第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

文字の大きさ
429 / 435
最終章 転生野球大戦編

330 ロシア戦直前緊急ミーティング

しおりを挟む
「明日に控えたロシアとの準決勝戦における日本の戦い方を説明する前に、まずスターティングオーダーを発表したいと思います」

 SIGNで通知された時間通りにホテルの貸し会議室に集まった選手達を一通り見回してから、落山監督がそう静かに切り出した。
 それに合わせてスタッフがパソコンを操作し、正面のプロジェクタースクリーンにロシア戦のスターティングオーダーが大きく表示される。

1番 二塁手 野村茜   村山マダーレッドサフフラワーズ
2番 捕手  倉本未来  村山マダーレッドサフフラワーズ
3番 中堅手 山崎一裕  宮城オーラムアステリオス
4番 遊撃手 野村秀治郎 村山マダーレッドサフフラワーズ
5番 三塁手 瀬川昇二  村山マダーレッドサフフラワーズ
6番 一塁手 瀬川正樹  村山マダーレッドサフフラワーズ
7番 右翼手 黒井力皇  福岡アルジェントヴァルチャーズ
8番 左翼手 磐城巧   兵庫ブルーヴォルテックス
9番 投手  大松勝次  東京プレスギガンテス

 それを見た選手達の間に僅かにどよめきが起こった。
 面子はほぼ変わっていない。
 白露選手が黒井選手に変わったぐらいだ。
 だが、普段とは明らかに違う部分があった。
 守備位置だ。
 真っ先に目につくのは、やはりキャッチャーの部分だろう。
 大松君が先発にもかかわらず、倉本さんがマスクを被ることになっている。
 この組み合わせは公式戦では前例がないものだ。
 甲子園でも大松君の球を受けたのは昇二だったしな。

 とは言え、高校時代も日本代表としても2人が練習で組んだことは何度もある。
 頑なに他の選手とバッテリーを組もうとしないのはあーちゃんぐらいのものだ。
 並の選手なら、そんな我儘を通そうとすれば間違いなく干されてしまうだろう。
 それが許容されているのは飛び抜けた実力と実績があるから……という側面もないことはないが、単純にキャッチャーに関しては人手が足りているからだ。
 俺、あーちゃん、倉本さん、そして昇二。
 試合に出ることのできるキャッチャーは結局1人だけではあるものの、ここまでキャッチャーの層が厚いチームは世界的に見ても日本代表ぐらいだろう。
 アメリカですらピッチャーに応じて変えたりはしていないからな。
 まあ、その不動の1人が世界最強のキャッチャーな訳だが。

 ともあれ、日本代表ではあーちゃんが俺専属のままでも何ら問題ないし、今回のように俺がキャッチャーとして先発しないのもそこまで奇妙な采配ではない。
 各人得手不得手の違いはあるものの、少なくともキャッチャー関連のバフ・デバフスキルは俺達全員網羅しているのだから。
 しかし、だからこそ普段とは少し異なるこの布陣には意図がある。
 落山監督がロシアの打力をかなり深刻に捉えていることが窺い知れる。

「今日の試合を見る限り、ロシア打線のパワーとコンタクト力は桁違いです。打球速度はアメリカを上回る部分もあり、守備の間を抜かれる危険性が高くなります」

 このようなスターティングオーダーを組むに至った理由を説明するために、まずその前提となる部分を口にする落山監督。
 ロシア対イタリアの映像を目の当たりにしてそれを否定する者はいないはずだ。
 実際のところロシアはホームランも多かったが、ゴロヒットも多かった。
 しかもそれは本来なら守備範囲だったにもかかわらず、余りの打球速度にグローブが届かなかったというものの割合が多かったそうだ。
 ちなみに、この辺りのことは試合後に送られてきていた陸玖ちゃん先輩達によるロシア対イタリア分析レポートに記載されていた。
 国のスコアラーからの情報に紛れる形で日本代表首脳陣にも届いているはずだ。

「そのため、内野を固めてロシアの打球速度に対応するオーダーとしました」

 これに関して最も象徴的なのは三塁手の部分だろう。
 難しい顔をして俯いている白露選手には申し訳ないが、オランダ戦でも後1歩が足りずに三塁線を破れてしまうような状況が何度か見られた。
 そういったこともあって昇二をサードに据えた訳だ。

 昇二は外野手として日本代表に招集されているものの、レギュラーシーズンではピッチャー以外の全てのポジションを経験している。
 更には日本代表のシートノックでも各ポジションを試しているからな。
 ステータス的にも適性をカンストさせているし、守備の面で心配なことはない。
 首脳陣も今日までのデータから本職である白露選手よりも上と判断したようだ。
 ユーティリティプレイヤーがメインのポジションを奪う。
 普通のスタメン争いよりも残酷にも思えるが、舞台が舞台。
 WBW優勝を掲げるからには是非もないことだ。

 空いた外野には代わりに黒井選手が入っている。
 山崎選手がセンターに移り、磐城君がレフト。黒井選手はライトだ。
 昇二が抜けたことで幾分か外野の守備力が低下しているが……。
 ロシアのあの打球速度だと、内野の頭を越える角度で飛んだ時点で外野も越えてフェンス直撃、あるいはスタンドに叩き込まれると考えた方がいい。
 逆に角度がつき過ぎれば余裕を持ってフライとして処理できる。
 だから、まずゴロや低い弾道のライナーを内野でどうにかして留める。
 そうすることを最優先に考えて、このようなオーダーを組んだのだろう。

