第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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最終章 転生野球大戦編

327 グループリーグ第3戦目、試合後

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「勝った、か」

 最後のバッターを打ち取ってホッと一息つく。
 終わってみれば14-6。8点差で決着。
 グループリーグ第1戦目、第2戦目と比べると常識的な数字ではあるものの、常識の中で比較するなら大差と言って差し支えないスコアとなった。

 これはやはり準備の差。
 このWBWに向けて費やすことのできた時間の差だろう。
 オランダ代表のフェリクス選手が本格的にチーム作りに集中できるようになったのは、日本で言うところの高校の段階からだった。
 小学校から中学校に相当する段階では【経験ポイント共有】が悪影響を及ぼして努力は空回りするばかり。糠に釘、暖簾に腕押しのような状態だった。
 個人的に座学を積み重ねることぐらいはできたかもしれないが……。
 十分に場数を踏んだ転生者級の仲間を、何人も育成できる環境ではなかった。

 一方で彼がプロ野球選手になってからは元々活躍していた選手のステータスが大幅に底上げされ、オランダの総合力自体は大分高くなっていた。
 おかげで代表チームとしては転生者のいない国とは隔絶したレベルに至った。
 、打倒アメリカ代表を掲げ、ステータスをカンストした上で更にプラスアルファを常に模索してきた俺達とは意識的な部分に差があったのだろう。
 これが特に大きかったのだと思う。
 そういう意味では――。

「イタリアの方が多分強敵」

 あーちゃんがポツリと呟いた通りかもしれない。

 イタリアの転生者たるルカ選手は、野球選手が自由に国家間の移動を行えるようにWBWで優勝して制度を変えようとしている。
 恐らく、他国の女性スポーツ選手をイタリアに呼び寄せるためだろう。
 あの野球狂神に求められたからというだけでなく、その上に個人的な欲が乗っかっているルカ選手の方がモチベーションの面で優位でも何ら不思議ではない。
 そういった意味では、親孝行という今生における個人的な目標を既にある程度達成してしまっている俺でも敵わない可能性がある。
 そんなようなことを、観客席の日本応援団に頭を下げながら考えていると――。

「しゅー君」

 同じように観客に応えていたオランダ代表の中からフェリクス選手が1人俺達に近づいてきたのを、あーちゃんが俺の名を呼んで知らせてきた。
 また何か罵倒されるのかと少し身構える。
 あーちゃんに至ってはあからさまに睨んでいる。
 対するフェリクス選手は何とも気まずそうな表情を浮かべていた。

『……あの投球法を行うために意図してそのスキル構成にしたのか?』

 そして口にしたのはそんな問いかけ。
 隣であーちゃんが以前と同じように首を傾げる。
 彼女にも【外国語理解(野球)】を持たせているのだから、前世とそれに連なるような話題を安易に口にするのは勘弁して欲しいところだ。
 フェリクス選手は割と迂闊な部分があるのかもしれない。

「あーちゃん、ちょっと彼と2人だけで話したいんだけど」

 俺のお願いに対し、彼女はそうするのは少し受け入れがたいと言いたげな否定的な感情と共にフェリクス選手をチラッと見た。
 申し訳ないが、断片的な情報が伝わって変な解釈をされてしまうのも嫌だ。
 なので、この場は理解して欲しい。
 そういった思いを込め、あーちゃんを真っ直ぐ見て「頼む」と続ける。

「ん…………しゅー君がそこまで言うなら、分かった。けど、いつか話せる時が来たら、わたしにも話して欲しい」

 まあ、ここまであからさまな反応をしてしまったら彼女も色々と気づかずにはいられないし、気づかない振りもできないだろう。
 前々から【以心伝心】で違和感も抱いていたはずだしな。
 それでもあーちゃんの【好感度】に変化はなく、いつかで済ませてくれている。
 そんな理解のある彼女に対し、ここまで察せられてしまったにもかかわらず隠しごとを続けるのはさすがに憚られる。

「ああ。必ず」

 だから俺はその場限りの誤魔化しではなく、確かな約束として答えた。
 それもまた【以心伝心】で伝わり、あーちゃんは喜びの気持ちを返しながら微かな笑みを浮かべて頷くと俺達から離れていった。
 フェリクス選手と向き直る。
 彼はそんなあーちゃんの背中を難しい顔で見送ってから、再びこちらを見た。

『先程の質問の答えですが、元々は意図したものではありません。ただ――』
『ただ?』
『今生程ではないにせよ、前世も日本という国は野球が盛況で、俺も子供の頃からそれなりに野球が好きでした。特に好きなプロ野球選手もいました』

 フェリクス選手は俺の話に耳を傾けている。
 試合前とは違って聞く気があるようだ。
 あの時は時間が限られていたのもあったのかもしれない。

『その選手は破竹の勢いで活躍を重ね、いずれは球界の記録を塗り替えるだろうと思われていましたが、プレイ中に大怪我をして選手生命が絶たれてしまいました』
『……スポーツにはつきものだ。俺も応援していたサッカー選手が怪我でシーズンを棒に振った記憶はある。復帰はしたから選手生命に関わる程ではなかったが』
『俺の場合は好きになった選手が何人も復帰の目もなく、ただ悲嘆と共に競技から去っていって……それを見て怪我というものがトラウマになりました』

