15 / 38
第三話 夕星那由多は恐れがない②
しおりを挟む
「一番上の兄上が、間もなくこの世界の視察に来るそうだ」
テレジアのやや強張った物言いにゲベットとアンナは言葉を失った。
それ故、少しの間ヴェルトラウム城謁見の間を沈黙が支配し、それはゲベットが何とか自失状態から脱して口を開くまで続いた。
「つ、ついに、その時が?」
「ああ。さっき、爺から連絡があった」
テレジアは目を閉じて感情を排するように淡々と告げる。
「と言うことは――」
「うむ。その結果如何では……父上が来る」
しかし、それを口にしたテレジアの表情は強張っていた。
「知っての通り、父上は厳格という言葉では言い表せない程強硬的な実力主義者だ。弱者は強者に従うべしという理念を貫き、それに従って数多ある異世界を侵略している」
「はい。存じています」
ゲベットは心を無理矢理に落ち着かせて静かに頷いた。
対して、アンナは未だに呆然としつつ無意識にゲベットに寄り添っていた。
「とは言え、それこそ無数にある世界に対する侵略だ。父上一人では手が足りん。故に主に自らの子供に、つまりは我が兄弟姉妹を送り込み、その足がかりとしている訳だ」
「〈魔導界ヴェルタール〉の名に相応しく、魔法の力を用いて、ですね」
「そうだ。しかし、世界を繋げば〈ヴェルタール〉の特色たるマナが流入する。結果として本来魔法のない世界に魔法が生まれ、〈ヴェルタール〉の者への反抗の力となる訳だ」
この地球の現状に鑑みながらゲベットは首を縦に振った。
「となれば、中には反乱を起こされ、討ち取られる者もいるし、侵略が容易に進まないといったことも往々にしてある。当然、兄弟姉妹同じ人間ではないからな。能力そのものの差、相性、運、様々な要因がある。しかし――」
テレジアはそこで一呼吸置き、さらに硬い口調で続けた。
「父上は実力主義者であると同時に、結果が全てという人間だ。いかなる理由であれ、侵略を速やかに遂行できない者は実力がないと判断され、容易く処分されてしまう」
「自分の子供なのに?」
アンナが小さく問う。理解できないからではない。親が無条件に子を愛するとは限らないことぐらいは、彼女自身も身を以って知っている。
それは、だからこその両親への侮蔑を含めた確認の問いだった。
「あるいは、自分の子供だからこそ、なのかもしれないがな」
「どういうこと?」
「我が兄弟姉妹がどれ程苦戦していた世界であろうと、父上が自ら出張ればほとんど一瞬にして片がつく。実力主義は正に己の力に裏づけされている訳だが、だからこそ、そんな自身の血を引く者は力があって然るべきと考えているのだろう」
つまり、それが果たせない者は己の子ではない、ということだ。
「力こそ全て。それは確かに世の理だが、父上の考えは少しばかり窮屈だ」
「……だからと言って、徹夜でゲームは奔放が過ぎますけどね」
テレジアはゲベットのからかいに一瞬だけ表情を緩めたが、すぐさま引き締め直した。
「それも今日までだ。父上に現状が伝われば、どう判断されるかは分かり切っている」
「遊びは終わり」
「そうだな。もはやモラトリアムは終わりだ」
そう固く告げたテレジアにゲベットとアンナは深く頷いた。
「テレジア様のため、そして、己自身のために」
「何があろうともお兄様と共に、テレジア様と共に」
自身の心を真っ直ぐに告げる二人に対し、テレジアもまたゆったりと頷き返した。
「私と、私の大切なお前達のために、私もまた身命を賭そう」
そして、万感の思いと共に静かでありながら、力強い声で告げる。
それは普段のテレジアとは大きく異なり、世間一般が持つ彼女に対するイメージに少し近い、威厳に満ちたヴェルトラウム城の主としての姿だった。
「さあ。私達の本気というものを、見せてやろう」
テレジアのやや強張った物言いにゲベットとアンナは言葉を失った。
それ故、少しの間ヴェルトラウム城謁見の間を沈黙が支配し、それはゲベットが何とか自失状態から脱して口を開くまで続いた。
「つ、ついに、その時が?」
「ああ。さっき、爺から連絡があった」
テレジアは目を閉じて感情を排するように淡々と告げる。
「と言うことは――」
「うむ。その結果如何では……父上が来る」
しかし、それを口にしたテレジアの表情は強張っていた。
「知っての通り、父上は厳格という言葉では言い表せない程強硬的な実力主義者だ。弱者は強者に従うべしという理念を貫き、それに従って数多ある異世界を侵略している」
「はい。存じています」
ゲベットは心を無理矢理に落ち着かせて静かに頷いた。
対して、アンナは未だに呆然としつつ無意識にゲベットに寄り添っていた。
「とは言え、それこそ無数にある世界に対する侵略だ。父上一人では手が足りん。故に主に自らの子供に、つまりは我が兄弟姉妹を送り込み、その足がかりとしている訳だ」
「〈魔導界ヴェルタール〉の名に相応しく、魔法の力を用いて、ですね」
「そうだ。しかし、世界を繋げば〈ヴェルタール〉の特色たるマナが流入する。結果として本来魔法のない世界に魔法が生まれ、〈ヴェルタール〉の者への反抗の力となる訳だ」
この地球の現状に鑑みながらゲベットは首を縦に振った。
「となれば、中には反乱を起こされ、討ち取られる者もいるし、侵略が容易に進まないといったことも往々にしてある。当然、兄弟姉妹同じ人間ではないからな。能力そのものの差、相性、運、様々な要因がある。しかし――」
テレジアはそこで一呼吸置き、さらに硬い口調で続けた。
「父上は実力主義者であると同時に、結果が全てという人間だ。いかなる理由であれ、侵略を速やかに遂行できない者は実力がないと判断され、容易く処分されてしまう」
「自分の子供なのに?」
アンナが小さく問う。理解できないからではない。親が無条件に子を愛するとは限らないことぐらいは、彼女自身も身を以って知っている。
それは、だからこその両親への侮蔑を含めた確認の問いだった。
「あるいは、自分の子供だからこそ、なのかもしれないがな」
「どういうこと?」
「我が兄弟姉妹がどれ程苦戦していた世界であろうと、父上が自ら出張ればほとんど一瞬にして片がつく。実力主義は正に己の力に裏づけされている訳だが、だからこそ、そんな自身の血を引く者は力があって然るべきと考えているのだろう」
つまり、それが果たせない者は己の子ではない、ということだ。
「力こそ全て。それは確かに世の理だが、父上の考えは少しばかり窮屈だ」
「……だからと言って、徹夜でゲームは奔放が過ぎますけどね」
テレジアはゲベットのからかいに一瞬だけ表情を緩めたが、すぐさま引き締め直した。
「それも今日までだ。父上に現状が伝われば、どう判断されるかは分かり切っている」
「遊びは終わり」
「そうだな。もはやモラトリアムは終わりだ」
そう固く告げたテレジアにゲベットとアンナは深く頷いた。
「テレジア様のため、そして、己自身のために」
「何があろうともお兄様と共に、テレジア様と共に」
自身の心を真っ直ぐに告げる二人に対し、テレジアもまたゆったりと頷き返した。
「私と、私の大切なお前達のために、私もまた身命を賭そう」
そして、万感の思いと共に静かでありながら、力強い声で告げる。
それは普段のテレジアとは大きく異なり、世間一般が持つ彼女に対するイメージに少し近い、威厳に満ちたヴェルトラウム城の主としての姿だった。
「さあ。私達の本気というものを、見せてやろう」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる