第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第3章 日本プロ野球1部リーグ編

239 落山秀充との対談

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 横浜ポートドルフィンズの本拠地球場である横浜アイドクレーススタジアム。
 その近くにある滞在先のホテルから、ジャンボタクシーを利用して都内某所の動画撮影も可能なレンタルスタジオへと向かう。
 落山さんの動画チャンネルは主に東京都にある自宅で撮影しているようだが、今回は対談ということもあって別の場所で撮ることになっていた。

「早く来過ぎた?」
「ここは待合室もあるレンタルスタジオみたいだし、問題ないんじゃないか?」

 場所によっては「待合スペースがないので時間ピッタリに来て下さい」と注意書きがあるところもあるが、ここはそうではない。
 早ければ早い程いいとはならないことも往々にしてあるのが社会人のアポイントメントというものだが、迷惑にさえならなければ早く来ていても構わないだろう。
 まあ、微妙に待たなければならないのも事実で、いくら他には誰もいないとは言っても待合室を総勢5人で占有しているのは小市民的には心苦しい部分もある。
 なので、備えつけの自販機から飲み物を何本か、多めに買ったりしておいた。
 それを同行者の3人に配る。

「ありがとー」
「ありがとうございます……」

 その内の2人。アシスタントとして同行している諏訪北さんと仁科さんは、明らかに普段と様子が違っていた。

「大丈夫? 2人共」
「緊張しちゃってー、駄目だよー」
「わ、私もです……」

 大御所の登場を目前にしてガチガチになり、渡したお茶をカパカパ飲んでいる。
 今からそんなので大丈夫かと思うが、気持ちは分からないでもない。
 残る1人である広報担当の関川さんも心なしかソワソワしているぐらいだしな。
 ただ、この調子だと撮影中にトイレに行きたくなってしまいそうだ。

「美瓶もすずめも対談する訳じゃないのに」
「いやー、そうは言ってもー、相手が相手だからー、仕方ないってー」
「あの落山秀充ですよ? 落山秀充。野球経験者なら普通は緊張しますよ」

 それはそうだろう。
 何せ落山さんは元1部リーグのプロ野球選手で、複数回三冠王に輝いている正に日本プロ野球界の生けるレジェンドの1人だ。
 俺の今生が始まるより前に既に現役を引退していたが、日本プロ野球史を振り返るような特番があれば必ず取り上げられる選手だから割と馴染みもある。
 現役の生半可な選手よりもプレイを目にする機会が多いぐらいかもしれない。
 それもあって俺でさえ少し緊張というか、割と高揚している自覚がある。
 この場で普段と変わらないのは、とにかくマイペースなあーちゃんだけだろう。

「おっと。待たせてしまったみたいだね」

 と、その待合室に正にその落山秀充が入ってきて申し訳なさそうに言った。
 時刻は約束の時間の少し前。
 チャンネルスタッフと思われる男女を3人程伴っている。
 いや、もしかすると身内か? まあ、それはどっちでもいいや。

「早く来たのは私達の方ですので、問題ありません」

 そんな落山さん達を前にして、俺は速やかに立ち上がって応じた。
 そのまま自己紹介と挨拶に入る。
 礼儀正しく、印象をよくしなければ。

「村山マダーレッドサフフラワーズの野村秀治郎です。落山さん、お会いできて光栄です。本日はよろしくお願いいたします」
「妻の茜です。夫共々、よろしくお願いいたします」

 合わせて隣に並んだあーちゃんも続き、それから俺達は一緒に頭を下げた。
 落山さんは前世と足し合わせても年上の相手だし、立場的にも目上の人間だ。
 行儀よく振る舞うように、あーちゃんにもよくよく頼み込んである。

「うん。私が落山秀充です。2人共、今日はよろしくお願いします」

 穏やかな口調と柔らかな笑顔と共に手を差し出してくれた落山さんに、こちらもまた意識的に表情を和らげながら彼の手を握る。

「まあ、もう1回やるけどね」
「ええ」

 予約の時間になったのでスタジオに入り、改めて段取りを確認する。
 俺達が応対している間に、落山さんが入ってきた瞬間に硬直したようになっていた関川さん達も立ち直ったようだ。
 簡単にセットも作り、動画の撮影を開始する。
 巻き戻したように先程と同じような自己紹介を録画しながら互いに行ったところで一先ず編集点を作り、それから対談がスタートした。

「まずは今更ながら、村山マダーレッドサフフラワーズのリーグ優勝おめでとう」
「「ありがとうございます」」

 シーズン中にこんなことをしていられるのも既にリーグ優勝を決めたおかげだ。
 そうでもなければ、試合があるのに一体何をやってるのかと批判されかねない。
 プレーオフまでまだ間が空いている時期なのもタイミングがいいと言える。

「あれから1ヶ月半程経って公営リーグの方も両リーグ共にリーグ優勝が決まってプレーオフ進出チームもボチボチ決まりつつある状況だけど、村山マダーレッドサフフラワーズは盤石といったところかな」
「はい。1部リーグ昇格初年度での日本一という栄光を必ず掴み取るつもりです」
「……成程。やはり、あくまでも通過点という面持ちだね」

