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第5章 治癒の少女化魔物と破滅欲求の根源
230 海水浴場到着
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「大丈夫か? 寝ててもいいんだぞ?」
「ううん、大丈夫……」
ホウゲツ学園からマナプレーン発着場へと向かうバスもどきの中、俺の問いかけにセトは瞼を重そうにしながら首を横に振った。
何とか眠気に耐えているようとしているようだ。
見たところダンやトバル、ラクラちゃんも同様だ。
どうやら楽しみで中々寝つけなかったらしい。
そういったところはまだまだ子供っぽくて微笑ましい。
「遊びに行くのに、余り無理しても仕方がないぞ?」
「うん、分かってる……」
彼らの分の荷物に関しても全て俺の影の中に放り込んであるため、たとえ眠ってしまっても俺達が背負って連れていけば道行きに問題はない。
しかし、セト達はマナプレーンに乗って離陸するまで我慢するつもりのようだ。
その瞬間をどうしても体験したいのだろう。
今、眠ってしまったら起きることができないと考えているに違いない。
何にせよ、子供には擦れた大人には分からなくなってしまう拘りがあるものだ。
俺も前世、幼い頃に似たような行動を取った記憶が朧気ながらある。
「っと、あれだな」
そのままメルカバスに揺られることしばらくして。
俺達は、海に近いところにあるマナプレーン発着場に至った。
その広い敷地には一機、より前世の飛行機に近い形状のそれの姿がある。
「お、大きいね」
それを間近で見て一時的に眠気が去ったのか、目を丸くして言うセト。
「あれが飛ぶの? 本当に?」
「祈望之器って本当に凄いんだね」
ダンとトバルもまた、感心したように各々感想を口にした。
ラクラちゃんは言葉もなく、マナプレーンを見上げている。
だが、しかし……このマナプレーンは実のところ小型機に分類されるだろう。
前世で言えば中型のジェット機ぐらいの大きさはあるものの、俺達が前回ウインテート連邦共和国に向かった時のものに比べれば遥かに小さい。
とは言え、彼らの感動に水を差すのも何なので、黙っておくことにする。
いずれ彼らも一廉の人物となれば、自然と更に大きなマナプレーンを目にすることになるだろう。
その日を新鮮な気持ちで迎えて貰いたい。
「あの、イサクさん。あれって落ちたりしないですよね?」
と、少しだけ不安そうにラクラちゃんが問いかけてくる。
彼女も飛翔の祈念魔法はできるようになったはずだが、墜落する機体の中では自由に動くことができずに巻き込まれかねないことを危惧しているのだろう。
実際、そうした状況下で、外に出さえすれば何とかなると冷静に脱出することができるかどうかは、その時になってみなければ分からない。
だが、予測し得る危険を考慮せず、子供達を乗せるような真似はしない。
「大丈夫だよ。安全だから」
そもそも祈望之器は整備不良など起きないし、故障もない。
形を保てない程に破壊尽くされなければ、機能は保持される。
そしてヴィマナの複製改良品たるマナプレーンには、概念的にバードストライクやダウンバーストなどの乱気流への備えもなされている訳で……。
それこそ意図的な攻撃でも受けない限り、墜落などあり得ない。
「万が一落ちたって、俺達がいれば何の問題もないし」
ジズの少女化魔物たるアスカと真性少女契約をした今となっては、マナプレーンごと支えて飛ぶことだって朝飯前だ。
たとえ悪意ある者が近づいてきたとしても、この大空にある限りは空の覇者たる彼女との真・複合発露〈支天神鳥・煌翼〉によって感知することができる。
「パレットさんがいれば転移もできるしね」
続けて言いながら彼女へと視線を向けると、ラクラちゃんも倣う。
すると、パレットさんは余り表情を変えないままⅤサインを作る。
そんな彼女の若干滑稽な姿と自信満々な俺の言葉にラクラちゃんは安心したようで、表情を柔らかくして頷いた。
