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第5章 治癒の少女化魔物と破滅欲求の根源
AR29 女好き少女化魔物二体
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「世の出来事には必ず原因があるものだ。勿論、それが余りにも遠いところにあり過ぎると人は偶発的な出来事だと勘違いしてしまうけれど。少なくとも、何故ユニコーンの少女化魔物がアーヴァンクの少女化魔物と共にいたのか。その原因が比較的近いところにあったことは今の君も知って……ん? もしかすると、伝えていなかったかな……」
***
「やあ、初めまして。私はこの特別収容施設ハスノハの長、悪魔(アモン)の少女化魔物であるアコだ。二人共、よろしく頼むよ」
イサクによって凍結され、それに伴って意識を失ったことで暴走状態が一先ず収まっている様子のユニコーンの少女化魔物とアーヴァンクの少女化魔物。
二人が一緒に入れられた待合室風の清潔な部屋(封印の注連縄つき)の前で、私は若干陰鬱な気持ちを隠しながら、にこやかに自己紹介をした。
最初は感情的になって聞く耳持たない雰囲気だった二人も、ここにいるのは少女化魔物がほとんどだからか、説得と説明によって大分落ち着いたようだが……。
「貴様っ! 一介の少女化魔物如きがスールお姉様に何と無礼な――」
私の馴れ馴れしい態度が気に入らなかったのか、いきり立って扉の前まで迫ってくるアーヴァンクの少女化魔物。
「パロン、構いませんわ」
そんな彼女を、ユニコーンの少女化魔物は言葉で制した。
アーヴァンクの少女化魔物のパロンという名前についてはイサクからの報告にもあったが、ユニコーンの少女化魔物の方はスールと言うらしい。
「見たところ、彼女もまた誰とも少女契約すら結んでいない無垢な少女化魔物。であるならば、ワタクシの寵愛に値する存在ですもの。すぐに、貴方のようにワタクシの魅力によって恭しく傅くことになりますわ」
その彼女がパロンをとめた理由は、そんなふざけたものだった。
五百年の月日を生き、そうそう心を動かされることもなくなってきたが、この子達ような類の少女化魔物を前にすると、さすがにイラっとくる部分もなくはない。
まだまだ精神が若い証拠だと思って抑え込む。
ユニコーンの少女化魔物。
それは逸話に基づいた思念の蓄積により、女好きで高慢な性格になり易い。
聖女という世界的に高名な存在に付随しているが故に半ば特異思念集積体のような状態にあり、基になった魔物はそこらにいるものの、少女化魔物は生じにくい。
それだけ初代聖女の功績が大きいという証でもあるが……。
こうした事実が己は特別な存在だという自負を増長させる所以となり、ユニコーンの少女化魔物の高慢さに拍車をかけているのだろう。
そんな彼女だが、過去数回の話ながら割とホウゲツに発生し易い印象がある。
あるいは、この国が少女祭祀国家などと呼ばれる程度に、少女化魔物にとって居心地のいい場所だからかもしれない。
彼女らは、生き生きとした若い姿の無垢な少女のみを好む変態だし。
「さすがはお姉様! 器が大きゅうございます!」
「ふふ、褒めても何も出ませんわよ?」
「お姉様のご尊顔を拝することができるだけで十分です!」
……太鼓持ち状態なアーヴァンクの少女化魔物がちょっと煩わしい。
彼女は彼女で本来は粗暴な性格が、スールの露払いのような立場を受け入れているからか、主に近づく者を問答無用で排斥しようとする狂犬のようになっている。
これもまた一種の、恋は盲目、のようなものだろうか。いや、何か違うか。
ともあれ、実際のところ。
ユニコーンの少女化魔物は、人間の思念の蓄積であるが故に一般的に整っていることの多い少女化魔物の顔に輪をかけて美しい。
それこそ目にした者が妄信的になってもおかしくはないぐらいに。
恐らく、過去の偉人は美形であって欲しい的な願望が反映されているのだろう。
