られるぐらいには。

「それより、トリリス様からあの子達を捕獲しろって」
「む。捕獲か」

 無理矢理話を戻すと、さすがに仕事の真っ只中なので母さんも切り替える。
 初の海外出張仕事がどうだったかを詳しく話すのは後でもできる。

「……サユキとの真・複合発露じゃな?」
「うん」

 俺がここに現れた事実と捕獲という指示から即座に指示の全容を理解したように問いかけてくる母さんに、肯定の意を示す。

「なら、他の補導員達には俺が話をつけておこう。イサクは準備を」
「次の交替のタイミングで今前に出ている補導員達が下がったら、実行するのじゃ」
「分かった」

 それを受け、父さんは俺が頷くのを確認してから、複合発露〈擬光転移デミライトナイズ〉を使用して暴走する少女化魔物達を包囲する補導員達の下へと向かった。
 すぐさまトリリス様の指示を各位に伝える。が……。

「俺達が凍結しようとしても一秒も持たなかったんだぞ」
「本当にあんな子供にできるのか?」

 俺が子供のなりをしているだけに、訝しむ者も一部いた。
 どうやら同じ凍結の真・複合発露を持つ補導員もいて、既に試していたらしい。
 それで失敗していたということなら、その反応も分かる。

「いや、だが、あの勇者ジャスターと魔炎竜ファイムの息子だぞ?」
「それぐらいやれても不思議じゃないかもしれない」
「だからこそ、救援に来たんだろうしな」

 しかし最終的には、他ならぬ父さんの言葉だからと容認されたようだった。
 やはり父さんと母さんのネームバリューは凄まじいものがある。
 その点、俺はまだまだ全く敵わないな。

「よし。イサク、今じゃ!!」

 そしてガイオさん達が交替するタイミングに合わせ、俺は七人の少女化魔物達の前に出ると、間髪容れずに真・複合発露〈万有アブソリュート凍結コンジール封緘サスペンド〉を発動した。
 それによって。
 一瞬の内に彼女達は凍結し、戦闘音が響いていた平原が静まり返る。

「す、凄い……」
「正に、この親にしてこの子あり、だな」

 数秒後。
 補導員達の驚きの声が場に響き始める。
 どこか、唐突な幕切れに呆気なさを感じているような気配と共に。
 そんな中――。

「どうしたのじゃ? イサク」

 何故だか、妙な違和感があって警戒を強めながら氷漬けの少女化魔物達を見据えていると、母さんが訝しげに問いかけてきた。

「うん。ええと……」

 それに対し、違和感の正体に整理がつかないまま答えようとした瞬間。

「あ、駄目だ」

 唐突に気がついて、間の抜けた声で俺はそう口にした。
 凍結から約三十秒。
 変化のなかった氷の塊が突如として静寂を破るように震え出し、更には大きく軋みを上げ始めた。それに伴い、内側から急激に亀裂が入っていく。

「何じゃと!?」

 かと思えば、少女化魔物達を封じていた氷は瞬く間に粉々に砕け散ってしまった。
 救世の転生者が放った第六位階の攻撃にもかかわらず。

「……マジか」

 そして、思わず呆然と呟いた俺の目の前で。
 暴走する彼女達は再び、何ごともなかったかのように暴れ出してしまった。
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