第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第3章 日本プロ野球1部リーグ編

231 魔球のススメ

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 オールスターゲーム明けの休養日。
 俺達は前日の夜に予約しておいた都内の屋内野球練習場を訪れていた。
 メンバーは俺とあーちゃん、美海ちゃん、昇二、倉本さん。
 それから今日の主役である大松君だ。
 これが終わったら、俺を含めた村山マダーレッドサフフラワーズ組の5人は新幹線のグランクラスを利用して山形に帰る予定だ。
 球団の手配ではないのでチャーター機ではない。
 大松君の方は川崎市にある東京プレスギガンテスの選手寮に帰ることになる。
 この屋内野球練習場に来た時もそうだったが、こちらはタクシーだろう。

「それで、具体的にどうすればいい?」
「いやいや、とりあえず方向性は示したけどさ。俺が1から10まで指示しちゃったら、大松君の芯になんてならないだろ?」

 ちょっと呆れ気味に俺が言うと、大松君は今一釈然としないような微妙な表情を浮かべながら美海ちゃんに視線を向けた。
 彼女は俺の提案そのままにナックルを習得し、それを半ば代名詞としていた。
 ドラフト会議前の特別番組で打ち込まれて自信を喪失した後も、2種類のスライダーを覚えて貰ったりと大分具体的にアドバイスをした。
 それだけに、贔屓じゃないかと思っているのかもしれない。
 つき合いの長い幼馴染だ。全くないとは言えないけれども……。
 それが主な理由ではないのは間違いない。

 美海ちゃんのナックルは、ピッチャー転向という無茶な話の中でのことだった。
 2種類のスライダーの時は相手のやり口が酷かったというのもあるが、いずれにしても根本的にステータスの不利がある中で早急に対処が必要な案件だった。
 身も蓋もない言い方をしてしまうなら、俺の想定している水準に達していなかった者を最低限のところまで無理矢理引き上げただけに過ぎない。
 色々巻き込んでしまった罪滅ぼしと、将来的な戦力確保のために。

 一方で、俺が大松君に求めているのはもっと高いレベルでの話になる。
 どこまでも冷徹に戦力を分析するなら、あくまでも美海ちゃんは「WBWを勝ち進んでいくために必要な戦力の1人」というのが俺の認識。
 だが、大松君の方は正に「アメリカ代表に勝つために必要な戦力の1人」だ。
 それこそ心技体、全てにおいて日本の最上位になって貰わなければならない。
 だから――。

「大松君の問題は決め球がないとかそういう上辺の話じゃない。根本的に自分に自信が持てるかどうか、壁に当たった時にどうするのか。そういう意識の問題だ」

 与えられた手札で勝負するしかないとはよく言うが、カードゲームならぬ現実では手札の組み合わせで新たな選択肢を生み出すこともできる。
 勿論、それがそのまま問題解決に繋がるかはまた別の問題ではあるけれども。
 そういった成否の部分も含めて、目の前の問題に自発的に対処しようとする経験は人生において大きな財産となるだろう。

 考えに考え抜いて、やれる限りのことをして。
 それでもどうにもならなくなってしまったら。
 後は開き直って当たって砕ける以外にない。
 諸々やり切った後なら、そういった選択も躊躇なくやれるようになるはずだ。
 少なくとも、変に迷って自分の力を発揮できなくなるよりは余程いい。

「大松君だって中学から6年以上、厳しい練習を積んできて、更にはプロの練習にだって対応してここにいるんだ。にもかかわらず、未だにそれを自信にできない」
「それは……」
「どこかで俺のおかげみたいな感覚が残ってるんじゃないか?」

 反感を買いそうなことを率直に問うが、大松君は俯いて口を噤むのみだった。
 今日まで確かに積み重ねてきた努力を芯にできなかった。
 それはやはり、心のどこかでその努力が自分だけのものだと心の底から思うことができなかったからだろう。
 彼も自覚はありそうだ。