それにパロンもあてられているに違いない。
一部、怪しいことになりかけた職員もいたようだし。
……余談はここまでにして、本題に入ろう。
「あー……とりあえず確認したいんだけど、君の複合発露は任意の対象を治癒するもので間違いないかい?」
命属性を示す灰色の髪(縦ロール)を見る限り、ほぼ間違いないとは思うけれども、念のために尋ねておく。若干面倒臭くなりながら。
「ええ、勿論。高貴なるワタクシに相応しい、聖なる力ですわ」
「聖なるって、君ね……」
複合発露に貴賤はない……と言いたいところだけれども。
社会に有用かそうでないかで人間の認識に差が出るのは事実だ。
今はまだ、何やらありがたみのある光を放つとかそんな程度だが、いずれは聖邪の概念まで複合発露に持ち込まれてしまうかもしれない。
「まあ、いいや」
一先ず確認を取ることができたとして話を進めることにする。
だが、その前に一点だけ。
「ところで、君は何故、彼女と一緒にいたんだい?」
チラリとパロンに視線を向けながら問いかける。
「運命、というものでしょう」
それに対してスールは、自分に浸るようにしながら答えた。
理由になっていない。
ちょっと更に苛立ちが募るが、深呼吸しつつ自分に落ち着くよう言い聞かせる。
「ええ、正に! 突然、私の目の前にスールお姉様が現れたのです! すわ天女が舞い降りたのか、と思う程でございました!」
下らないおべんちゃらはともかくとして、パロンの答えは比較的マシだ。
少なくともスールよりは。
「突然? そこで発生したのかい?」
「違いますわ。人の手の入っていない神秘の森に生まれたワタクシに誰かが断りもなく触れ、次の瞬間、パロンの目の前にいただけのことですわ」
神秘の森はともかく、スールが口にした状況から推測するに、転移の複合発露を持った何者かが意図的に引き合わせたと考えるのが妥当か。
スールの記憶になければ顔も姿も分からないだろうが、後で改めて〈命歌残響〉を使用して確認しておくとしよう。
しかし、国の管理下にない転移の複合発露を持った少女化魔物となると、テネシスにつき従う彼女の存在が頭を過ぎる。
もっとも、わざわざアーヴァンクの少女化魔物と引き合わせるメリットが、人間至上主義組織スプレマシーにあるとはとても思えない。
スールの護衛ができたようなものだし。
その後で捕獲に動いたのも疑問だ。
……まあ、ここでは結論を出すことはできない。
この件については保留としておこう。
「とりあえず今後のことだけども、二人にはホウゲツ学園に行き、聖女候補の少女達と共に教育を受けて貰いたい」
完全に拗らせているアーヴァンクの少女化魔物も、一応は学園の数少ない女生徒と顔を合わせておいた方がいいだろう。
余程のことがない限り、彼女もまた男と少女契約を結ぶことはないはずだし。
「学園には男もいるのではなくて? 余り視界に入れたいものではありませんわ」
そんな私の提案に、不愉快そうに眉をひそめるスール。
万民を癒やして貰う以上、そんなことでは困るのだが、慣れて貰おうにも匙加減が難しい。だから、ユニコーンの少女化魔物は厄介なのだ。
「それは理解しているよ。一先ず男子禁制の施設を設けるから、そこで候補者達と共同生活を送って欲しいんだ」
「……純な少女達と一つ屋根の下、ですか。それは悪くない状況ですわね」
軽く舌なめずりをする彼女に、内心ドン引きする。
私としては少女達の貞操が心配で仕方がない。
しかし、聖女という存在の確保は、国が色々と目を瞑る程度には重要なのだ。
たとえテネシスへの対策という名目がなかろうとも。
「くれぐれも、相手の意思は尊重してくれ給えよ」
「当然ですわ。心配なさらずとも、少女達の方から求めてきますもの」
双方の合意があれば、私がとやかく言える話ではないが、節度は持って欲しい。
とは言え、今の彼女に忠告しても心に届くことはないだろう。
それに正直、この短い対話で既に酷く疲れてしまった。
暴れる危険性がないなら、もう特別収容施設の領分ではない。
