第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第2章 雄飛の青少年期編

055 入部前の挨拶

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「ねえ、秀治郎君。ほんとーの本当に大丈夫なのよね?」
「うん。本当の本当に大丈夫だって。むしろ思ったよりマシだったから」
「ええ……アレでぇ……?」

 しつこいぐらいに尋ねてくる美海ちゃんを宥めるように答え続ける。
 あの部活紹介を見てしまったら、その反応は仕方がないだろうしな。
 こればかりは辛抱強くフォローしていくしかない。

「それより、そろそろ行こう」

 部活への入部が解禁された日の放課後。
 3人を引き連れて目的の場所へと向かう。

「失礼しまーす」

 グラウンドに程近い部室棟。
 室名札で目的の部屋を探し出し、扉を開けて中に入る。
 すると、黙々とパソコンに向かう女子生徒の姿が目に映った。

「あの、すみません」
「ぴっ!?」
「……ぴ?」

 その背中に向かって話しかけると、変な声が上がった。
 こちらに気づいていなかったようだ。
 彼女はビクッとした体勢のまま、錆びついた人形のようにぎこちなく振り返る。
 部活紹介でプロ野球珍プレー愛好会の代表として登壇していた人だ。

「ああああ、えっと、えええっと、ど、どうした、の?」

 その先輩は、更なる挙動不審な動きと共に慌てたように尋ねてきた。
 立ち上がって、滅茶苦茶あたふたしている。
 変な動きのせいで、どことは言わないが揺れる揺れる。

「えっと、入部したくて」
「ほえ?」

 一瞬意味を理解できなかったかのように、彼女は呆けた顔をする。
 それから少しずつ認識が追いついたのか、表情が徐々に緩んでいく。
 講堂で垣間見た残念極まりないだらしない笑顔。
 腰までと長い黒髪ロングヘアーに美人系の整った顔が全て台なしだ。

「ふ、ふふ、ふふふふうふふ。我が世の春が来たーーーっ!! これぞ、逆転満塁ホームラン!! うへへ、うふふふふ」
「……ねえ、秀治郎君。やめない? ここに入るの。他のとこでもいいでしょ?」

 突然発狂したように騒ぎ出した先輩に、美海ちゃんはドン引きした様子。
 俺の制服の袖を引っ張りながら、考え直すように促す。

「ま、待って待って! ごめんなさい。お願いします。入って下さいいい!」

 それを見た先輩は、美海ちゃんに縋りつくようにして懇願し始めた。
 今にも土下座しそうな勢いだ。

「わ、分かったから! 落ち着いて!」
「はい! 落ち着きます!」

 パッと離れて先程まで座っていた椅子に戻る。
 さすがにテンションがおかしい。

「それで、えっと……先輩」
「あ。自己紹介するね! 私は2年生の津田陸玖りく! 向上冠中学校プロ野球珍プレー愛好会の会長です! 陸玖ちゃん先輩って呼んでね!」

 演技染みた動きで胸に手を当てながら、凄い早口で言う陸玖ちゃん先輩。
 あちこちに飛ぶ視線は、完全にパニックになってる人のそれだ。

「は、はあ」

 その勢いについていけず、俺達は微妙な反応しか返せない。
 すると、見る見る内に彼女の顔が赤く染まっていく。

「うぅ~、もう無理ぃ~」

 やがて陸玖ちゃん先輩は、何故か涙目になって机に突っ伏してしまった。

「だ、大丈夫ですか?」
「うぅ~」

 声をかけても唸りながら首を横に振るばかりで顔を上げてくれない。

「…………変な人」
「茜は他人ひとのこと言えないわよ……」

 無表情のまま陸玖ちゃん先輩を評するあーちゃん。
 そんな彼女にジト目を向ける美海ちゃん。
 蚊帳の外な昇二は、困ったように俺達の顔を見比べるばかり。
 もうしっちゃかめっちゃかだ。

「ええと、とりあえず、その辺に座ってようか」

 空いている椅子を視線で示し、陸玖ちゃん先輩が落ち着くのを待つ。
 周りを見回すと割とハイスペックそうなパソコンが2台。
 ノートパソコンも1台あった。
 棚には外付けハードディスクがいくつも並んでいる。
 後はカメラなんかの撮影機材が置かれていた。
 少なくとも野球部の部室という感じは全くない。

「……えっと、その、ごめんね」

 しばらくして。
 少し立ち直った様子の陸玖ちゃん先輩が、か細い声で謝ってきた。

「もう大丈夫ですか?」
「う、うん」

 彼女は何だか疲労困憊の様子で小さく頷く。
 それから結構な間を取ってから再び口を開いた。

「その、私って根本的に人見知りだから……初対面の人とは無理矢理テンション上げないとまともに話せなくて……けど、それも長い時間続けられなくて……」
「……あのテンションじゃ、そもそも長く続く前に相手が逃げ出しそうだけど」
「う、うん。だから、今の状況、大分珍しいの。……うふふふ」

 美海ちゃんの言葉に答えてから、最後に何故かにやける陸玖ちゃん先輩。
 野球に限らず、珍しいシチュエーションというのが好きなのかもな。

「部活紹介だと普通にしゃべってたじゃない」
「あれは会話じゃないし……目の前にいたのはカボチャだから……」

 自己暗示をかけていたらしい。
 ともあれ、必死に取り繕って何とか乗り切ったようだ。

「ところで、陸玖ちゃん先輩」
「あ、それ、勢いで適当言っちゃっただけだから……普通に――」
「入部届ってどういう形になるんです? 陸玖ちゃん先輩」
「あうあう」

 彼女には悪いが、頭の中で呼称がそれに固まってしまった。
 なので、そのまま行かせて貰う。
 このポンコツ具合に合ってる気がするからな。

「ええと……入部届は野球部で記入。それを顧問の虻川先生に渡して……その時に口頭で所属する同好会を伝えればいいよ」
「分かりました。ありがとうございます、陸玖ちゃん先輩」
「うぅ……この子、強引だよお」

 しつこく繰り返す俺に、若干涙目になって呟く陸玖ちゃん先輩。
 美海ちゃんは呆れたような顔。
 あーちゃんはちょっと不機嫌そうに俺の手の甲の皮を摘まんでいる。
 抓るという程じゃない強さなので痛みは全くない。
 昇二はどこか遠くをぼんやりと眺めている。

「じゃあ、早速入部届を書いて出してきますね」
「う、うん。あ、待って……皆の名前は?」
「俺は野村秀治郎です。よろしくお願いします」
「……鈴木茜」
「浜中美海よ」
「…………あっ、瀬川昇二です」
「あ、ありがと。えっと、皆よろしくね」

 少し俺達に慣れてきた様子の陸玖ちゃん先輩に、全員で「はい」と答える。
 そうして俺達は部室棟を出て、職員室へと向かったのだった。
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