それに頷き返し、微笑みを向けてから。
「さ、見上げてばかりいないで乗った乗った」
子供達の背中を軽く押し、皆でマナプレーンに乗り込む。
そうしてホウゲツ学園に雇われた乗務員の案内で座席に向かうと――。
「もー、待ちくたびれたっスよ」
そこには既に席に着いている、見覚えのある一人の少女の姿があった。
複製師たるアマラさんの弟子、キュプロクスの少女化魔物の彼女は……。
「え? ヘスさん?」
「そうっス。ホウゲツ期待の複製師の自分ッスよ、トバル君」
トバルと彼女自身が口にした通り、少女祭祀国家ホウゲツ最高にして世界最高の複製師と言っても過言ではないアマラさんの弟子であるヘスさんだった。
しかし、その彼女が何故ここにいるのかと首を傾げる。
トバルも同じことを疑問に思ったのか、彼はそれをそのまま口に出して尋ねた。
「工房にこもり切りだとインスピレーションが乏しくなるからって、お師匠に言われて来たッスけど……あれ? もしかして話が通ってなかったッスか?」
トバルの問いかけを受け、一転して不安そうな表情を浮かべるヘスさん。
まあ、話が伝わっていなかったことは確かだ。
しかし、別に彼女一人増えたところで問題などありはしない。
そもそも費用は学園持ちだし、俺も使いどころのない金を持っている。
勿論、複製師の仕事に支障が出ないのであれば、の話だが、アマラさんの指示ということならそこに関しても大丈夫なのだろうし。
問題があるとすれば、ヘスさん自身が準備できているかどうかだ。
段取り八分は旅行にも通ずるものがある。
「泊まりの予定ですけど、着替えとか持ってきたんですか?」
「勿論ッス。水着も新調してきたッスよ」
「じゃあ大丈夫ですね。折角だから一緒に行きましょう」
トバルの表情を見るに、彼女にも同行して欲しそうだしな。
なので彼をヘスさんの傍に据え、後は各々いいように席に着いていく。
乗務員のベルト着用指示に従って体を固定すると、やがて離陸が開始された。
この小型マナプレーンもまた、相変わらず形状からすると不可思議な垂直離陸を行い、そこから一気に加速していく。
「うわあ……」
「ホントに飛んだっ」
「凄い。こういうこともできるなんて」
「祈念魔法も使ってないのに、何だか変な感じ」
その様子に再び感嘆の声を上げる子供達。
彩りのある思い出を得られたことがありありと分かる姿を目にできるのは、俺としても実に嬉しいことだ。自然と表情も緩む。
少しの間、外を眺めていた彼らが一人また一人と眠りに落ちていく様も御愛嬌。
あの事件以来、余り真面目な顔を崩さずにいるライムさんも、そんな彼らの姿を見て穏やかな表情になっている。
両隣にいるルシネさん、パレットさんも釣られるように柔らかい雰囲気だ。
「さて、騒いで起こすと悪いし、俺達も仮眠を取るか」
トコハ-モクハ間は距離的に、ホウゲツ-ウインテート間と比べて十分の一以下。
なので、しばらく目を瞑って休んでいると一時間も経たずに目的地に近づく。
その旨の連絡を乗務員から受けて目を開き、垂直着陸の態勢に入ったマナプレーンの窓から地上を見ると、別荘のような雰囲気の大きなログハウスが目に入った。
そのすぐ傍には、機体の大きさに見合ったヘリポート的な敷地がある。
そしてマナプレーンは徐々に降下していき、そこに緩やかに着陸した。
「じゃあ、鍵を開けますね!」
案の定と言うべきか、このログハウスが滞在する場所らしい。
ルトアさんがそう言って解錠し、扉を開く。
俺達は、少し寝たことで完全に元気を取り戻したらしいセト達と共に一先ず中に入り、荷物を取り出して一息ついた。
それから少しして、ソワソワし出した子供達を見て立ち上がる。
「早速、軽く海で遊ぼうか」
「「「うん!」」」「はい!」
男女分かれて(一部俺の影の中で)水着に着替え始め、前世同様と言うべきか女性陣に比べると早く準備が終わった男性陣は先んじて砂浜へ。
表情を取り繕えずに特定の誰かを気にしている様子のセトやトバルと、二人とは対照的に既に浜辺を走り回っているダンの様子を横目で眺めつつ、ライムさんと共にパラソルやシートの用意をしながら待つ。
