第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第2章 雄飛の青少年期編

084 補助金騒動の行方

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 その日の放課後。
 俺達は虻川先生の指示通りに部室棟のミーティングルームに向かった。
 既に先に来ていた陸玖ちゃん先輩の近くに皆で集まって座る。
 彼女は何故か亀のように身を縮めて小さくなっていた。

 原因はすぐ分かった。
 何となく周りからの視線が痛い。
 きっかけがプロ野球珍プレー愛好会の動画チャンネルだったからだろう。
 責任を追及しようとしているかのように睨んでいる者もいる。
 陸玖ちゃん先輩はきっと1人で針の筵だったに違いない。
 であれば、こんな風に縮こまってしまっているのも仕方がない。
 皆で彼女を守るように囲む。

 そうこうしていると、虻川先生がミーティングルームに入ってきた。
 彼は壇上に上がると俺達を一通り見回してから口を開いた。

「さて、今回の件については既に耳にした者もいると思う。正確には――」

 そうして現状について説明を始める虻川先生。
 正確には、という言葉からスタートしたが、目新しい情報は特にない。
 俺達の動画がバズり、学校の卒業生が掲示板などに実態を投稿。
 それが拡散され、炎上した、ということだ。

「補助金受給の要件は公式戦に参加、部員が10名以上のみ。形の上であれ、それは満たしていたから特に処分はない。
 だが、今年度中に要件が厳しくなるだろうとの通達があった」

 まあ、正直これまでが緩過ぎたとしか言いようがないが……。
 やはり野球に狂った世界だからこそまかり通ってきたものなのだろう。
 今回そこにメスが入ったのは、俺という異物が関与したせいかもしれない。

 とは言え、前世にも法の隙間を突いて私腹を肥やす者はいくらでもいた。
 野球ではなかっただけで。
 単に甘い汁の吸い方が世界観に沿っているだけとも言える。

「具体的にはどうなるんですか?」

 プロ野球個人成績同好会の誰かが問う。
 見た感じ、多分高校生だ。

「まだ議論はこれからだそうだが、野球技術向上に関わる活動実績の記録を提出することは必要になるだろうとのことだ」
「野球技術向上に関わる活動実績、ですか?」
「週の練習時間、練習内容の記録。練習試合のスコア。そういったものだな。計何時間とか何試合とかは今後の議論次第だが、常識的な内容ではあるはずだ」

 まあ、普通だな。
 むしろ当たり前にやるべきことだ。

「ただ、これについては年間公式戦1勝以上で免除することも考えているらしい」

 ふむ。
 これは学校側に対するの配慮というよりも、単に全ての学校の書類を一々精査するのが面倒だから、だろうな。
 春も秋も負け続けてる我が校のようなとこだけを調べればいい話になるし。

 受給要件としてはまだ緩い気もしなくもないが、野球至上主義なこの世界。
 勝利が条件なら免除制度ができても一般的には問題視されることはなさそうだ。
 しかし、ここは普通から割と離れている場所でもある。

「そんなの無理だ」
「……プロ野球珍プレー愛好会のせいだろ」
「どうするつもりだよ」

 他の同好会から俺達を責めるような言葉が聞こえてくる。
 陸玖ちゃん先輩が一層小さくなる。
 きっかけはともかくとして、補助金の恩恵を受けてきたのは同じだろうに。
 陸玖ちゃん先輩に任せるのは酷だろうから、俺が代わりに応じてやろう。

