第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第2章 雄飛の青少年期編

180 夏の甲子園を終えて

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 全国高校生硬式野球選手権大会決勝戦の翌日。
 スポーツ新聞やネットニュースには様々な見出しが躍っていた。

 華々しい決勝戦のさ中に起きた悪夢。
 熱い投手戦、衝撃の幕切れ。
 儚い復活劇。夢を絶たれた神童。
 再手術へ。選手生命の危機か。

 自然と目についてしまうせいでもあるはずだ。
 しかし、公立高校たる山形県立向上冠高校の初の全国優勝よりも正樹の怪我の方が大きく扱われているような印象がある。
 さすがにテレビニュースではその瞬間の映像を使うことが憚られるからか、山形県立向上冠高校の勝利を祝っているのがほとんどだが……。
 ネット記事の本数で言えば大体同じぐらいだし、SNSのトレンドランキングや検索サイトでの検索数では正樹の怪我の方が明らかに上だった。
 この世界特有の圧倒的な視聴率の高さもあって、あの瞬間をテレビで目にしてしまった人も多かったからだろう。

 俺も前世で染みついた忌避感に耐えながら再度動画で確認したところ、地面に突いた手が変な方向に曲がっているのが明確に見て取れる。
 苦手な人には、それこそトラウマにもなりそうな映像だった。
 ざわついた気持ちを落ち着けるために情報収集しようとしたり、何かしら自分の感情を発信しようとしたりしても何ら不思議なことではない。
 意識的にせよ、無意識的にせよ。

 そんな世間にとっても衝撃的な光景を目の当たりにして。
 俺は前世で平成の大投手の1人して数えられる選手を想起していた。
 かのピッチャーは3塁線へのバントフライを懸命に追いかけて突っ込んだことが引き金となり、靱帯断裂の重傷を負ったとされている。
 以後、長く過酷なリハビリ生活を送り、復帰するまで2年近くかかった。
 復活のマウンドで感謝を捧げるように膝を突き、プレートに右手を置いた姿は球史に残る名シーンとして語り継がれている。
 それは正に怪我の大きさとリハビリの厳しさを物語っていると言えるだろう。

 あるいは、怪獣の王の名前を冠した大打者が怪我をした当時の中継。
 彼の場合は手首だが、腕が異常な方向に曲がった瞬間が諸にテレビに映された。
 骨折なのでリハビリ期間は靭帯断裂に比べれば大分短かったものの、一目で大怪我と分かるそのシーンは繰り返し見たくはない個人的トラウマの1つだ。
 流血沙汰とはまた別のベクトルでゾワッとする。
 正樹の怪我の瞬間の映像はそれに類するものがあった。

「……はあ」

 一先ずディスプレイに散らばった動画や記事から視線を外し、深く嘆息する。
 今回、この一連の出来事を目の当たりにして改めて強く思う。
 怪我なんてこの世からなくなればいいのに、と。
 心の底から。

「……復帰は難しい?」

 本日の試合後。
 夜のホテルで情報収集をしていた俺に、すぐ隣からあーちゃんが尋ねてくる。
 さすがの彼女も今回ばかりは心配しているようだ。

「肩と肘の両方みたいだからな。かなり長引くかもしれないし、もしかすると投球フォームにも影響が出るかもしれない」

 今回のそれは酷使による消耗ではなく、完全なる急性の外傷。
 肩と肘の脱臼とそれに伴う肘靭帯断裂と肩腱板断裂は公式発表で確定している。
【しなやかな肢体】と【猫のような柔軟性】という怪我をしにくくなるスキルを所持しているにもかかわらず、これ程の大怪我を負ってしまった。
 余程無防備に倒れ込み、激しく手を突いてしまったのだろう。
 復帰には手術が不可欠で、リハビリをしても可動域が戻るかは不明とのことだ。

「長引く……影響が出る……けど、復帰はできる?」
「そうだな。それを忍耐強く待ってくれるチームさえあればな」
「…………手を引く?」
「いや、東京プレスギガンテスがいらないっていうなら、ウチは取りに行くさ」
「しゅー君がそう言うなら安心。何の問題もない」

 俺の答えを聞いたあーちゃんは、そう口にすると画面から視線を外した。
 見ると、その顔から心配の色がすっかり消え失せている。
 正に普段通り。ニュートラルな表情だ。

「いやいや」

 その余りの変わりように、思わずちょっと呆れてしまった。
 俺に任せておけば万事大丈夫だと確信している様子だ。
 既に明日の朝ご飯は何を食べよう、とか考えていそうな顔になっている。
 俺の言葉を欠片も疑っていないのが目に見えて分かる。
 とは言え、全ては正樹が再び長く過酷なリハビリを乗り越えた上での話だ。
 彼はこれから、正にその艱難辛苦に耐えなければならない。
 それは事実なのだから、少しぐらいは配慮して上げてもいいんじゃなかろうか。
 ……まあ、あーちゃんらしいと言えば、あーちゃんらしいけれども。

