ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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最終章 英雄の燔祭と最後の救世

AR46 イリュファ

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「ああ。君か。……うん。もう大分、落ち着いてきたよ。それにしても本当に、とんでもないことをやってくれたものだ。いや、責めている訳ではないさ。
 それより、今日は何の用だい? ……は? あの時の彼女の気持ち? そんなもの、直接聞けばいいだけの話じゃないか。隣にいるんだからさ。
 ……え? いやいや、イリュファ。恥ずかしいって……私の力を使った方が自分の口で言うより恥ずかしいんじゃないかな。気持ちどころか思考まで逐一知られるんだよ? まあ、そうしたいのなら、私はいいけれど」

***

 氷漬けになったイサク様達の傍で、私は深い後悔に苛まれていた。
 イサク様から聞いた運命を覆す方法。
 私が要となるそれは、この世界の今までのあり方を終わらせるものだった。
 だから、迷ってしまった。重過ぎる責任を恐れて。
 その結果がこれだ。

「私……私は……」

 フラガラッハによって心臓を撃ち抜かれた瞬間の彼の姿が、脳裏に焼きついて離れない。心がズタズタに引き裂かれてしまいそうだ。
 けれど、そんな罪悪感を抱く権利は私にはない。
 私は、裏切り者なのだから。
 この罪が許されることは決してない。たとえ私がいなくなろうとも。
 未来永劫、消えることはないだろう。

「イサク様……」

 涙が勝手に零れてしまう。
 こうなることは、最初から分かっていたはずなのに。
 実際、ヒメ様達と出会って救世の転生者の教育係の一人となった頃は、何を犠牲にしても【ガラテア】への復讐を果たすと覚悟を決めていた……つもりだった。
 けれど、いつしか私は、彼のことを大切に思うようになってしまっていたのだ。

「お父さん、お母さん……」

 情けなく床にへたり込みながら。
 長く長く口にしてこなかった言葉を、童女の如くポツリと呟いてしまう。
 今はもういない、大切な人達に助けを求めるように。
 それは百年前のこと。私がまだ少女化魔物ロリータではなく人間・・だった頃の話。
 私が当時暮らしていた村は、前回の救世の最終局面において【ガラテア】に操られた存在の襲撃によって多数の死者を出して壊滅した。
 その中には多くの友達や私の両親がいて……私自身もまた含まれていた。
 両親と私が死んだタイミングは少し違う。
 二人は私を庇って身代わりになり、その甲斐もなく、私もまたすぐに殺された。
 その理不尽への怒り、愛する両親を奪った者への憎悪。
 それらの感情は、死に向かって弱っていく中にあって尚、最後の思考を埋め尽くすように激しく渦巻き……。
 私は命を失うと同時に怨霊、ゴーストの魔物となったのだ。

「仇を討ちたかった……【ガラテア】を、滅ぼしたかった……」

 その後。私という人間を変質させた激情は時を経るごとに強くなり、遂には私は暴走したゴーストの少女化魔物へと進化するに至った。
 そして補導を受けて教育を施される中で、激しい憎悪によって感情を不安定にさせていた私は、それに方向性を与えて心を安定させる必要があると判断された。
 結果、ヒメ様達に引き合わされ、この大役を与えられたのだ。

「でも、私が本当に望んでいたのは……」

 今更になって、私は心の底から理解した。
 復讐がしたかった訳じゃない。それは、そうする以外なかっただけのこと。
 叶うなら、大切な人達との日々を取り戻したかった。
 大切な人達が唐突に失われるような理不尽を、少しでもなくしたかった。
 なのに今。私は両親と同じぐらいに大切な、別の意味ではそれ以上の気持ちを抱いていた人を、自分自身の裏切りによって失おうとしている。

「馬鹿だ……私は、馬鹿だ」

 もはや、子供の頃のような言葉遣いで自らを罵倒することしかできない。
 愚かな私自身を痛めつけて殺してやりたい。
 …………全てを見届けたら、そうしよう。
 後悔と共に、私はそう心に決めた。正にその次の瞬間。

