ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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第3章 絡み合う道

180 愚かな襲撃の始まり

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 時刻は正午を回って少し経った頃。
 一時的に昼食を取るためか僅かに観客が減っていたものの(それでも、席は常に七割方埋まっていたが)、再び徐々に最大収容状態へと近づきつつあった。
 既に色々と食べてきていたので腹がまだ減っていない俺達はロリータコンテストの会場に留まり続けていたが、一般来場者に配慮して最後列からは移動していない。
 そして、そのまま少女化魔物ロリータ達のパフォーマンスを見守り続けていた

「セト、面白そうな子はいたか?」

 少女化魔物が入れ替わる合間に、隣のセトに声を潜めながら尋ねる。
 これまで舞台に上がった少女化魔物の数はおおよそ二十人。
 それなりに個性的な複合発露エクスコンプレックス、様々な性格の少女達がいたはずだが……。

「え? うーん……」

 セトは考え込むような素振りを見せながら、そう鈍い反応を返してくるのみ。
 しっくりこなかった、と言うよりは、単純に余り興味がないというような感じだ。
 いや、勿論、出しものとしては楽しんでいたのは隣で見ていたのだが、自分に関わりがあるものとして全く捉えていないのだろう。
 やはり、どうにも根が深い。
 ……いや、もはやそんな段階は通り過ぎ、過去のトラウマに由来する属性がセトをセトとして成り立たせる根幹の部分に融け込んでしまっている感じだ。
 あの襲撃の日から経過した時間は、既にセトの人生の半分を占めている訳だしな。
 物心ついてからと考えれば、それ以上。
 人格を構成する、切っても切り離せない一要素にまで至っていてもおかしくはない。

 その辺り、俺も割と特殊な性癖を持っているだけに矯正を強制することはできない。
 と言うか、他人に迷惑をかけない限り、他人の好みに対して矯正などおこがましい。
 ただ……ヨスキ村出身者には掟がある。
 これがこの件における唯一にして最大の問題だ。
 このまま行けば、セトはヨスキ村に帰ることができなくなってしまう。
 そうなると母さんも父さんも悲しむだろうし、前世で果たせなかった親孝行を今世の目標としている俺としては何とかしたい気持ちも強い。
 だが、先達として、兄として弟の幸せを考えるならば無理強いはできない。セトが心の底から望む未来であれば、手伝ってやりたいとも思う。
 完全に板挟みだ。

「兄さん? どうかした?」
「ん? ああ、いや、何でもないよ」

 色々と考え込んでいるとセトから不思議そうに尋ねられ、慌て気味に誤魔化す。
 どうやら、複雑な感情がちょっと表情に出てしまっていたらしい。
 とは言え、これはさすがにこの場で手軽に結論を出せる問題でもない。
 今は棚上げにしておくしかない。
 ……何だか、諸々後回しにし過ぎて、やらないといけない課題ばかり増えていくな。

「旦那様」

 軽く心の中で嘆息していると、突然レンリが警戒の色濃い声と共に注意を促すように隣(セトの逆側)から俺の手を強めに引いてくる。
 顔を特定の方向へと向けたまま、目つきを鋭くしながら。
 一体何ごとかと思いながら、そんな彼女の視線を辿る。

「……何してるんだ、あいつ。迷惑な」

 その先には、観客席の中心付近で唐突に立ち上がった男の姿があった。
 当然ながら周囲の観客に文句を言われ始めているが、全く動じる様子はない。
 業を煮やした一部が、無理矢理座らせようとしてか肩に手を伸ばしたが――。

「なっ!?」

 それが届くよりも早く対象の体は泥のようになって崩れ落ち、かと思えば、会場の各地に全く同じ姿形をした男が無数に現れた。
 この場にいた人数の一割ぐらいはいるだろうか。
 そして彼らは一斉に近くの観客に掴みかかり、背後から締め上げるように拘束する。
 俺達の傍にも一体出現していたが、それはレンリが殴り飛ばして土塊に返していた。
 だが、それは対抗する手段を持つからこその結果に過ぎない。
 捕らわれた人々は抵抗して抜け出そうと身をよじるが、複合発露によって作られた分身と思しき男達の力は並の人間に抗えるものではないらしくビクともしない。

「何をしているんですか! やめなさい!」

 そのような状況を前に、司会役にして本来は学園の警備員であるエシェトさんが職務を果たさんと、全身に鱗状の装甲を纏いながら舞台から降りてこようとするが――。

「動くな!」

 男の鋭い叫びに、彼女は身動きができなくなる。
 勿論、それに気圧されてのことではない。
 彼らは右手を、土を焼き固めて研ぎ澄ました刃の如く変化させ、それを各々が捕まえている観客の首筋に当てたからだ。
 身体強化は複合発露としてシンプルで有用だし、その度合いによっては一人でこの数を圧倒するのも容易いが、それはあくまでも一対一、一対小数を何度も繰り返す形。
 千人も超えようかという彼らに加え、人質までいる状況では彼女に手立てはない。

