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第2章 雄飛の青少年期編
142 そういうこともある
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場面は2アウト3塁。
磐城君との攻防を終えてもピンチは続く。
単打でも追加点という状況だ。
観客席も実況もヒートアップしている。
『左のバッターボックスには5番の大宮君が入ります。今大会では甲子園打率が5割を超え、ホームランも3本打っています。掛け値なしの強打者です』
『現在3年生。プロへの昇格は確実でしょう。気の早いファンの間では将来の4番候補として高卒1年目での1軍レギュラー入りを期待されていますね』
『そんな彼が磐城君の後ろに控えている事実が、兵庫ブルーヴォルテックスユース打線の恐ろしさを物語っています』
『6番打者の富山君も4割5分、ホームラン2本と当たっていますからね。大松君としては何とかここで切って流れを変えたいところでしょう』
大宮選手も富山選手も【経験ポイント】取得効率上昇のスキルを持つ磐城君と一緒に練習しているおかげか、ステータス的には1部リーグ最上位クラスだ。
1年目から開幕1軍レギュラーは勿論、タイトルを狙えるぐらいの能力がある。
超高校級プレーヤーという称賛すら2人には不足だろう。
しかし、磐城君と大松君は今すぐプロに入っても歴史的な活躍ができるレベルだ。
申し訳ないが、大宮選手も富山選手も彼らと比べてしまうと格落ち感がある。
【戦績】を見れば、ストライクゾーンの中に余り得意ではないコースもあるしな。
とは言え――。
「油断し過ぎるなよ。2人共」
ジャストミートすれば軽々フェンスオーバーというぐらいの能力値はあるのだ。
丁寧に勝負をする必要がある。
特に大宮選手は初球から積極的に振りに行くタイプの選手だ。
出会い頭の事故でホームラン、みたいなことも十分あり得る。
『1球目、内角低めに外れるスローカーブ! タイミングを外された大宮君は体勢を崩しながら何とか当てようとするも空振り! 1ストライク!』
恐らく速い球を待っていたのだろう。
これは磐城君に対しての配球が速球系ばかりだったのが効いたな。
ネクストバッターズサークルで観察し、狙いを定めていたに違いない。
それをすかされた形だ。
『2球目、外角高めから逃げる変化球! バットが届かず! 2ストライク!』
対角線の隅に今度は速い球。
緩急もあり、大きな変化の切れ味鋭いシュートに目が追いつかなかったようだ。
相手の打ち気を利用し、ボール球で2球連続の空振り。
いい感じに追い込んだ。
そして――。
『3球目、内角高めへのストレート! ギリギリいっぱい! 見逃し三振!』
大宮選手が今一得意ではないインハイへの直球で3球三振。
強打者として評価されているだけに彼自身にも相応の自負があり、3球勝負で来るとは思わなかったのかもしれない。
磐城君との格の違いが如実に表れた結果だな。
まあ、いずれにせよ、これで3アウトチェンジ。
1回の表終了だ。
『ランナー磐城君は残塁に終わりましたが、兵庫ブルーヴォルテックスユースはこの回先制点を挙げて1-0。山形県立向上冠高校の攻撃に移ります』
攻守交替。
やはり最初の8連続ボールが痛過ぎたが、切り替えていくしかない。
まずは何とか4番の大松君まで回して、同点に追いつきたいところ。
そのためには誰かが出塁する必要があるが……。
『1回の裏。先頭打者は1番浜中美海さん。女性の全国高校生硬式野球選手権大会決勝戦出場は史上初の出来事となります』
『ナックルボーラーとして話題沸騰中ですが、私としては甲子園打率3割後半の打撃にも注目したいですね』
『はい。1点を追いかける展開となりましたので、まずは出塁して反撃の足がかりを作りたいところではあります』
「……みなみー、がんば」
グッと拳を握るあーちゃん。