 鋭い眼光と共に見透かされたように言われてしまい、少しばかり怯む。
 一応、熱がこもっているような演技はしたつもりではあったのだが。
 まあ、それぐらいの観察眼がなければ、三冠王複数回などなし得ないか。

「当然のことだけど、今年の日本プロ野球界の台風の目は村山マダーレッドサフフラワーズ、特に野村秀治郎君。君だった」
「その自覚と自負はあります」
「謙虚も過ぎれば傲慢になるからね。そこはそう思っていて貰わないと困る」

 数字という形で明確に示してしまった以上、今の自分を卑下したら日本プロ野球1部リーグ全体に対する侮辱にもなりかねない。
 性根の部分は小市民に過ぎなくても、それを否定することは許されない。

「今シーズン、そんな君を俺も一野球人としてずっと見てきた」
「恐縮です」
「その中で俺が感じたのはアメリカ代表を打倒しようという意思だ。君は、WBWで優勝することだけを真っ直ぐに見据えているように思う」
「……はい。そのつもりでいます」
「この前の動画も、それに関連して出さざるを得なかった、という感じかな」
「そうですね。現アメリカ代表に打ち勝つには、日本野球界全体レベルアップが必要ですから。都合よく世間の目が集まった機会だったので利用させて貰いました」

 そのおかげで、前世に比べると大幅に遅れている今生の日本野球の時計の針をいくらか先に進めることができたのではないかと思う。

「途上の技術に飛びついて、それが全てとなるのは危険なことでもありますし」
「シンクロしてタイミングを合わせて、というのも確かに大事ではあるけど、とにかくギリギリまで引きつけて打つことが絶対的に求められる世界があるからね」
「落山さんも現役の時は始動を遅く、引きつけて打つタイプでしたよね」
「よく知ってるね」
「お手本のようなバッティングですから、よく拝見していました」

 俺の言葉に、落山さんは少し嬉しそうに微笑んでから口を開いた。

「単純な話。長くボールを見ることができる方が有利だからね。そして、自分のポイントに呼び込んで、しっかりとバットの芯で捉える。勿論、始動を遅くしても間に合うだけのスイングスピードが求められるけどね」

 正に我が意を得たりと言うべきか、とにかく打てば響く感じが凄い。
 しかし、言葉の重みは段違いだ。
 俺なんかは結局のところ前世の誰かの受け売りに過ぎないけれども、落山さんは自らの経験を基に語っているからだろう。

「バッティングの根幹はシンプルですよね。それを実行できるかは別ですが」
「うん。とにかく無駄を削ぎ落とすことが重要だ。ピッチャーが投げ、そこから見極めて打つ。バッターに許された時間は短い。あれやこれやとしている暇はないからね。そういう意味では君のバッティングフォームは非常に理想的と言える」

【成長タイプ:マニュアル】故のステータスで補正がかかったフォームだからな。
 当然と言えば当然だ。

「ただ、稀に無茶な打ち方をする時があるよね? それは控えた方がいい。基礎の部分がしっかりしているからこそ、あそこまで形を崩して打っても捉えられるのはそうなんだろうけど、やっぱり怪我だけはして欲しくないからね」
「あ、あー……」
「落山さん。もっと言ってあげて下さい。秀治郎は野球では無茶をするので」

 反応に困っていると、あーちゃんが横から正に伴侶っぽいことを言ってくる。
 こんなタイミングで以前よりも大幅に改善された社交性を発揮してきた彼女に対し、思わず苦笑してしまう。
 落山さんも微笑ましげに笑っている。

「奥さんもこう言っているしね。大事な人には心配をかけるものじゃないよ」
「は、はい。ですが、打倒アメリカのために必要と思えば躊躇わないつもりです」
「……もし四球攻めへの対抗ということだけなのであれば、そこは俺達に任せて欲しい。どう考えても選手1人が負うべきことじゃないからね」

 まあ、俺が変な打ち方をする時は大概、相手が敬遠とバレないように臭いところに投げてのフォアボールで誤魔化そうって時ぐらいのものだからな。
 さすがに分かり易過ぎたか。
 どうあれ、それに関する諸々については何よりも世論の盛り上がりが必要になってくる話だし、であれば発言権が強い人を味方につけた方がいい。
 ここは素直に頼らせて貰うとしよう。

「よろしくお願いします」
「ああ」

 そこで一旦話が途切れ、一応また編集点を作る。
 それから俺はチラッとあーちゃんを見て合図を出した。
 彼女はそれを受け、事前に用意していた話のネタを振る。

「落山さんは最近のピッチャーについてどうお思いですか? 現役時代に比べて進歩しているように感じられますか?」
「ピッチャーか。……そうだね――」

 その問いに落山さんは深く考え込み、少しして再び口を開いたのだった。
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