【成長タイプ:マニュアル】であるが故に、どう足掻こうとも一切成長することができなかった苦難と絶望に満ちた小学校時代。
 そこから打って変わって世代のトップ層に躍り出た中学高校時代。
 俺と出会う以前と以後の落差が余りにも大き過ぎて、全て俺の指導の賜物という認識が心に深く刻み込まれてしまったのだ。
 それ自体は否定できない部分を多分に含んでいるが……。
 別に自分の手柄にしてしまっていいものをそこまで思い悩んでしまう辺り、彼も上辺の印象とは違って意外と真面目だ。
 あるいは完璧主義者とでも言うべきか。

「だからこそ、大松君には自覚的に行動して自分で作り上げた武器が必要なんだ」

 まあ、どこまでが自覚的な行動と言えるかは割と曖昧な話ではあるけれども。
 これまでの努力を誇れないと言うのなら、もっと彼自身の裁量となる部分を増やしていかなければならない。
 そうしてできた成果を、自らのものとして誇ることができればそれでいい。

「勿論、相手に研究されて武器が武器として成り立たなくなることもある。それでも自分で工夫した経験があれば、また新しい武器を作り出せもするだろうからな」

 大分説教臭くなってしまった気がしなくもないが、大松君は俺が口にした言葉を真剣に受けとめて咀嚼しているようだった。
 しばらくの間、黙って答えが出るのを待つ。

「……分かった。やってみるゼ」

 やがて、彼は顔を上げてそう言った。
 何にしても、まずは行動する。
 それもまた大事なことだ。

「でも、秀治郎。よくよく考えたら、人それぞれ変化は違うんだから全部オリジナル変化球ってことになるんじゃないの?」

 と、それまで静かに推移を見守っていた昇二が横から疑問を口にする。

「厳密に言えばそうだけどさ。その人の代名詞になる程のものは限られるだろ?」

 大多数のものは一定の類型に当てはめられる常識的な変化球だ。
 しかし、そこから逸脱したものが時折現れる。
 それがピッチャーを象徴するような球となっていく訳だ。

「大松君が目指すべきはそこ。それこそ魔球と見なされるぐらいの球だ」
「魔球、か……」

 俺の言葉を受け、大松君がしばらく考え込む。
 少しして、彼は妙案が思いついたと言わんばかりの表情を浮かべて口を開いた。

「魔球と言えば、一時期ジャイロボールがどうとかって話題になってたよな? アレなんかどうだい?」
「ジャイロボールぅ?」

 美海ちゃんが与太話を聞いてしまったみたいな声と共に繰り返す。

「ジャイロボールって、ウチは嘘っぱちって聞いたっすけど」
「アレって失投が偶々そんな感じになったってだけじゃないの?」

 倉本さんと昇二の口調も随分と訝しげだ。
 今生のそれも前世と似たような経過を辿っているらしい。
 元々は銃弾がジャイロ効果で弾道が安定することに着目し、だったらボールも螺旋回転させれば直進性が増すんじゃね? と考えた人間がいたことに端を発する。
 しかし、銃弾と野球のボールではそもそも形状が全く違う。
 ラグビーボールならともかく、螺旋回転による空力の影響が異なるのは当然だ。
 混同して扱うのはナンセンスとしか言いようがない。

 ただ、まあ。
 フィクションでそのまま使われた際に、取り上げた作者の力量によって妙な説得力でも生まれたのか妙に世間に広まってしまった。
 どうやらそれは今生でも同じで、その後プロ野球選手からジャイロボールなんて存在しないというコメントが出たところまで同じだったようだ。
 とは言え――。

「銃弾のイメージでの魔球ジャイロボールは存在しないけど、螺旋回転を与えられた球って意味ならジャイロボールは実在するぞ」
「……うん、まあ、それはそうだろうけど、何か意味あるの? それ」

 一応、ネットで調べれば今生でも出てくる内容なんだけどな。
 恐らくジャイロボールを否定する流れを目の当たりにして、わざわざ改めて調べてみようとは思いもしなかったのだろう。

