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第2章 雄飛の青少年期編

121 そう言えば

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 突然だが、リマインドの時間だ。

 俺の名前は野村秀治郎。現在16歳。
 比較的世界観が近い別の世界で生きた記憶を持つ転生者だ。
 そうなった切っかけは、前世の宇宙が何やかんやで滅びに瀕してしまったこと。
 そこに住まう魂は異世界の神々に一部引き取られることになったが、大リーグ贔屓のとある神が無計画に大リーガーのレジェンド達を集めてしまった。
 野球で国際情勢が決まるこのおかしな世界に。
 結果、国家間のパワーバランスの完全崩壊が決定的となってしまった。
 まあ、元々アメリカ一強の傾向はあったようだけども。

 何はともあれ。
 この世界の神、もとい野球狂神はそれに大いに慌てた。
 余りもののゴミ山の中から、いくつかの魂をバランス調整のために拾い上げた。
 その内の1人が俺、という訳だ。

 ……そう。
 つまり俺は唯一無二の転生者ではないのだ。
 具体的な人数は分からないが、同じ境遇の存在が何人かいることになる。
 俺はそのことをふと思い出していた。
 WBW予選のダイジェストをテレビで見ていて。

「……メキシコ、か」

 北中米カリブ海1次予選ラウンド。
 メキシコ対コスタリカ。
 アメリカは例外として、前世で強豪であってもこの世界で強いとは限らない。
 それでも、俺の中で強豪の印象があるメキシコがコスタリカを圧倒していた。
 勿論、1次予選敗退レベルのチームに比べると、総じて選手の能力は高かった。
 しかし、10-0と完勝するに至った理由は1人の存在によるところが大きい。
 1人で投げて、1人で打って。
 ほとんどワンマンチームの様相だった。

「エドアルド・ルイス・ロペス・ガルシア」

 これで1人分の名前らしい。
 エドアルド・ルイスが名前。
 ロペス・ガルシアが名字。
 ステータスにもその通り記載されている。
 コスタリカ戦では、投手として無四球完封。
 打者としては4打数4安打3本塁打8打点2四球。
 ゲームみたいな活躍で、メキシコの圧倒的な勝利に貢献していた。

 まあ、そこまでなら突然変異的なリアル二刀流のスーパースターが出現したと解釈することも不可能ではないだろう。
 しかし、このエドアルド・ルイス。
【成長タイプ:マニュアル】だった。
 しかも、テレビ画面に映ったプロフィールによれば俺と同い年。

「間違いない。転生者だ」

 取得スキル一覧を見れば【生得スキル】【マニュアル操作】と【離見の見】を持つばかりではなく【天才】と【模倣】も取得している。
【生得スキル】が4つ。
 これはもう確定的だ。
 彼もまた、魂ドラフトで野球狂神に選ばれた転生者の1人に違いない。

 ちなみに、ステータスは当然のようにカンストしている。
 スキルもほぼ網羅しているし、二刀流も当たり前。
 既に世界最高峰の野球選手と言って差し支えないレベルだ。
 だが……。

「それにしては、チームが今一強くないな」

【成長タイプ:マニュアル】の選手は他にキャッチャーの1人のみ。
 後は普通の【成長タイプ】で、割かし常識的なステータスばかりだ。

 日本なら既に俺、正樹、磐城君、大松君の4人が現状のWBWスタメン級。
 あーちゃんや美海ちゃん、昇二も【経験ポイント】を消費すれば、今の代表をごぼう抜きすることができるだろう。
 そうなればスタメンの半数以上が【成長タイプ:マニュアル】となる。
 まあ、さすがにそこまでは行かなくても、転生者が既にWBWに出場するまで干渉した国で自分以外に【成長タイプ:マニュアル】が1人というのは少ない。

 多分、自分以外の選手を育てようという考えが全くなかったのだろう。
 自分だけが突出して強くなり、大きな活躍をして多大な富と名声を得るために。
 そうなるとキャッチャーを育てたのもまた自分のため。
 投手として試合に出る際に己のポテンシャルを十二分に引き出すためだろう。
 それが証拠に、キャッチャーのステータスは完全に守備に寄っている。
 攻撃面は他の選手と同等。平均ぐらいだ。
【経験ポイント】も残っているのに。
 これでは、打倒アメリカなど考えてすらいないようにしか見えない。

 しかも、16歳という若さでWBWに出場してるしな。
 恐らく、派手に活躍して一気に成り上がってきたのだろう。
 自らの栄誉のために。
 特例特例でここまで来たのかもしれない。
 目立ち過ぎて警戒され、研究されるといった懸念もまるで考えていない。

『メキシコでは非合法な地下野球が開催されていますが、出自不明のエドアルド・ルイス選手もまたそこで野球の腕を磨いたのではないかと言われています』

 番組のアナウンサーが原稿を読み上げる。
 国としてのメキシコと言えば、マフィアが幅を利かせているイメージが強い。
 野球に狂った世界であるだけに、彼らのシノギも野球に関わることなのだろう。
 ……まあ、銃弾ではなく硬式球が飛び交っているだけ平和と言えなくもないな。

 戦争の代わりの野球。
 武器の代わりのバットやグローブ。
 そういった神の干渉は、裏社会にまで及んでいる訳だ。

 やっぱり、ここに関してはある意味で前世よりも勝っている気がするな。
 野球に関する能力の有無で格差がヤバいのは、ちょっとどうかと思うけれども。

 それはともかくとして。

『驚愕の16歳は、今後日本の障害となるかもしれません』

 アナウンサーがそう締め括ってコーナーが終わる。

 確かに、転生者はWBWを戦っていくに当たって警戒すべき存在だ。
 しかし、野球という団体競技で自分のみが優位に立とうとすると、チーム全体に悪影響を及ぼすこともある。
 たとえ転生者が所属しているにしても今のままだとすれば、少なくともメキシコというチームはそこまで意識しなくてもいいのかもしれない。
 俺はそう感じつつも、逆にまだ表に出てこない他の転生者に警戒を強めた。
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