 そんなようなことを口にすると、彼女から反論が来る。

「でも、しゅー君だってそこまで不安視してない」

 ……おっと。【以心伝心】で伝わってしまったか。
 まあ、正直なところ。
 俺の中では最悪は免れたという認識もなくはないからな。
 大小はともかくとして怪我をしたのが右手だけなら、万が一再び靭帯をやった時のために頭の中で用意していた復帰プランをそのまま使うことができる。

 勿論、怪我を喜ぶ気など毛頭ない。
 だが、正樹の場合は【隠しスキル】【雲外蒼天】のおかげで、ステータスにプラス補正が加わるようになる事実もある。
 以前は【超早熟】のデメリット分を相殺した上で【体格補正】が-5%だった。
 日本人だとスポーツ選手でも大体それぐらいで、俺や磐城君、大松君もそうだ。
 しかし、今回の大怪我によって、正樹は【体格補正】のマイナスまで完全に打ち消すことができるようになる。
 つまり、彼はカンストしたステータスをフルで扱うことができるということだ。
 具体的には、最高球速が162km/hから170km/hになる。
 何とか復帰に漕ぎ着ければ、正樹は世代最強のスペックを持つことになる訳だ。

 ……なんて、ゲーム脳にも程があるな。
 そうとは知らない正樹が2度目の手術とリハビリを乗り越えることができるかどうかは、正に彼自身のメンタル次第になる。
 不安や混乱は精神を落ち着けるスキルである【明鏡止水】などである程度減じることができるものの、モチベーションは己の意思の力で保つ必要があるからな。

 怪我の影響は正樹のみに留まらない。
 双子の弟である昇二。
 対戦相手だった大松君……はそこまで引きずらないかもしれないけれども、幼馴染の1人である美海ちゃんにもフォローは必要だろう。

「早めに皆に会わないとな」
「ん」

 まだ遠征先のホテルにいるから、気軽に会いに行くことはできない。
 電話で少し話をしたものの、やはりメンタルケアは顔を合わせないと難しい。
 次のホームゲームの時には何とか時間を作りたいところだ。
 そんなことを考えていると、見覚えのある選手がテレビに映し出される。

『今回の怪我はさすがに運が悪かったとおっしゃられる方も多いですが、あの場面で無茶をしてしまうこと自体がナンセンスだと私は思いますね』
「…………コイツは相変わらず」
「ホントにな」

 どうやら、またぞろインタビューに行った奴がいたらしい。
 画面の中では、お馴染みの海峰永徳選手が正樹について言及していた。

『1アウトランナーなしの場面。わざわざダイビングキャッチなどしなくても、セカンドやショートの処理で十分間に合ったはずです。
 たとえ内野安打になったところで、得点の可能性は限りなく低い。決して無理をしなければならないような場面ではありませんでした』

 語り口がイラッとする。
 とは言え、この部分は一理あると言えば一理ある。

『懸命なプレーと言えば聞こえはいいですが、リスクを考えないプレーは怪我の元です。ああいうタイプは総じて選手寿命が短くなりがちです。
 全盛期を怪我で棒に振ってしまうこともザラでしょう』

 俺も前世では野球観戦中に、ダイビングキャッチとかのギリギリのプレーに対して無茶すんなとか、無理をする場面じゃないとか思ったりしたものだ。
 怪我を心配したり、ハラハラしたりする気持ちの方が勝ってしまって。
 しかしだ。

『以前も申し上げた通り、怪我だらけの野球人生は苦しいだけです。ここらで夢を手放してしまった方が楽になれます。
 そちらの方がクレバーなのではないでしょうか』

 だからと言って、そうした選手を馬鹿にしたりするのは違うだろう。
 常に全力プレーというのも1つの持ち味。
 人々を引きつける要素であるのは間違いないのだから。
 俺個人の趣味嗜好として、勝手にヒヤッとして目を逸らしたくなるだけで。

「ちっ」

 それもあり、澄ました顔の海峰選手に思わず舌打ちしてしまう。
 勿論、インタビューしに行く側にも問題はある。
 しかし、さすがに鬱陶しくなってきた。
 何より、彼が幅を利かせているのは日本野球界にとってもよろしくない。
 コイツがいるだけでWBWでの勝率も大幅に下がってしまうだろうしな。

「そろそろ海峰選手が日本代表に選ばれないようにしないと」
「どうするの? 闇討ち?」
「いやいやいやいや。犯罪行為はしないって」

 随分と物騒なことを言う。
【以心伝心】で感じている以上に、あーちゃんは彼を嫌っているのだろう。
 美海ちゃんの件もあるしな。

 いずれにしても、再び選ばれる余地が変に残るような形では駄目だ。
 真正面から彼の評価に疑義を呈し、選考外になるようにしないと意味がない。

「じゃあ、何をするの?」
「当然、奴の日本一って虚名を引っぺがすんだよ」
「……来年になれば自ずと日本一じゃなくなるだろうけど」
「それだけだと過去の名声で日本代表に入り込んでくる可能性が捨て切れないからな。しっかりチームの邪魔者ってことを示さないと」

 そのためにも。

「まずはインターンシップ部隊を頼ろう」
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