応援している声の調子ではないが、気持ちはスキルでちゃんと伝わってくる。
『ピッチャー磐城君。振りかぶって第1球を……投げました! 外角低めへの変化球が決まってストライク! 浜中さんはピクリとも動かず、見送りました』
初球はスライダー。
真ん中やや内寄りから大きく曲がってアウトローへ。
ストライクゾーンギリギリいっぱい。
『2球目は外角低めに外から入ってくる変化球。ファウル! 浜中さんは踏み込んで振りに行きましたが、打球は1塁線を切れていきました。これで2ストライク』
続く3球目は外角低めのクサイところをカット。
4球目も外角低め。チェンジアップに何とか食らいついてファウル。
こちらはこちらでアウトコースを続けてきたな。
しかし、向上冠高校バッテリーの配球とは違って遊び球がない。
兵庫ブルーヴォルテックスユースバッテリーは、磐城君のステータスを頼みにどんどん投げ込んできている。
『5球目。キャッチャー新田君は内に構えます』
……ここでインコースか。
恐らく、これもストライクゾーンで勝負してくるだろう。
美海ちゃんが外を意識し過ぎていなければいいが、さて。
『磐城君、振りかぶって……投げました! 打ちました! 三遊間真っ二つ! 打球はレフト前へ! 浜中さん、甲子園決勝の舞台でヒットを打ちました! 』
「みなみー、やった」
「うん。よく狙い澄ましてた」
フロントドアの低めのスライダーをうまいこと引っ張った。
転がった打球の球足は速く、三遊間の真ん中を抜けていった。
ただ、レフトの真正面だったこともあって長打にはならず。
シングルヒットどまりではあった。
とは言え、先頭打者でキッチリ出塁してくれたのだ。
十分な結果だろう。
見たところ、インコースにヤマを張って振りに行った、という感じだった。
割と思い切りのいい性格の美海ちゃんらしいヒットと言える。
そういった彼女の性格まで考えると、全球アウトコースの方が逆に抑えることができる可能性が高かったかもしれないな。結果から言えば。
ともあれ、これでノーアウト1塁。
1回表と同じように先頭打者が出塁できた。
『兵庫ブルーヴォルテックスユースはこのシチュエーションからバントの構えでしたが、山形県立向上冠高校はどうでしょうか』
『向上冠高校はそもそもバント自体が少ないので、可能性は低いかと思います。磐城君からバントをするというのも相当な技術を要しますからね』
『成程。そう言っている間に2番打者の菊池君は初球空振りで1ストライク! 思い切り振ってきました! やはりバントはなさそうです!』
まあ、陸玖ちゃん先輩の資料の中にもバントについての諸々の話はあるし、虻川先生もその辺りは重々承知して指示しているはずだ。
逆にこの場面は脊髄反射レベルでバントの選択肢を除外しているぐらいだろう。
『2ストライクから3球目を……投げた! 低めの球を引っかけた!』
「あ」
「あ」
『打球はセカンド正面! 4-6-3のダブルプレー!』
低めのワンシームでゴロからの併殺。
ノーアウトランナー1塁が2アウトランナーなし……。
「これならバントの方がマシ」
あーちゃんが嘆息気味に言い放つ。
うん。まあ。
そういうこともある。
確率の高い選択を積み重ねるとは言っても、所詮は確率。
どれだけやっても100%になることはない。
勿論、1年100試合以上を戦うペナントレースならある程度は収束もするだろうけども、1試合の中では想定通りにいかないことは多々ある。
これこそ短期決戦。
一発勝負の難しさという奴だろう。
勿論、今回の出来事だけを取り上げて是非を語ることもできない訳だけども。
やはり野球は難しい。
『3番佐藤君は3球三振で3アウトチェンジ! 山形県立向上冠高校、先頭打者の出塁を活かすことができず3人で攻撃終了となりました』
結果として山形県立向上冠高校は3人で攻撃を終えてスコアは0。
そして、そのまま試合は完全に硬直してしまった。
