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幕間 6→最終章

309 これも真性少女契約の一つの形

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 俺にダンと真性少女契約ロリータコントラクトを結んだことを持ち出され、まるで初恋が実ったばかりの初心な乙女のように恥ずかしがるヴィオレさん。
 彼女よりも外見が子供っぽい俺が言うと何様感もあるが、実に可愛らしい姿だ。
 やはり人外ロリは皆違って皆いいものだ。
 ムート辺りも、長らく敵対していたせいもあって変に構えてしまう部分もあるけれども、あのふくよかさも一つの趣と言っていい。
 それはともかくとして――。

「トリンさんとランさんもなんですよね?」
「う、うん。何て言うか、その、ね。イサクっていう大き過ぎる目標を目指しながら、日々腐らず頑張ってる姿を応援してやりたくてさ」

 俺の確認の問いに肯定で返しながら、動揺する余り、まだ尋ねていなかった動機の部分まで口を滑らせるヴィオレさん。
 姉御肌タイプの子のこういう姿は、これもまたギャップがあっていいものだ。

「お二人は?」
「ダンの訓練につき合ってるよ。その、今日は休日だからね」

 わざわざヴィオレさんがつけ足した言葉に、内心苦笑しながら頷く。
 休日だからこそ俺も妹達に会いに来たのだし、それは不要な言葉だ。
 表面上、平静を装おうとしているようだが、そうした部分から心の内が分かる。
 とは言え、いつまでもそんな姿を愛でているのは趣味が悪い。話を進めよう。

「折角なので、ダンの兄貴分として、二人にも挨拶しておきたいんですけど」
「何だい、それは。何年もつき合いのあるアタシ達の仲で改まって。皆、ヨスキ村で過ごした家族みたいなもんじゃないか」
「まあ、親しき中にも礼儀ありって奴ですよ。それに、ちょっと大きな仕事が入りそうなので、皆の顔を見ておきたいというか」

 俺がつけ加えた言葉に、一層不審そうな顔をするヴィオレさん。
 自分の言った内容を振り返ればフラグにしか聞こえないから、そんな反応をされてしまうのも然もありなんというところか。
 もしそれが本当にフラグだと言うのなら勿論、圧し折ってしまうつもりだが。

「まあ、いいや。なら、皆で行こうか」

 俺の表情から追究する程の話ではないと判断したのだろう。
 ヴィオレさんはそう言いながら訓練施設の方向へと一歩踏み出し、それから軽く促すように俺達を振り返った。
 対して、俺の右腕に抱き着いたまま話に耳を傾けていたターナが首を傾げる。

「ヴィオレさん、お散歩ですか?」

 性格はサユキに近い系統だが、幼い分だけ立ち回り方が拙いとでも言うべきか。
 彼女は静かに話を聞いているようで全く聞いていなかったらしい。
 多分、皆という自分を含む単語がヴィオレさんの口から出てくるまで、完全に己の内なる世界に入り込んでいたのだろう。

「まあ、そんなところだね」

 割とよくあることらしくヴィオレさんは困ったように言いながら、しかし、この場では話を戻さないようにするためか適当な相槌を打つ。
 何にしても、やはりターナもまだまだ子供だ。
 とは言え、目上の相手に対して丁寧な言葉遣いをできるようになっている辺り一応は、彼女も彼女なりのペースで成長していると言っていいはずだ。

「さ、行こうか」

 改めて。俺は両手に花の状態のまま、そんな俺達を気遣うように大分ゆっくり歩いていくヴィオレさんの後に続く。
 そうして訓練施設に至り、彼らが使用している部屋に入ってすぐ。