だから私は、後は教育者であるトリリス達に丸投げすることにして、速やかに彼女達の移送の手続きに入ったのだった。
***
「いや、まあ、後から振り返れば予想できていたことかもだけどね。二人が一緒にいた理由は今あった通りさ。……しかし、そこに隠された何者かの意思が明らかになるのは、もう少しだけ後のことだった。こちらは君も知るところだろう」
***
「やあ、初めまして。私はこの特別収容施設ハスノハの長、悪魔(アモン)の少女化魔物であるアコだ。二人共、よろしく頼むよ」
イサクによって凍結され、それに伴って意識を失ったことで暴走状態が一先ず収まっている様子のユニコーンの少女化魔物とアーヴァンクの少女化魔物。
二人が一緒に入れられた待合室風の清潔な部屋(封印の注連縄つき)の前で、私は若干陰鬱な気持ちを隠しながら、にこやかに自己紹介をした。
最初は感情的になって聞く耳持たない雰囲気だった二人も、ここにいるのは少女化魔物がほとんどだからか、説得と説明によって大分落ち着いたようだが……。
「貴様っ! 一介の少女化魔物如きがスールお姉様に何と無礼な――」
私の馴れ馴れしい態度が気に入らなかったのか、いきり立って扉の前まで迫ってくるアーヴァンクの少女化魔物。
「パロン、構いませんわ」
そんな彼女を、ユニコーンの少女化魔物は言葉で制した。
アーヴァンクの少女化魔物のパロンという名前についてはイサクからの報告にもあったが、ユニコーンの少女化魔物の方はスールと言うらしい。
「見たところ、彼女もまた誰とも少女契約すら結んでいない無垢な少女化魔物。であるならば、ワタクシの寵愛に値する存在ですもの。すぐに、貴方のようにワタクシの魅力によって恭しく傅くことになりますわ」
その彼女がパロンをとめた理由は、そんなふざけたものだった。
五百年の月日を生き、そうそう心を動かされることもなくなってきたが、この子達ような類の少女化魔物を前にすると、さすがにイラっとくる部分もなくはない。
まだまだ精神が若い証拠だと思って抑え込む。
ユニコーンの少女化魔物。
それは逸話に基づいた思念の蓄積により、女好きで高慢な性格になり易い。
聖女という世界的に高名な存在に付随しているが故に半ば特異思念集積体のような状態にあり、基になった魔物はそこらにいるものの、少女化魔物は生じにくい。
それだけ初代聖女の功績が大きいという証でもあるが……。
こうした事実が己は特別な存在だという自負を増長させる所以となり、ユニコーンの少女化魔物の高慢さに拍車をかけているのだろう。
そんな彼女だが、過去数回の話ながら割とホウゲツに発生し易い印象がある。
あるいは、この国が少女祭祀国家などと呼ばれる程度に、少女化魔物にとって居心地のいい場所だからかもしれない。
彼女らは、生き生きとした若い姿の無垢な少女のみを好む変態だし。
「さすがはお姉様! 器が大きゅうございます!」
「ふふ、褒めても何も出ませんわよ?」
「お姉様のご尊顔を拝することができるだけで十分です!」
……太鼓持ち状態なアーヴァンクの少女化魔物がちょっと煩わしい。
彼女は彼女で本来は粗暴な性格が、スールの露払いのような立場を受け入れているからか、主に近づく者を問答無用で排斥しようとする狂犬のようになっている。
これもまた一種の、恋は盲目、のようなものだろうか。いや、何か違うか。
ともあれ、実際のところ。
ユニコーンの少女化魔物は、人間の思念の蓄積であるが故に一般的に整っていることの多い少女化魔物の顔に輪をかけて美しい。
それこそ目にした者が妄信的になってもおかしくはないぐらいに。
恐らく、過去の偉人は美形であって欲しい的な願望が反映されているのだろう。
それにパロンもあてられているに違いない。
一部、怪しいことになりかけた職員もいたようだし。
……余談はここまでにして、本題に入ろう。
「あー……とりあえず確認したいんだけど、君の複合発露は任意の対象を治癒するもので間違いないかい?」