「……動けば、こいつらの命はない」

 悔しげに表情を歪めて舞台の上に留まるエシェトさんを狂気の滲んだ笑みを浮かべながら確認し、人質を取った犯人の常套句を口にし始める男。
 その文句は、俺も実際に前世の最後で聞いたことがある。
 少女を人質とした銀行強盗から。
 …………嫌なことを思い出させてくれるな。
 弱者を盾にしなければ満足に交渉することもできない卑怯者が。
 これ以上、そんな闖入者の身勝手につき合ってはいられない。
 苛立ちと共に攻撃寸前にまで行くが――。

「この会場の外にも俺達は存在し、同じように人質を取っている。その俺達とは感覚が繋がっていて、たとえこの場にいる俺達が一瞬で全滅しても抵抗された事実は伝わる」

 続けられた男の言葉に、俺もまたエシェトさん同様行動をとめる。
 一旦、この男ごと会場の全てを凍結してしまおうかと考えたのだが……。
 彼の言葉が正しければ、それは悪手だ。
 心の内で忌々しく舌打ちする。ある程度は計画を練ってきているらしい。
 仕方がない。まずはこいつが何を望んでいるのかを把握してからだ。
 そこに突破口があるかもしれない。

「俺の要求は二つ。今年入学したヨスキ村の子供三人を引き渡せ。もし、その中に救世の転生者がいないのであれば、救世の転生者も連れてこい!」

 ……何だと? こいつは、何を言っているんだ?
 一瞬、理解が遅れる。
 救世の転生者が目的なら、最初から救世の転生者だけを要求すればいい話だろうに。
 なのに何故、セト達三人をまず引き渡すよう求めたんだ。
 まるで弟達と何かしらの因縁でもあるかのように。

「に、兄さん……」
「あんちゃん、どうしよう」
「俺達……」

 犯人が自分達の身柄を要求していることを知り、不安げに俺を見るセト達三人。
 セトの隣にいたラクラちゃんもまた、縋るような視線をこちらに向けている。
 不安と恐怖心の中に、俺ならば万事恙なく事態を解決してくれるのではないかという期待の色が見え隠れしている。
 だが、俺は正義の味方じゃない。
 見も知らぬ大人の人質と子供達ならば、子供達の安全を優先するつもりだ。

 とは言え、最善の道を選び取ろうという気概も見せずに初っ端からそんな取捨選択をする姿を彼らに見せるのは、どう考えても好ましくない。
 ともかく人質全員を救い、子供たちの安全を確保する方法を考えなければ。

「……外の人質が面倒だな」
「ですね」

 険しい顔で同意するレンリ。
 俺達が把握できない場所にまで人質がいる状況下では、取れる選択肢は多くない。
 前世の人質事件では、長期戦に持ち込んで犯人を疲弊させる、あるいは要求を一部呑んで油断させるなどして作った隙を突いて捕縛するのがセオリーだったように思う。

 しかし、前者は現実的ではない。
 無数の人質の疲弊も考えなければならないし、この男達は単なる分身体。本体が安全な場所で休息を取っていれば、疲労など全く感じない可能性もある。
 となると後者。だが、当然ながらセト達を引き渡す訳にはいかない。
 ……こうなれば、俺が救世の転生者と名乗り出ることがベターな選択肢だろうか。
 解決には直結しないが、少しは状況が好転するかもしれない。
 今後のことを考えると避けたい方法だが、人の命には代えられない。

「その必要はないのだゾ」

 思考を巡らし、実行しようと立ち上がった瞬間、突如として背後に気配が生じ、背中に聞き覚えのある少女の声がかけられる。

「人質に関しては私達に任せて欲しいのだゾ」

 振り返ると、そこにはホウゲツ学園の学園長たるトリリス様が立っていた。

「いや、ですが――」
「たまには学園の責任者らしいところを見せなければならないからナ」

 普段通りの冗談っぽい話し方ながら、その表情と声色には強烈な怒りが滲んでいる。
 俺が思わず口を噤んでしまう程に。

「そこ! 何をしている!? 人質がどうなってもいいのか!?」

 当然と言うべきか、そんな目立つ行動を取って男達に気づかれないはずもなく、彼らは人質の首筋に鋭い刃と化した右手を押し当てながら恫喝してくる。
 これだけ人質の数が多いと、一人ぐらいなら傷つけても、となりかねない。
 危うい状況に、緊迫した空気が会場内を包む。

「お前の方こそワタシの学園で何をしている。大事な生徒達も、大切な客人達も、部下達も全て返して貰うゾ」

 そんな中にあってトリリス様は全く怯むことなく、そう淡々としながらも明確な怒気の孕んだ声と共に告げ――。
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