あの日の誓いを忘れない

青空顎門

文字の大きさ
24 / 38

第四話 焔火斂は空気を読まない⑦

しおりを挟む
「間もなく矢は消える。それと同時に敵が来るぞ」

 堅苦しい鎧を解き放ち、征示は一同を見回しながら告げた。

「……これは露払いの爆撃みたいなもんか」
「そんなところだろう。全く迷惑な話だ」
「か、火斂、何を普通に――」

 動じずに会話を続ける火斂と、全容を知るテレジアとは対照的に、那由多達三人は動揺の色を濃くしたままだった。

「征示……お前、本物なのか?」
「模糊の妹、その問答は後にしろ。来るぞ」

 そうテレジアが那由多を窘めると同時に矢が止まり、再び強大な魔力が励起した。
 そして、砕けた空に生じた空間の大穴から無数の影が舞い降りる。

「あれは、魔導機兵、なのか?」

 それはテレジアが用いるふざけたデザインの魔導機兵とは全く趣が異なり、明らかに他者を傷つけるためにあると視覚的にも分かる鋭利な形状をしていた。

『……愚かな末妹の入れ知恵か。そこそこ高等な魔法を使う猿がいるようだな』

 そして、中心から〈魔導界ヴェルタール〉語による侮蔑的な言葉と共に男が現れる。距離的に言葉が届くはずがないが、恐らく風属性の魔法を利用しているのだろう。

「シュタルク・フォン・ヴェルトラウム。長兄のお出ましか」
「ヴェルトラウム? っちゅうことは、テレジアの関係者か何かなんか?」

 三人の中で逸早く落ち着きを取り戻したらしい旋風が問う。

「ああ。テレジア様の兄だ」

 テレジアとシュタルクを比べれば、シュタルクが金髪碧眼であることを除けば、誰が見ても顔立ちが似ていると感じることだろう。

「〈魔導界ヴェルタール〉の全てを支配する帝国の第一皇子。魔導師としての力はテレジア様を遥かに上回る。それでも父たる皇帝に比べれば、所詮尖兵に過ぎないけどな」
「ど、どうするんですか?」

 不安の滲み出た口調ながら、状況は受け止められた様子の水瀬が問う。

「言っただろ? 四人は魔導機兵を、俺とテレジア様で奴を叩く」

 そう告げるとテレジアと視線を交わし合い、征示は敵の許へと向かおうとした。と、火斂がその行く手を遮るように目の前へと歩み出てくる。

「待てよ。俺も親玉の相手をするぜ」
「火斂?」
「テレジアよりも遥かに強いんだろ? 勝てる保証はあるのか?」

 その問いに思わず黙り込んでしまう。あれはこれまでの誰よりも強大な敵だ。いや、初めての、本当の敵と言った方が正確かもしれない。
 対策は十二分に立てているものの絶対ではない。
 隙を見せれば、命を取られるだろう。

「俺も力を貸す」
「しかし、魔導機兵を野放しにする訳にも――」
「それぐらい今の大原や海保なら楽勝だろ?」

 挑発するように尋ねる火斂に旋風は「今回は見せ場を譲ったるわ」と声高に告げ、それに流されるように水瀬も頷く。

「危険な奴の相手をさせたくないって気持ちはありがたいけどな。お前は色々一人で背負い過ぎだ。少しぐらい俺にも背負わせろ。つうか、今までのあれやこれはそのための準備だったんだろ? 今となっちゃ俺達を気遣う必要なんてないじゃないか」
「……本当に、察しがいい」

 何だかんだと頼りになる火斂へと苦笑を向け、それから頷きを交わす。

「よし。なら、行こうぜ」
「ま、待て待て。隊長である私を差し置いて話を進めるな。私も行くぞ」
「な、那由多もか?」
「全容は分からないが、私はもう征示に置いていかれたくない。本当の意味で肩を並べて戦いたいのだ」

 そう告げて真っ直ぐ視線を逸らさない那由多に、征示は同じだけ真剣に見詰め返した。

「……ここから先は命の保証はないぞ? 覚悟はあるのか?」
「結果思い違いだったとしても、俺達は命張って戦ってきたつもりだ。むしろ、精神的に場数が足りないのはお前の方じゃないか? ずっと茶番を続けてきたんだからな」
「……違いないな。なら、行くぞ、二人共」
「ああ」「ありがとう、征示」
「旋風と水瀬も、形が違っても魔導機兵の性能はそう変わらない。蹴散らしてしまえ!」
「任せてえな」「了解です」

 色々と混乱しているだろうにすぐに団結してくれる皆に心の中で感謝しつつ、テレジアを振り返る。と、彼女はそんな一同の様子を眩しそうに見守っていた。

「いい仲間を持ったな、征示。……やはり私は間違えていなかった」

 それから空にある兄へと鋭い視線を向け、テレジアは静かに告げた。

「二五年。全てはこの時のためにあった。さあ、本当の戦いを始めるとしよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...