ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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最終章 英雄の燔祭と最後の救世

328 燔祭

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「ヒメ様……」
「イサク様。今こそ救世の時です。今後百年の安寧のために、どうか」

 丁寧な言葉遣いで告げながら、深々と頭を下げるヒメ様。
 感情を抑えた声と能面の如き表情は冷たい印象を抱かせる。
 だが、ほんの僅かな視線の揺れと一瞬の声の震えから、必死に為政者としての冷徹な表情を保とうとしていることが読み取れた。
 もしレンリが傍にいたら、その揺らぎに恐らく激昂していたことだろう。
 しかし、俺の中に彼女達への怒りはなかった。
 あったのは、寂しさだけだ。
 俺は、そんな感情を一先ず胸の奥にしまい込みながら――。

「テア。影の中に」
「うん」

 精神を消耗してしまった彼女を影に隠すと共に、この身に宿ったアーク複合発露エクスコンプレックスを全て発現させて印刀ホウゲツを構えた。

「イサク。もう戦いは終わったのだゾ」
「私達が偽者だと疑っているのです……?」
「……トリリス様、ディームさん。白々しい真似はやめて下さい」

 心にもないようなことを俯き加減で言う二人に対し、若干の呆れと共に返す。
 当然、戦闘態勢を解くようなことはしない。
 そうしながら彼女達よりも周囲への警戒を特に強める。

「……やはり、気づいておられるのですね」
「むしろ、気づいていて欲しかったんじゃないんですか?」

 俺の皮肉の意図を持った問いかけに、ヒメ様は表情を崩して黙り込む。
 別に憎くてそうしている訳ではない。
 これもまた彼女達が望んでいる反応だろうと思ったまでのことだ。
 真実を知られたくないという思いと同等に、救世の転生者からの糾弾を正面から受けとめねばならないという思いもまた胸の内に存在しているのだろうから。
 弱さと真面目さ。彼女達の心は責任という外殻で強固に覆われて長く長く保たれてきたが、その内側には少女の如き脆さが残されている。
 そんなことだから五百年もの間、苦しみ続けなければならなかったのだ。

「いい加減。貴方達も解放されるべきです」
「……私達は。為政者として、犠牲を容認してきた者として、この社会を守る責務があります。それから解放されようとは、思いません。ですから――」

 ヒメ様は俺の主張にそう応じながら顔を上げ、こちらを見る。
 その悲痛な表情は、彼女にそのつもりがなくとも俺に予兆を認識させた。
 周囲に展開した氷の粒子、そして風の探知に意識を集中させる。
 正にその次の瞬間。

「世界のための贄となって下さい。イサク様」

 彼女がそう告げるさ中。
 城の壁を突き抜けて、鋭い何かが超高速で飛来した。
 さすがに雷速に至った俺の最高速度程ではないが、それに準ずる速さがある。
 一瞬の判断の遅れが致命的な状況を生みかねない。
 対して、探知によって自分の心臓を目がけて迫り来る物体をタイムラグなく認識した俺は、まず氷の盾、もとい直方体を空間に作り出して射線上に配置した。
 だが、それはどうやら攻撃力に特化しているようだ。
 いとも容易く氷の塊を貫いてくる。

「っ!」

 その過程で、俺は咄嗟に氷を横に動かして軌道をずらそうとしたが……。
 突き抜けてきた飛来物は、まるで意思があるかのように軌道を修正し、速度が減衰することすらもなく一点を目指して空間を翔けてきた。
 何を置いても俺の命を奪い取ろうとするかの如く。

「なら!」

 その結果を受けて。
 俺は、矛先が明確であるが故に分かり易い軌道を読み、ギリギリまで引きつけてから回避と同時に印刀ホウゲツの返した峰を交差させるように叩きつけた。
 案の定と言うべきか、その攻撃力を得るために強度を犠牲にしていたらしい。
 俺を狙う何かは押し潰されるように破壊され、それに伴って機能が完全に失われたのか破片がバラバラと大広間の床に転がって動かなくなった。
 僅かに息をつくが、当然それ一つで終わりになるはずがない。

「どうか、御覚悟を」

 続けてヒメ様の懇願染みた言葉の間に、その何かは再び襲いかかってくる。
 二度の探知で形状を把握した限り、それは矢のように鋭く細長い物体だった。
 だが、少なくとも俺が探知可能な範囲には射手はいない。

「主様、この攻撃は全てホウゲツから飛来しているようです。今もいくつもの軌道を取りながら、無数の矢がこちらに近づいてきております」

 と、種の特性で空に属するもの全てを感知可能なアスカが小声で告げた。
 そんな遠距離からこうも正確に狙撃してきているのか。
 俄かには信じられない話だが、彼女の感知に間違いはないだろう。
 いずれにしても、この状況で優先して対処すべきは眼前のヒメ様達ではない。
 矢による攻撃を行っている何者かだ。
 故に俺は再び、投げられた球を打ち返すような形で二本目の矢を叩いて速やかに破壊すると、ホウゲツの方角へと顔を向けて足に力を込めた。
 ……しかし、それに先んじて。

