あの日の誓いを忘れない

青空顎門

文字の大きさ
27 / 38

第五話 テレジア・フォン・ヴェルトラウムは見捨てない③

しおりを挟む
 目の前で突然四倍に膨れ上がった戦力を前に、火斂と那由多は戦いのペースを乱されていた。それは征示自身も同じだったが、理由は恐らく違う。
 征示のそれは真の初陣故の気負い。
 対して、二人は不慣れな戦いの流れの中にあるが故だ。

(繰り返した茶番。思えば死力を尽くすような戦いに持ち込んだことはなかったな)

 常にゲベットを操りつつ、命を賭す以前の段階で征示自身が戦いを治めてきた。
 全ての戦いで参謀として指示を出してきた。
 だからこそ、〈リントヴルム〉の面々は、地力や心構えはあっても、力のペース配分とでも言うべきものが少々甘い。何より、力を出し切るべき場面に鼻が効かないのだ。

(しかし――)

 地力は確かにあるのだ。それはこの二五年、テレジアとヴァールハイトが計画し、模糊や征示達が理詰めで実行してきた成果の一部。
 自ら火を点けられずとも、確かな爆発力はその身に宿しているはずなのだ。

(そうですよね? テレジア様)

 自分を見出し、導いてくれた彼女へと一瞬だけ視線を向ける。と、実の兄と対峙する最中、彼女もまたこちらに強い想いを込めた瞳を返してきた。
 そして、互いに頷き合い、視線を戻す。

土闇二元連関〈闇を纏い、オーバー・クロス・鎧と成す〉ダークマター

 テレジアとアンナの二人から受け取った魔力を用い、彼女達のゲベット祈りを宿す漆黒の甲冑を生み出す。と同時にヴァールハイトから学んだ構えを取って八体の魔造精霊に挑む。
 真淵流奥義、空の型。先手を取り続け、一方的に封殺するための構えだ。

「どうした、火斂! 那由多! その程度か!?」

 そうして己を一段階上のレベルに引き上げて八体を抑え込みつつ、それぞれ四体ずつを相手にして防戦一方となっている二人を鼓舞する。

「あ、あのなあ、俺達はペース配分をだな――」

 火斂が空気を読めと言わんばかりに反論してくる。
 確かに長期戦を想定するのであれば、この戦い方は正しい。如何に魔力の源は周囲に無尽蔵にあるとは言え、属性魔力にも生産能力というものがあるからだ。
 勿論、魔力のチャージ時間が不必要なレベルの者を隊員には選んでいるが、以前とは違い、圧縮魔力を扱い始めたことで配分を考える必要が出てきているのだ。しかし――。

「今は気にするな」
「だが、征示。さらに増援があったらどうする?」
「そうなったら、その時点でお手上げだ。ペース配分を気にしていても、そもそも意味がなくなる。なら、俺達を舐めている今しかチャンスはない。ここで一気に攻める!」

 異世界人を見下す傾向にあるシュタルクとは言え、さすがに初撃を堪えた相手に戦いの初っ端から油断し切る程愚かではない。いや、真っ当ではない、と言うべきか。
 何故なら、敵の戦力を一旦しっかり分析した上で、苦しみが最も長引く程度に抑えた力を以って相手をなぶるのが彼の侵略の形だからだ。
 だが、それ故に、こちらの戦力を見切ったと思い込み、征示達を甚振いたぶらんとしている今こそ彼は真に油断している。

(もう俺達に余力があるとは夢にも思っていないだろう)

 ここが力を振り絞るべき一点だ。
 そして、シュタルクの予想を超えて魔造精霊を倒せれば、彼は必ず動揺し隙を見せる。
 そこをテレジアに突いて貰う。

「ま、俺はさっきまでの戦いで不完全燃焼だったからな。お前がそう言うのなら、ここらでスカッと全力出させて貰うぜ」
「よし。私の力、私の全てを見ていてくれ! 征示! 〈神降かみおろしあまてらす〉!」
「全く……隊長ももう完全に立ち直ったな。〈啓示アポカリプス・オブ・熾天〉セラフィム

 二人同時に魔法を発現し、次の瞬間、那由多は光と化し、火斂はその身を炎に変じた。

「一気に行くぞ!」
「ああ!」「おう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

処理中です...