命属性を示す灰色の髪(縦ロール)を見る限り、ほぼ間違いないとは思うけれども、念のために尋ねておく。若干面倒臭くなりながら。
「ええ、勿論。高貴なるワタクシに相応しい、聖なる力ですわ」
「聖なるって、君ね……」
複合発露に貴賤はない……と言いたいところだけれども。
社会に有用かそうでないかで人間の認識に差が出るのは事実だ。
今はまだ、何やらありがたみのある光を放つとかそんな程度だが、いずれは聖邪の概念まで複合発露に持ち込まれてしまうかもしれない。
「まあ、いいや」
一先ず確認を取ることができたとして話を進めることにする。
だが、その前に一点だけ。
「ところで、君は何故、彼女と一緒にいたんだい?」
チラリとパロンに視線を向けながら問いかける。
「運命、というものでしょう」
それに対してスールは、自分に浸るようにしながら答えた。
理由になっていない。
ちょっと更に苛立ちが募るが、深呼吸しつつ自分に落ち着くよう言い聞かせる。
「ええ、正に! 突然、私の目の前にスールお姉様が現れたのです! すわ天女が舞い降りたのか、と思う程でございました!」
下らないおべんちゃらはともかくとして、パロンの答えは比較的マシだ。
少なくともスールよりは。
「突然? そこで発生したのかい?」
「違いますわ。人の手の入っていない神秘の森に生まれたワタクシに誰かが断りもなく触れ、次の瞬間、パロンの目の前にいただけのことですわ」
神秘の森はともかく、スールが口にした状況から推測するに、転移の複合発露を持った何者かが意図的に引き合わせたと考えるのが妥当か。
スールの記憶になければ顔も姿も分からないだろうが、後で改めて〈命歌残響〉を使用して確認しておくとしよう。
しかし、国の管理下にない転移の複合発露を持った少女化魔物となると、テネシスにつき従う彼女の存在が頭を過ぎる。
もっとも、わざわざアーヴァンクの少女化魔物と引き合わせるメリットが、人間至上主義組織スプレマシーにあるとはとても思えない。
スールの護衛ができたようなものだし。
その後で捕獲に動いたのも疑問だ。
……まあ、ここでは結論を出すことはできない。
この件については保留としておこう。
「とりあえず今後のことだけども、二人にはホウゲツ学園に行き、聖女候補の少女達と共に教育を受けて貰いたい」
完全に拗らせているアーヴァンクの少女化魔物も、一応は学園の数少ない女生徒と顔を合わせておいた方がいいだろう。
余程のことがない限り、彼女もまた男と少女契約を結ぶことはないはずだし。
「学園には男もいるのではなくて? 余り視界に入れたいものではありませんわ」
そんな私の提案に、不愉快そうに眉をひそめるスール。
万民を癒やして貰う以上、そんなことでは困るのだが、慣れて貰おうにも匙加減が難しい。だから、ユニコーンの少女化魔物は厄介なのだ。
「それは理解しているよ。一先ず男子禁制の施設を設けるから、そこで候補者達と共同生活を送って欲しいんだ」
「……純な少女達と一つ屋根の下、ですか。それは悪くない状況ですわね」
軽く舌なめずりをする彼女に、内心ドン引きする。
私としては少女達の貞操が心配で仕方がない。
しかし、聖女という存在の確保は、国が色々と目を瞑る程度には重要なのだ。
たとえテネシスへの対策という名目がなかろうとも。
「くれぐれも、相手の意思は尊重してくれ給えよ」
「当然ですわ。心配なさらずとも、少女達の方から求めてきますもの」
双方の合意があれば、私がとやかく言える話ではないが、節度は持って欲しい。
とは言え、今の彼女に忠告しても心に届くことはないだろう。
それに正直、この短い対話で既に酷く疲れてしまった。
暴れる危険性がないなら、もう特別収容施設の領分ではない。
だから私は、後は教育者であるトリリス達に丸投げすることにして、速やかに彼女達の移送の手続きに入ったのだった。
***
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