「させません」

 ヒメ様の言葉と共に、大広間全体が眩い光に包まれて目が眩む。
 即座に祈念魔法を使用して視覚を調整しようとするが、効果が出ない。
 とは言え、その部分については氷と風の探知があれば大きな問題にはならない。
 それよりも問題なのは……。

「な!? 皆っ!?」

 この光が放たれた直後、影の中にいたはずの彼女達が全員、外へと引きずり出されてしまったことの方だ。

「私の複合発露エクスコンプレックス曙光禊祓しょこうみそぎはらえ〉は、光を操る力。この場の影は全て取り払いました。イサク様に、彼女達を残して去ることができますか?」

 その現象の種明かしをすると共に、答えを確信しているかのように問うヒメ様。
 少女化魔物ロリータたる彼女の基になった魔物はヴィゾーヴニル。世界樹を照らす輝きを有すると伝えられる鳥。影を消し去る力があっても不思議ではない。
 なら、まずは彼女を凍結して解除を――。

「主様! 八本同時! 来ます!」

 そこへ図ったように飛来してくる複数の矢。
 恐らく射出時の角度や向きを微妙に変えることによって、命中のタイミングを的確に操作しているのだろう。
 その標的は俺だけではなく、手の届く距離に立っているイリュファ、リクル、フェリト、サユキ、ルトアさん、アスカ、そしてテア。
 この矢は追尾機能があり、完膚なきまでに叩き壊さなければならない。
 恐らく彼女達では、たとえアスカや今のリクルであっても難しいだろう。
 実際、二人は即座に風の刃で迎撃したが、矢は正面からの攻撃はぶち抜き、側面からの攻撃に前後両断されても先端だけで彼女達の心臓を穿たんと迫り来る。

「このっ!!」

 それでも。ほんの僅かに命中に至るタイミングにズレが生じ、おかげで俺は何とか八本全てを破壊することだけはできた。
 しかし、若干離れた位置にいたイリュファを狙った最後の一本が位置的に余りにシビア過ぎて、体勢を大きく崩してしまう。

「くっ」

 まるでそれを待ち構えていたかのように。
 時間差で新たな一本が床を突き抜けて現れた。
 ホウゲツとの位置関係的に、この星そのものを貫いてきたのかもしれない。
 故にか大地によって探知が妨げられ、全員の反応が一瞬遅れてしまった。
 更に、その一撃の矛先もまた俺には向いておらず――。

「テアッ!!」

 ヒメ様が維持している影を消し去る光によって視覚がほぼ役に立たぬ中、傍で怯えたように身を縮めていた彼女の胸元に向けられていた。
 だが。ヒメ様達の計画を思えば、俺より先に彼女を殺すことはあり得ないはず。
 八本の矢も俺達が全て迎撃することを前提としたものであり、この一撃に関しても俺に決定的な隙を作るためのハッタリではないのか。
 ほんの一瞬だけそう思って即座に打ち消す。
 救世に必要な要素たる【ガラテア】は、球体関節人形の肉体が破壊されても俺と契約を結んだ状態で別の場所に発生することになる可能性がある。
 であれば、彼女達にとってもテアはもう用済みの存在なのかもしれない。
 そこまで刹那の内に考え、何とか矢を破壊しようと刀を振るおうとするが……。

「くっ」

 体勢が悪過ぎた。
 直感的に間に合わないと理解してしまう。
 だから、その瞬間。俺は刀を持たぬ手を伸ばし、テアと体を入れ替えていた。
 契約の縛りを思えば意味がないどころか愚かな選択にもかかわらず、無意識に。
 正にその直後。胸の中心を衝撃が貫く。

「がはっ」

 全身を駆け巡った痛みは、体から急激に力が抜けていくと共に麻痺していく。
 真・複合発露〈支天神鳥セレスティアルレクス煌翼インカーネイト〉が誇る最高峰の再生力も、何かに妨げられてしまっているかの如く効果が乏しい。
 祈念詠唱を口にすることすらできない。
 息が、できない。
 致命傷。
 死。
 もはや、手遅れだ。自分で確信する。
 ヒメ様達もそう判断したのだろう。周囲の光が収まっていく。
 それによって俺の状態が皆の目にも映り……。
 イリュファは罪悪感に囚われた表情で顔を背け、フェリトやリクル、ルトアさん、アスカは状況を理解できないのか呆然と立ち尽くし――。

「イ、イサク……やだ、やだあ」

 最も間近にいたテアは呆然と名を呼びながら俺に縋りつく。
 これが、今生の最期、か。
 前世と似たようなことをして、また酷い親不孝をしてしまった。
 いや、もっと酷い。結果、彼女達を巻き添えにしてしまう訳だから。
 レンリにも、悪いことをしてしまった。彼女はきっと自分を強く責めるに違いない。彼女には何の責任もないのに。
 二度目の人生にもかかわらず、悔いばかりが残る。
 俺は、そういう星の下に生まれたのだろうか。
 そんなことを考える間に、意識が徐々に遠退いていく。そして……。

「嫌……嫌ああああああああああっ!!」

 俺が最後に認識することができたのは、絶望したような表情で狂乱したかの如く叫びながら駆け寄ってくるサユキの姿だった。
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