「しゅー君がショートになってる理由もそれ?」
「……そうだな」

 ただ、二遊間に俺を据えるか、倉本さんを据えるかの判断は少し難しい。
 1歩目は【軌道解析】を持つ倉本さんの方が間違いなく速いだろう。
 だが、俺は【離見の見】のおかげで自在に超集中状態に入ることができる。
 更に【体格補正】の関係で瞬発力はこちらの方が上だし、送球も速い。
 あーちゃんと二遊間を組めば【以心伝心】のおかげで連係力の点でも分がある。
 そういったことを総合的に鑑みて、日本代表首脳陣としては内野を固めるには俺の方がいいという判断になったようだ。

 一方でキャッチャーとして例えば盗塁に対処するとなれば、それこそポップタイムの関係で俺の方がいいだろうが……。
 野球というものは、最終的に点を取るにはホームベースに触れる必要がある。
 盗塁だけでそれをするにはホームスチールという最大の関門がある。
 それらを加味した上で、どちらを優先させるのか。
 その判断は時と場合、そして首脳陣の思考の癖にもよるだろう。
 どうあれ、全てにおいてベストとなる起用をすることはできない。
 手元にある手札の中で最善の役を作っていくしかないのだ。
 野球に限ったことではなく。

「ピッチャーは継投前提で、初回から全力投球を心がけて下さい。事前の想定としては大松選手、磐城選手、そこからは状況を見て臨機応変に継投していきます」

 大松君から磐城君の流れについては、ロシア対イタリアの試合展開が明らかになる前から既に周知されていたことだ。
 しかし、その前後の部分が追加されている。
 初回から全力投球の指示。
 継投は臨機応変。

 元々は彼ら2人で投げ切ることができれば、という期待があった。
 美海ちゃん、もといナックルはその無軌道さ故に博打染みた部分がある。
 頼り切りになってしまうのは危うい。
 と同時に、場合によってはアメリカにも通用する可能性がゼロではないことを考えると準決勝では温存しておきたい気持ちもないでもなかった。
 落山監督もそうだろう。だが――。

「特に浜中選手は初回からブルペン待機をお願いします。また、瀬川正樹選手、野村秀治郎選手も肩を温めておいて下さい」

 倉本さんをキャッチャーとして先発させることを先んじて発表した時点で、他の選手達も美海ちゃんの登板を重要視していることは察していたに違いない。
 美海ちゃんは表情を硬くしてしまっているが、事前に部屋でその可能性に言及しておいたおかげで落ち着いてはいるようだ。
 俺も俺で正樹と共に忙しくなる。
 野手として試合に出ながらになるので、日本の攻撃中で尚且つ自分の打席が遠い時を狙ってブルペンで肩慣らしをする必要がある。
 もっとも、俺は【怪我しない】ので肩を作る振りをするぐらいで十分だが、正樹の方は入念にウォーミングアップしなければならないからな。
 なるべく彼に負担がかからないようにしたいところだ。
 そのために俺達にできることは、とにかく大松君や磐城君、美海ちゃんを守備でバックアップすること。そしてバッティングで貢献することだ。
 とは言え……。

「以上です。何か質問はありますか?」

 手を挙げる。
 そうしたのは俺だけだった。
 ロシア対イタリアの試合内容に大きな衝撃を受けてしまった選手はまだ立ち直っておらず、首脳陣に意見できる程の考えが纏まる余地もなかったに違いない。

「秀治郎選手」
「日本が先攻になりますが、初回から点を取りに行く想定でよろしいですか?」
「はい。ある種の死んだ振りをすることでロシア側が選手の消耗を抑えるためにイタリア戦の序盤のような加減をしてくる、といった期待はしません」

 落山監督は俺の意図をくんだ返答をする。
 まあ、打順の方は弄っていないからな。
 彼の考えはそうだろうと思ってはいた。

「後攻であれば様子見も選択肢にありましたが、ロシアが攻撃面で力を抑えてくる保証がない以上、貴重な1イニング分の攻撃を捨てることは避けるべきでしょう」
「…………分かりました」

 ロシア対イタリアの焼き直しを期待するのは、さすがに希望的観測が過ぎるか。
 9イニング合計27アウト。それまでの間に可能な限り点を取る。
 野球における攻撃とはそういうものなのだ。
 そして、初回ノーアウト1塁で送りバントしようものなら相手に1アウトを献上する愚か者の誹りを受けるぐらいにはアウトにならないことが重要なのも事実。
 ロシアが消耗を避ける確証がない以上、攻撃の機会を無駄にすべきではない。
 落山監督の考えも道理だ。
 何より、短期決戦においては特にチームの方針は明確にして統一すべき。
 だから俺は、少々都合のいい展開に寄った思考を一旦忘れることにした。

「他にはありませんか?」

 今度はもう誰も手を挙げない。
 落山監督が語った方針と俺の問いへの答えに納得したのかどうかは分からない。
 しかし、試合は明日。今も時間は刻一刻と迫っている。
 今更、異を唱えられるような猶予はない。
 後はもう前だけを見て突き進む。それだけだ。

「では。泣いても笑っても準決勝戦と決勝戦を残すのみです。まずはアメリカへの挑戦権を賭けた大一番。気合を入れていきましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界での異生活 ~騎士団長の憂鬱~

なにがし
ファンタジー
成人年齢15歳、結婚適齢期40~60歳、平均寿命200歳の異世界。その世界での小さな国の小さな街の話。 40歳で父の跡を継いで騎士団長に就任した女性、マチルダ・ダ・クロムウェル。若くして団長になった彼女に、部下達はその実力を疑っていた。彼女は団長としての任務をこなそうと、頑張るがなかなか思うようにいかず、憂鬱な日々を送る羽目に。 そんな彼女の憂鬱な日々のお話です。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!

神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。 そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。 これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。  

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

処理中です...