やがて、ログハウスの一部屋で水着に着替えた女性陣がやってくるのが見えた。
「ううん、大丈夫……」
ホウゲツ学園からマナプレーン発着場へと向かうバスもどきの中、俺の問いかけにセトは瞼を重そうにしながら首を横に振った。
何とか眠気に耐えているようとしているようだ。
見たところダンやトバル、ラクラちゃんも同様だ。
どうやら楽しみで中々寝つけなかったらしい。
そういったところはまだまだ子供っぽくて微笑ましい。
「遊びに行くのに、余り無理しても仕方がないぞ?」
「うん、分かってる……」
彼らの分の荷物に関しても全て俺の影の中に放り込んであるため、たとえ眠ってしまっても俺達が背負って連れていけば道行きに問題はない。
しかし、セト達はマナプレーンに乗って離陸するまで我慢するつもりのようだ。
その瞬間をどうしても体験したいのだろう。
今、眠ってしまったら起きることができないと考えているに違いない。
何にせよ、子供には擦れた大人には分からなくなってしまう拘りがあるものだ。
俺も前世、幼い頃に似たような行動を取った記憶が朧気ながらある。
「っと、あれだな」
そのままメルカバスに揺られることしばらくして。
俺達は、海に近いところにあるマナプレーン発着場に至った。
その広い敷地には一機、より前世の飛行機に近い形状のそれの姿がある。
「お、大きいね」
それを間近で見て一時的に眠気が去ったのか、目を丸くして言うセト。
「あれが飛ぶの? 本当に?」
「祈望之器って本当に凄いんだね」
ダンとトバルもまた、感心したように各々感想を口にした。
ラクラちゃんは言葉もなく、マナプレーンを見上げている。
だが、しかし……このマナプレーンは実のところ小型機に分類されるだろう。
前世で言えば中型のジェット機ぐらいの大きさはあるものの、俺達が前回ウインテート連邦共和国に向かった時のものに比べれば遥かに小さい。
とは言え、彼らの感動に水を差すのも何なので、黙っておくことにする。
いずれ彼らも一廉の人物となれば、自然と更に大きなマナプレーンを目にすることになるだろう。
その日を新鮮な気持ちで迎えて貰いたい。
「あの、イサクさん。あれって落ちたりしないですよね?」
と、少しだけ不安そうにラクラちゃんが問いかけてくる。
彼女も飛翔の祈念魔法はできるようになったはずだが、墜落する機体の中では自由に動くことができずに巻き込まれかねないことを危惧しているのだろう。
実際、そうした状況下で、外に出さえすれば何とかなると冷静に脱出することができるかどうかは、その時になってみなければ分からない。
だが、予測し得る危険を考慮せず、子供達を乗せるような真似はしない。
「大丈夫だよ。安全だから」
そもそも祈望之器は整備不良など起きないし、故障もない。
形を保てない程に破壊尽くされなければ、機能は保持される。
そしてヴィマナの複製改良品たるマナプレーンには、概念的にバードストライクやダウンバーストなどの乱気流への備えもなされている訳で……。
それこそ意図的な攻撃でも受けない限り、墜落などあり得ない。
「万が一落ちたって、俺達がいれば何の問題もないし」
ジズの少女化魔物たるアスカと真性少女契約をした今となっては、マナプレーンごと支えて飛ぶことだって朝飯前だ。
たとえ悪意ある者が近づいてきたとしても、この大空にある限りは空の覇者たる彼女との真・複合発露〈支天神鳥・煌翼〉によって感知することができる。
「パレットさんがいれば転移もできるしね」
続けて言いながら彼女へと視線を向けると、ラクラちゃんも倣う。
すると、パレットさんは余り表情を変えないままⅤサインを作る。
そんな彼女の若干滑稽な姿と自信満々な俺の言葉にラクラちゃんは安心したようで、表情を柔らかくして頷いた。
それに頷き返し、微笑みを向けてから。
「さ、見上げてばかりいないで乗った乗った」
子供達の背中を軽く押し、皆でマナプレーンに乗り込む。
そうしてホウゲツ学園に雇われた乗務員の案内で座席に向かうと――。