「あれ? あんちゃん? どうしたの?」

 丁度休憩を取っていたらしいダンに声をかけられた。
 どうやら今回はタイミングがよかったようだ。

「三人と真性少女契約を結んだって聞いてな。様子を見に来たんだ」

 彼の問いかけに答えながら、チラッと彼の傍にいる二人を見る。
 アラクネの少女化魔物ロリータトリンさんと、アルラウネの少女化魔物ランさん。
 彼女達はヴィオレさんとは異なり、俺の言葉に動揺した様子はない。
 トリンさんは笑顔で手を振り、ランさんは余り表情を変化させずに小さく頷く。
 俺は二人に軽く会釈してからダンに向き直って再び口を開いた。

「ダン。真性少女契約の意味、ちゃんと理解してるか?」
「勿論。その少女化魔物と一緒に生きて一緒に死ぬってことだよね?」
「そうだな」

 少女化魔物が先に死んだらその限りではないので厳密には少し違うが、人間側の理解としては俺基準で好ましい形なので肯定する。
 相手を対等に見ている感じが。
 何より、真剣なその口調。彼なりに考え抜いて真摯に選択したのだろう。

「そして、少女化魔物に不老という特性を捨てさせることでもある」

 続けて告げた俺に神妙に頷くダンの様子からも分かる。
 ただ、そこに真正少女契約の動機として最も多い恋愛的な気配は微塵も感じられないが、まあ、その重さを十分に理解してくれているのであれば問題ない。
 彼は大丈夫そうだ。
 ならばと、残る当事者へと改めて体ごと顔を向ける。

「トリンさんとランさん。これからもダンをよろしくお願いします」
「勿論! これからもずっと見守っていくから」
「任せて」

 頭を下げた俺に笑顔で応じるトリンさんと、口調は淡白ながらも真っ直ぐに目を見て頷くランさん。こちらもまた、恋愛的な雰囲気はないように思う。
 どちらかと言うと家族愛、それも親子愛のような感じか。
 ダンから彼女達への感情も、今はまだその類のものなのかもしれない。
 もっとも、ビジネスライクな真性少女契約に比べたら、余程健全な形と言っていいような気がするけれども。
 いや、当人同士が納得しているのなら外野がとやかく言うものじゃないか。
 しかし、それにしても……。

「何だいイサク。その目は」

 この話題を振った時に一人物凄く動揺していたヴィオレさんに視線をやると、彼女は文句があるのかと言わんばかりに睨みつけてくる。
 微妙に顔が赤い。色々と誤魔化そうとしているようだ。

「いえ、何でもありません」

 対して俺はそう否定しながら目を逸らし、心の中で一つ理解した。
 姉御肌の彼女こそが一番乙女だった訳だ。
 まあ、ダンの気持ち、トリンさんやランさんとの関係も含めて将来どうなっていくかは分からないけれども……。
 既成事実を武器にしようというのなら中々の策士かもしれない。
【ガラテア】を何とかしたら、ダン達の動向を見届けたいものだ。
 若干年寄り臭いが、救世の使命を果たしたら一生分働いたようなものだろう。
 後はのんびり、ヨスキ村で暮らしながら子供達の成長を見守るのも悪くない。
 ……これも何かのフラグか? まあ、いい。
 彼らのためにも、まず万難を排して救世を成し遂げなければ。
 そう己を奮い立たせるためにも、ダン以外のところにも向かうとしよう。

「ところで、セトとトバルは……アマラさんの工房か?」
「うん。朝一で出かけたみたいだよ」

 やっぱりか。まあ、休日だしな。
 セトはロト・フェイロックが起こした事件の後、大分ショックを受けていたようだったけれども、多少は持ち直したようだ。
 とりあえず、その後どうなったか様子を確認したい。

「じゃあ、俺はセト達のところに行くから……鍛錬、頑張れよ」
「うん!」

 そして、もう一度トリンさんとトランさんに頭を下げてから訓練施設を出る。
 それから一緒に見送りに出てきたヴィオレさんと向き合い……。

「余り遅くならないようにね」
「はい、夕飯までには戻ってきますので」

 俺はターナとロナを連れて、ホウゲツ学園を離れたのだった。
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