 結果、特定の選手のファンになることができなくなった。
 競技全体を広く浅く見渡すだけになった。

『怪我なんて要素、この世に存在しなければいいのにと今でも思っています』
『……それで【怪我しない】と【衰え知らず】か』
『ええ。正直、それ以外の【生得スキル】は候補にも挙がりませんでした。短絡的で自分勝手と言われれば、それは間違ってはいないと思います』

 俺の言葉に、フェリクス選手は一層きまりが悪そうに視線を逸らす。
 フォローしたつもりだったが、ちょっと嫌味っぽかったかもしれない。

『短絡的とは言っていない……』

 おっと。無意識に盛ってしまったか。
 いや、確か堕落したとかは言っていたよな。
 そっちの方が強い言葉な気がする。
 まあ、それはともかくとして。

『投球に【怪我しない】を応用したのは、その、ゲーマー特有の仕様の悪用みたいなところがありますね。そういうのを模索するのがさがと言うか何と言うか』
『意味は分からないでもないが……』

 フェリクス選手は変な顔になって首を傾げた。
 どうやらゲーマーにたとえたところに引っかかりを覚えたようだ。
 今生の俺は長らくゲーム感覚でいた部分があったが、彼は違ったのだろう。
 2度目の人生を新たな機会として真面目に歩んできたのかもしれない。
 とりあえず軌道修正しよう。

『何にせよ、考えて考えて考え抜かないとアメリカには絶対勝てないと思うので』
『……そうだな』

 フェリクス選手は同意するとしばらく瞑目した。
 納得したかどうかはさて置き、一先ず咀嚼しているようだ。
 それから彼は目を開けて再び口を開いた。

『怪我にトラウマがあると言いながら、彼女達にまで【全力プレイ】と【身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ】を取得させた理由は?』

 新たな問いと、偽りなく答えて欲しいと言うような厳しい視線。
 どうやら俺に対して反感を抱いた原因の一部にはそれもあったようだ。
 正直、俺としてもそこを突かれると弱い。耳が痛い。

『言い訳になりますが、限界以上の力を得ることは体を酷使することとして怪我の危険性が高くなるとは伝えています。スキル云々には触れていませんが……』

 本当に弁明している気分でフェリクス選手の顔色を伺いながら告げる。

『それでも彼女達はそれを強く望みました。イタリア代表との練習試合で自分達の力不足を感じて、どうにか戦力になりたいと。たとえ怪我のリスクがあろうとも』

 フェリクス選手は黙って俺を見詰めている。
 表情からも胸の内を読み取ろうとしているかのように。

『その意思を俺の一存で妨げるのも、彼女達の決意への冒涜になるでしょう』
『……その結果として怪我をしてしまったとしても?』

 問いの形で改めてその可能性を指摘され、思わず俯いてしまう。
 しかし、スキル取得を今更なかったことにはできない。
 時は戻すこともできない以上、答えは1つだ。

『後悔は、するでしょう。けど、もしそうなってしまったら、彼女達のその後の人生のために俺にできることは何でもするつもりです』
『……そう、か』

 フェリクス選手は再度目を瞑り、考え込むように眉間にしわを寄せた。
 それから葛藤を滲ませるように表情を歪ませる。

『あの?』
『…………すまなかった』
『え?』
『事情も何も考えず思い込みで罵倒してしまったこと、謝罪させて欲しい』

 頭を下げるフェリクス選手に慌てる。
 試合の前後で急に変わり過ぎではとも思うが、根は素直な性格なのだろう。

『この試合で俺は、お前の粗を探してやろうと目を凝らして見続けた。そうして分かったのは、お前が打倒アメリカに真摯に向き合っていることだった』

 災い転じて福となすではないが、反感が細かい部分への観察に繋がったらしい。
 とは言え、そこから得られた情報に対して余計なバイアスを入れることなく、そのまま飲み込むことができるのは美徳と言っていい。

 試合の後だ。
 ラグビーではないが、ノーサイドでいい。

『受け入れます。同じ転生者として、関係改善できれば幸いです』
『ああ』

 俺が手を差し出しながら言うと、フェリクス選手は頷いてそれを握った。
 彼は、まあ、割と普通の人だ。
 エドアルド・ルイス選手のように話が通じない人間でもなく、ルカ選手のように別の意味で突飛で価値観が合わないタイプとも違う。
 とにかく第1印象が悪かっただけだ。

『まだ決勝トーナメントが残ってはいるが、少なくとも今のネーデルラントはアメリカに挑むには不十分だと痛感した。次を見据えていきたいと思う』

 俺は今回のWBWをアメリカに勝てる最初で最後のチャンスと捉えている。
 だが、どんな結果になろうとも今生はまだまだ続いていくことになる。

『お前を見習って俺にできることを探していくつもりだ。今からでも』
『はい』

 フェリクス選手の言葉に頷く。
 もっとも、俺達は今ここが最後と全てを懸けるべきだろう。
 しかし、次が始まったら彼とのやり取りを思い出すべきだ。
 できることを探して次に備えなければならない。
 そう思いながらも一旦その考えを封印し、俺は次の戦いに意識を向けた。
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