「いやいや。どうもこうも、野球部として要件を満たすだけの活動実績を作ればいいだけじゃないですか」

 別に難しいことなど何もない。
 聞いた限りでは有情にも程がある内容だ。
 普通に当たり前の練習をしていればいいのだろうから。

「そんなことできる訳ないだろ!?」
「ええ……」

 返ってきた強い言葉に、思わず戸惑いの声を上げてしまう。
 そのまま二の句を継げずにいると――。

「……元々、我が校も最初は普通の野球部を作ろうとしていたらしい」

 フォローするように何やら話し始める虻川先生。
 彼らの反応に繋がる事情なのだろうか。

「しかし、ここに入学するのは野球に苦手意識を持つ生徒がほとんどだった」

 小学校で散々野球をやって自分には向かないと諦めた。
 この学校を選ぶ理由は多くの場合それ。
 生徒がそういう傾向にあるのは周知の事実だ。

「結果、部員が集まらず、こういう形式になった訳だが……そういう生徒に、活動実績になるレベルの練習なんてできる訳がない」

 できない、というより、やりたくない、と言う方が正確か。
 一瞬、眉をひそめてしまう。
 だが、前世の俺は正にそういうタイプの人間だったことを思い出す。

 この世界では【マニュアル操作】のおかげで、できる、から、やっている。
 前世を反面教師にして、やりたい、とも強く思っている。

 しかし、体育で陽キャ達が楽しくプレーしている傍ら、如何に体力を使わないようにするかだけを考えていたがいたように。
 運動を苦行と捉えて忌避する生徒がいるのも仕方のないことだ。
 だからと言って、首に縄をつけてやらせたところで双方に得がない。

 ……にしても、虻川先生の言い方はちょっとアレだな。
 彼は彼で現状に何か思うところがあるのかもしれない。

「だったら、もう野球部は解散してしまって、各々別の部活にするのも手じゃないですか? 補助金は諦めて」

 心にもない言葉だが、一応口にしておく。

「悪いが、それだけは避けたいそうだ」
「え、何でですか?」

 俺の問いに虻川先生は僅かに目を逸らして黙り込んだ。
 これは、あれだな。
 補助金を別の用途に当てているな。
 そういう経費面の小細工だけはうまかったのだろう。

「まあ、いいですけど。なら、まずは年間公式戦1勝を目指しましょう」

 活動記録を提出する必要がなくなれば、他の同好会も文句はないだろう。
 活動内容も変えずに済む。
 勿論、免除制度が確定したら、の話だけれども。

「俺達が勝てる訳ないだろ!?」
「……勝てなかったら、諦めて活動実績を作ればいいだけでしょう。まあ、そこは俺達が責任を持って何とかしますよ」

 プロ野球珍プレー愛好会は現在11人いるからな。
 普通に練習や練習試合を行って記録を残しておけば、実績作りは十分できる。
 免除があるならそれに越したことはないけれども、別になくても構わない。
 ただ、問題が1つ。

「中学校側だけですけど」

 山形県立向上冠中学高等学校は中高一貫校。
 中学は中学。高校は高校で要件を満たす必要があるだろう。
 しかし、今の俺達は中学生で高校生じゃない。
 現時点ではプロ野球珍プレー愛好会に高校生はいない。
 高校生がいるのはプロ野球個人成績同好会とアマチュア野球愛好会のみだ。
 その事実に他の2同好会は今更気づいたようだった。

「せ、先生、どうするんですか!?」

 慌てたように虻川先生に問いかける先輩の1人。
 頼りない姿だ。

「それは現在検討中だ」

 虻川先生が淡々と告げると、彼らは尚一層狼狽する。
 突き放されたように感じたのだろう。

「な、なら責任を取って、それもプロ野球珍プレー愛好会が考えろよ」

 いや、ホント頼りないな。
 きっかけがきっかけなのでおとなしめに対応してたが、少しイラっとしてきた。

「まあ、別にいいですけど? それで名実共に野球部としての体裁が整ったら、皆さん、いらない子になっちゃいますよ?」
「うっ」
「何もしないんなら、むしろ外部から突っ込まれるポイントにしかならないんだから、学校側から切り捨てられたっておかしくないですし」
「そ、それは……」

 言葉を失って俯く様が余りに情けなさ過ぎ、ちょっと言い過ぎたかと思う。
 罪悪感が少しばかり出てきた。
 なので、一応アドバイスも加えておくことにする。

「……現実を見て早めに身の振り方、というか、活動を野球の実践に落とし込む方法でも考えた方がいいと思いますよ」

 結果的に。
 それが半ば締めの言葉となり、ミーティングは終わりを告げたのだった。
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