「イサク君っ!!」

 ガラスが割れるような甲高い音と共に勢いよく、ルトアが結界を破って私達のいる部屋に押し入ってきた。たくさんの仲間達を引き連れて。
 そして急転直下の事態に私が動揺している間に、聖女ラクラの力によってイサク様の凍結は解除され、心臓を撃ち抜かれた致命傷も完全に癒え……。
 縋りつくサユキを宥める普段と変わらぬ彼の姿が、私の目に映った。
 思わず安堵を抱き、それによって体の力が全て消え去りそうな程の虚脱感に襲われる。それこそが私の本心であることは、きっと間違いない。
 けれど、そうした気持ちの大きさの分だけ、彼を裏切ってしまった事実が強烈な罪悪感を生んで私の胸に押し潰さんばかりにのしかかってくる。
 様々な感情が入り混じり、身動きすらままならなくなる。
 その内に、イサク様によってヒメ様達は氷漬けにされてしまい……。

「色々と言いたいことはありますが、今は一緒に来て貰います」

 取り残された私はレンリ様に無理矢理押し込められ、イサク様の影に入った。
 が、すぐに彼を討つために現れたショウジ・ヨスキ様の鏡像が放った光によって空に放り出され、気力を失って何もできずにいた私はレンリ様に抱えられて地上へと降ろされる。そこで改めて彼女と向かい合った。

「アレを引きずり出して打ち倒すことなくして、旦那様が望み、私が求めてきた新たな救世を始めることはできなかったでしょう。イリュファさんの迷いも、全くの無駄とは言えないのかもしれません。……容易く許せるものではありませんが」

 最初許容の言葉を並べつつ、しかし、最後に一転して底冷えするような声と共に告げたレンリ様に半ば頷くように俯く。
 対して彼女は、そんな私を見て深く溜息をついた。

「もっとたくさん罵って、何なら引っ叩いてやるぐらいのつもりでしたが、今の貴方を見ると不要でしょう。……貴方はもう少し、自分の中の旦那様への気持ちの大きさを自覚した方がいいと思います」

 そう告げると、レンリ様は空で世界最強の存在に挑むイサク様を見上げる。
 本当なら敵うはずもない実力差。
 しかし、運命に抗うという言葉を実証するように、彼は今の私では認識することもできないような苛烈な攻撃を防ぎ続けている。
 やがて。彼は仲間達の力を全て用い、霊鏡ホウゲツを破壊した。
 そして祈望之器ディザイア―ドが安置されていた地下から戻ってきた彼を、一連の戦いの中で正に彼の助けとなった仲間達が取り囲む。

 裏切り者の私はもう、あの輪の中には入れない。
 危機を脱し、最強を乗り越えるに至った力にも、私の力は含まれていない。
 私は、イサク様の傍にはいられない。
 そう考えながら一人俯いて端の方で佇んでいると……。
 イサク様がこちらを向いて、ゆっくりと近づいてきた。
 傍にいる資格もないと思いながらも、私には逃げるだけの気力もなかった。

「イリュファ」
「イサク様……」

 目の前に立って名前を呼ぶ彼の声に、恨みや怒りの感情はない。
 むしろ親愛と気遣いの色だけが滲んでいる。
 対する私はそのことに戸惑いながら、ただ視線を逸らすことしかできなかった。

***

「成程。未だにイサクを裏切ってしまったと悔いている訳だね。これはその罰ってところか。いや、イリュファの気持ちは分からなくもないけれどね。そうせざるを得ないように追い込まれていた君でこれなら、進んでイサクを犠牲にしようとしていた私達は一体どんな重罰を受けなきゃいけなくなるのさ。
 ……え? それはまた今度って……えっと、その、うん。覚悟は、できてるよ。
 …………ちょ、冗談って君ね。私は本気で……うぅ……これも罰、なのかな。
 でも……君がこうして変わらず接してくれるのは幸せなこと、なんだろうね」
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