「もー、待ちくたびれたっスよ」
そこには既に席に着いている、見覚えのある一人の少女の姿があった。
複製師たるアマラさんの弟子、キュプロクスの少女化魔物の彼女は……。
「え? ヘスさん?」
「そうっス。ホウゲツ期待の複製師の自分ッスよ、トバル君」
トバルと彼女自身が口にした通り、少女祭祀国家ホウゲツ最高にして世界最高の複製師と言っても過言ではないアマラさんの弟子であるヘスさんだった。
しかし、その彼女が何故ここにいるのかと首を傾げる。
トバルも同じことを疑問に思ったのか、彼はそれをそのまま口に出して尋ねた。
「工房にこもり切りだとインスピレーションが乏しくなるからって、お師匠に言われて来たッスけど……あれ? もしかして話が通ってなかったッスか?」
トバルの問いかけを受け、一転して不安そうな表情を浮かべるヘスさん。
まあ、話が伝わっていなかったことは確かだ。
しかし、別に彼女一人増えたところで問題などありはしない。
そもそも費用は学園持ちだし、俺も使いどころのない金を持っている。
勿論、複製師の仕事に支障が出ないのであれば、の話だが、アマラさんの指示ということならそこに関しても大丈夫なのだろうし。
問題があるとすれば、ヘスさん自身が準備できているかどうかだ。
段取り八分は旅行にも通ずるものがある。
「泊まりの予定ですけど、着替えとか持ってきたんですか?」
「勿論ッス。水着も新調してきたッスよ」
「じゃあ大丈夫ですね。折角だから一緒に行きましょう」
トバルの表情を見るに、彼女にも同行して欲しそうだしな。
なので彼をヘスさんの傍に据え、後は各々いいように席に着いていく。
乗務員のベルト着用指示に従って体を固定すると、やがて離陸が開始された。
この小型マナプレーンもまた、相変わらず形状からすると不可思議な垂直離陸を行い、そこから一気に加速していく。
「うわあ……」
「ホントに飛んだっ」
「凄い。こういうこともできるなんて」
「祈念魔法も使ってないのに、何だか変な感じ」
その様子に再び感嘆の声を上げる子供達。
彩りのある思い出を得られたことがありありと分かる姿を目にできるのは、俺としても実に嬉しいことだ。自然と表情も緩む。
少しの間、外を眺めていた彼らが一人また一人と眠りに落ちていく様も御愛嬌。
あの事件以来、余り真面目な顔を崩さずにいるライムさんも、そんな彼らの姿を見て穏やかな表情になっている。
両隣にいるルシネさん、パレットさんも釣られるように柔らかい雰囲気だ。
「さて、騒いで起こすと悪いし、俺達も仮眠を取るか」
トコハ-モクハ間は距離的に、ホウゲツ-ウインテート間と比べて十分の一以下。
なので、しばらく目を瞑って休んでいると一時間も経たずに目的地に近づく。
その旨の連絡を乗務員から受けて目を開き、垂直着陸の態勢に入ったマナプレーンの窓から地上を見ると、別荘のような雰囲気の大きなログハウスが目に入った。
そのすぐ傍には、機体の大きさに見合ったヘリポート的な敷地がある。
そしてマナプレーンは徐々に降下していき、そこに緩やかに着陸した。
「じゃあ、鍵を開けますね!」
案の定と言うべきか、このログハウスが滞在する場所らしい。
ルトアさんがそう言って解錠し、扉を開く。
俺達は、少し寝たことで完全に元気を取り戻したらしいセト達と共に一先ず中に入り、荷物を取り出して一息ついた。
それから少しして、ソワソワし出した子供達を見て立ち上がる。
「早速、軽く海で遊ぼうか」
「「「うん!」」」「はい!」
男女分かれて(一部俺の影の中で)水着に着替え始め、前世同様と言うべきか女性陣に比べると早く準備が終わった男性陣は先んじて砂浜へ。
表情を取り繕えずに特定の誰かを気にしている様子のセトやトバルと、二人とは対照的に既に浜辺を走り回っているダンの様子を横目で眺めつつ、ライムさんと共にパラソルやシートの用意をしながら待つ。
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