「空力解析によると揚力が発生しないから落ちる球になってしまうらしい。で、空気抵抗も少ないから初速と終速の差も小さいんだとか」
「落ちる球、なの?」
「ああ。語弊があるかもしれないけど、まあ、物凄い縦スラみたいな感じらしい」

 トップスピン、あるいは少し軸の傾いた螺旋回転が縦のスライダー。
 これが完全な螺旋回転になると、より速く、鋭く落ちる球になるのだとか。
 本当にそんな回転で投げられるのかって話は脇に置いておく。

「凄いストレートって訳じゃないのね……」

 ちょっと残念そうに言う美海ちゃん。
 眉唾と思いつつも、どこかで存在して欲しかった気持ちもあるのだろう。

「いや、一応ストレートっぽいのもあるぞ」
「あるの!?」
「ああ。抜けスラとか抜けカットとか呼ばれてる奴な」

 前世で平成の怪物と呼ばれていた投手が「ジャイロボールの正体はスライダーのすっぽ抜け」と言及していたが、それに該当するものが多分これだ。

「この場合はストレートっぽい軌道で螺旋回転しているボールになるけど、その実態は抜けて浮き上がるような軌道になった結果、今一落ちなかった一種の失投だ」
「失投……」

 何だか落胆したような美海ちゃんの様子に苦笑する。
 さすがに聞こえが悪過ぎるか。

「失投は失投なんだけど、物凄く打ちにくいらしい。何せスライダーっぽい腕の振りと握りから、一応は直球かなって感じの軌道で来る訳だからな」

 厳密には直球……フォーシームとは全く別物のはずだけど。
 汚いストレートとか言った方がいいかもしれない。

「更に螺旋回転してるもんだから初速と終速の差も小さい。バッターがリリースポイントで行った予測とのズレがいくつも重なって、魔球と化しているんだろう」

 場合によってはシュート気味になったりすることもあるらしい。
 スライダーやカットボールを投げようとしていたはずなのに。
 それがまたバッターを混乱させる要素ともなる訳だ。

「へえ……中々面白いわね」
「まあ、結果として打ち取ることができれば、別に失投だろうが何だろうが数字の上では同じことっすからね」

 ピッチャー本人がどう思うかは別だけどな。
 結果重視の人ならともかく、内容重視の人は内心納得できないだろう。

「でも、もしそれを意図的に投げることができたら、凄いことになるかも?」
「そうっすね。打ちにくいのは間違いないみたいっすから」
「…………成程」

 昇二と倉本さんのやり取りを受け、しばらく黙って聞いていた大松君が呟く。
 この流れで行くと、もしかして――。

「その抜けカット? を練習してみようと思う」
「マジで?」

 驚いたような声と共に問いかけた俺だが、正直悪くないと内心思っていた。
 と言うのも、選択肢の1つとして頭の中にあったからだ。
 後は自分で選択したと思えるようにうまく誘導できれば……とも考えてはいたけど、大松君自身が積極的になってくれたようでよかった。助かった。

 何せ抜けスラ、抜けカットは、前世の偉大な大リーガーが意図的に投げていたんじゃないかとも言われていた魔球でもあるからな。
 今生でも、モー・サンドマン投手がそれを駆使している節があるし。
 そうは言っても凡人が習得するには机上の空論に近い話だが、変化球の制御に関するスキルをいくつも持つ俺達ならば十分可能性がある。
 成功すれば、大松君を仮想モー・サンドマン投手と見なすこともできるだろう。
 大松君は自信がつくし、俺は打倒アメリカ代表のための練習相手を得られる。
 正にWin-Winだ。

「よし。じゃあ、少し試してみよう」
「ああ!」

 とは言え、彼は余所の球団の選手。
 明日以降のこともあるので、今日のところは主にフォームとリリースポイントのチェック、それから軽めのキャッチボールで感覚を掴む程度に留めておく。
 それでも何となく方向性は掴めたらしく……。
 解散する時には、大松君の表情は晴れやかなものに変わっていたのだった。
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