8回まで終えて1-0のまま。
全国高校生硬式野球選手権大会決勝戦は息詰まる投手戦の様相を呈していた。
磐城君との攻防を終えてもピンチは続く。
単打でも追加点という状況だ。
観客席も実況もヒートアップしている。
『左のバッターボックスには5番の大宮君が入ります。今大会では甲子園打率が5割を超え、ホームランも3本打っています。掛け値なしの強打者です』
『現在3年生。プロへの昇格は確実でしょう。気の早いファンの間では将来の4番候補として高卒1年目での1軍レギュラー入りを期待されていますね』
『そんな彼が磐城君の後ろに控えている事実が、兵庫ブルーヴォルテックスユース打線の恐ろしさを物語っています』
『6番打者の富山君も4割5分、ホームラン2本と当たっていますからね。大松君としては何とかここで切って流れを変えたいところでしょう』
大宮選手も富山選手も【経験ポイント】取得効率上昇のスキルを持つ磐城君と一緒に練習しているおかげか、ステータス的には1部リーグ最上位クラスだ。
1年目から開幕1軍レギュラーは勿論、タイトルを狙えるぐらいの能力がある。
超高校級プレーヤーという称賛すら2人には不足だろう。
しかし、磐城君と大松君は今すぐプロに入っても歴史的な活躍ができるレベルだ。
申し訳ないが、大宮選手も富山選手も彼らと比べてしまうと格落ち感がある。
【戦績】を見れば、ストライクゾーンの中に余り得意ではないコースもあるしな。
とは言え――。
「油断し過ぎるなよ。2人共」
ジャストミートすれば軽々フェンスオーバーというぐらいの能力値はあるのだ。
丁寧に勝負をする必要がある。
特に大宮選手は初球から積極的に振りに行くタイプの選手だ。
出会い頭の事故でホームラン、みたいなことも十分あり得る。
『1球目、内角低めに外れるスローカーブ! タイミングを外された大宮君は体勢を崩しながら何とか当てようとするも空振り! 1ストライク!』
恐らく速い球を待っていたのだろう。
これは磐城君に対しての配球が速球系ばかりだったのが効いたな。
ネクストバッターズサークルで観察し、狙いを定めていたに違いない。
それをすかされた形だ。
『2球目、外角高めから逃げる変化球! バットが届かず! 2ストライク!』
対角線の隅に今度は速い球。
緩急もあり、大きな変化の切れ味鋭いシュートに目が追いつかなかったようだ。
相手の打ち気を利用し、ボール球で2球連続の空振り。
いい感じに追い込んだ。
そして――。
『3球目、内角高めへのストレート! ギリギリいっぱい! 見逃し三振!』
大宮選手が今一得意ではないインハイへの直球で3球三振。
強打者として評価されているだけに彼自身にも相応の自負があり、3球勝負で来るとは思わなかったのかもしれない。
磐城君との格の違いが如実に表れた結果だな。
まあ、いずれにせよ、これで3アウトチェンジ。
1回の表終了だ。
『ランナー磐城君は残塁に終わりましたが、兵庫ブルーヴォルテックスユースはこの回先制点を挙げて1-0。山形県立向上冠高校の攻撃に移ります』
攻守交替。
やはり最初の8連続ボールが痛過ぎたが、切り替えていくしかない。
まずは何とか4番の大松君まで回して、同点に追いつきたいところ。
そのためには誰かが出塁する必要があるが……。
『1回の裏。先頭打者は1番浜中美海さん。女性の全国高校生硬式野球選手権大会決勝戦出場は史上初の出来事となります』
『ナックルボーラーとして話題沸騰中ですが、私としては甲子園打率3割後半の打撃にも注目したいですね』
『はい。1点を追いかける展開となりましたので、まずは出塁して反撃の足がかりを作りたいところではあります』
「……みなみー、がんば」
グッと拳を握るあーちゃん。
応援している声の調子ではないが、気持ちはスキルでちゃんと伝わってくる。
『ピッチャー磐城君。振りかぶって第1球を……投げました! 外角低めへの変化球が決まってストライク! 浜中さんはピクリとも動かず、見送りました』
初球はスライダー。
真ん中やや内寄りから大きく曲がってアウトローへ。
ストライクゾーンギリギリいっぱい。
『2球目は外角低めに外から入ってくる変化球。ファウル! 浜中さんは踏み込んで振りに行きましたが、打球は1塁線を切れていきました。これで2ストライク』
続く3球目は外角低めのクサイところをカット。
4球目も外角低め。チェンジアップに何とか食らいついてファウル。
こちらはこちらでアウトコースを続けてきたな。
しかし、向上冠高校バッテリーの配球とは違って遊び球がない。
兵庫ブルーヴォルテックスユースバッテリーは、磐城君のステータスを頼みにどんどん投げ込んできている。
『5球目。キャッチャー新田君は内に構えます』
……ここでインコースか。
恐らく、これもストライクゾーンで勝負してくるだろう。
美海ちゃんが外を意識し過ぎていなければいいが、さて。
『磐城君、振りかぶって……投げました! 打ちました! 三遊間真っ二つ! 打球はレフト前へ! 浜中さん、甲子園決勝の舞台でヒットを打ちました! 』
「みなみー、やった」
「うん。よく狙い澄ましてた」
フロントドアの低めのスライダーをうまいこと引っ張った。
転がった打球の球足は速く、三遊間の真ん中を抜けていった。
ただ、レフトの真正面だったこともあって長打にはならず。
シングルヒットどまりではあった。
とは言え、先頭打者でキッチリ出塁してくれたのだ。
十分な結果だろう。
見たところ、インコースにヤマを張って振りに行った、という感じだった。
割と思い切りのいい性格の美海ちゃんらしいヒットと言える。
そういった彼女の性格まで考えると、全球アウトコースの方が逆に抑えることができる可能性が高かったかもしれないな。結果から言えば。
ともあれ、これでノーアウト1塁。
1回表と同じように先頭打者が出塁できた。
『兵庫ブルーヴォルテックスユースはこのシチュエーションからバントの構えでしたが、山形県立向上冠高校はどうでしょうか』
『向上冠高校はそもそもバント自体が少ないので、可能性は低いかと思います。磐城君からバントをするというのも相当な技術を要しますからね』
『成程。そう言っている間に2番打者の菊池君は初球空振りで1ストライク! 思い切り振ってきました! やはりバントはなさそうです!』
まあ、陸玖ちゃん先輩の資料の中にもバントについての諸々の話はあるし、虻川先生もその辺りは重々承知して指示しているはずだ。
逆にこの場面は脊髄反射レベルでバントの選択肢を除外しているぐらいだろう。
『2ストライクから3球目を……投げた! 低めの球を引っかけた!』
「あ」
「あ」
『打球はセカンド正面! 4-6-3のダブルプレー!』
低めのワンシームでゴロからの併殺。
ノーアウトランナー1塁が2アウトランナーなし……。
「これならバントの方がマシ」
あーちゃんが嘆息気味に言い放つ。
うん。まあ。
そういうこともある。
確率の高い選択を積み重ねるとは言っても、所詮は確率。
どれだけやっても100%になることはない。
勿論、1年100試合以上を戦うペナントレースならある程度は収束もするだろうけども、1試合の中では想定通りにいかないことは多々ある。
これこそ短期決戦。
一発勝負の難しさという奴だろう。
勿論、今回の出来事だけを取り上げて是非を語ることもできない訳だけども。
やはり野球は難しい。
『3番佐藤君は3球三振で3アウトチェンジ! 山形県立向上冠高校、先頭打者の出塁を活かすことができず3人で攻撃終了となりました』
結果として山形県立向上冠高校は3人で攻撃を終えてスコアは0。
そして、そのまま試合は完全に硬直してしまった。
8回まで終えて1-0のまま。
全国高校生硬式野球選手権大会決勝戦は息詰まる投手戦の様相を呈していた。
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