28 / 38
第五話 テレジア・フォン・ヴェルトラウムは見捨てない④
しおりを挟む
「何だとっ!?」
攻勢に転じた彼等を見て、シュタルクが驚愕の声を上げる。
(……皆、よく育ってくれた)
数の不利をものともせず、敵へと挑んでいく姿に不覚にも目頭が熱くなる。二五年という時の確かな成果を目の当たりにして。
だからこそ、テレジアは己の道に誇りを持って力強く告げることができる。
「言っただろう。彼等は私などよりも真っ当に強い、と」
「く、ならば、さらに数を増やせば――」
「させると思うか? さあ、力を示せ、〈魔剣グレンツェン〉!」
テレジアは天高く構えた剣に呼びかけ、その力を発現させた。
瞬間、戦域全体におびただしい数の空間の穴が生じ始める。
「な、何をするつもりだ!?」
「証明するのさ。強さを」
そう言葉を返す間にも空間の穴は増殖を続け、やがて周囲の空間は穴が占める割合の方が大きくなる。こうなるとシュタルクは、テレジアさえも身動きがままならない。
とは言え、身体属性魔力化や〈魔剣グレンツェン〉を用いた空間転移なら退避は不可能ではないが、前者には対策がある。それは〈魔導界ヴェルタール〉では周知の方法故、あちらの人間は安易に身体属性魔力化を使うことはない。
また、慢心の塊の如きシュタルクが後者のような逃げを今この場で実行することはないだろう。あるいは冷静であれば分からなかったが、まだ根本的な部分では己の優位を信じ、油断が抜け切っていない様子を見るに、選択肢そのものが頭から抜け落ちているかのようだ。
故に、ここまでで既に王手。そして次で詰みだ。
「私一人の力では兄上には敵わない。だが、私達の絆は兄上を超える!」
だから、テレジアは顔だけを彼に向けて全力で叫んだ。
「征示いいいいいっ!」
戦場を切り裂く程の大音声。その呼び声は八体の魔造精霊を叩き伏せていた征示に確かに届き、そして、彼は空高く手を掲げてテレジアに応えるように叫んだ。
「〈大収斂・流星煌雨・無量大数〉!」
極限まで収束されて放たれた無数の光は、全て空間の穴に吸い込まれ――。
「終わりだ、兄上! 〈無限次元蜂刺〉!」
吸い込まれた光はシュタルクを完全に包囲した無数の穴からランダムのタイミングで撃ち出され、空間の穴に動きを封じられた彼に襲いかかる。
もはや回避不可能だ。
「く、ぐおおおおっ!」
それでも尚、魔力の盾を生み出し、致命傷となる光の直撃だけは防ぎ続けるシュタルクはさすがと言うべきだろう。もし一対一の真っ向勝負だったなら、テレジアでは触れることもできなかったに違いない。しかし――。
「私は弱い。だが、私達は強い」
圧縮された魔力を用いて発動した光の魔法を堪え切ることは、如何に彼でも叶わない。
やがて光が弱まり空間の穴が消え去った後、そこにあったのは全身を光に貫かれて焼かれ、虫の息となった兄の姿だった。
「私達の勝ちだ。兄上」
「ふ、ふふ。早、計……だな。愚かな、テレジア。〈再生の炎〉」
そう告げた瞬間、シュタルクの全身が炎に包まれる。
己の身体を再生させると共に反撃に繋げるために、身体異物質化を行ったのだ。
「甘いっ! 征示っ!」
「はい、テレジア様! 〈超振指向・黒死大共鳴〉!」
既に魔造精霊を消し去り、傍に控えていた征示が魔法を発現させる。
同時に僅かな耳鳴りがテレジアの頭の中を駆け巡った。しかし、予想はしていたことなので、顔を僅かにしかめただけで済む。
いつか彼がゲベットとして旋風に使用した、周囲に魔力の波を放つ魔法。その強化版。
それは圧縮魔力を用いて発動し、指向性を持たせたことで、比較的魔力の波に耐性を持つ身体異物質化状態の敵にすら耳鳴りでは済まない衝撃を与え、無力化することができる。
「ぐ、く、ああああああああああっ!」
そして、絶叫と共にシュタルクが再び生身の姿を取る。熱傷こそ時間を戻したように治っていたが、彼は頭を抑え込み、苦悶の表情を浮かべていた。
実体と化したからには魔法の波にこれ以上の効果はないが、攻撃の隙としては十分だ。
テレジアは〈魔剣グレンツェン〉の代わりに闇の中から銃を取り出し――。
「〈魔銃クラフト・イリス〉全弾解放っ!」
六発の弾丸を同時に射出した。
膨大な魔力が込められたそれらは、容赦なくシュタルクの全身を穿っていく。
「が、はっ」
一瞬置いて、息を吐き出す音と共に空に血飛沫が咲き乱れた。
「ぐっ、テレ、ジアアアアァッ!」
「……言ったはずだぞ、兄上。私達の勝ちだと。もはや兄上に勝ち目はない」
血と共に吐き出された怨嗟に塗れた声と憎悪に満ちた彼の視線を、テレジアは真正面から受け止め、冷淡とも取れる静かな声を返した。
「時間稼ぎの駒すら、もはや存在しない」
それぞれ四体の魔造精霊を倒し、合流した那由多と火斂を一瞥しつつ告げる。
「悪いが、日本語で頼む」
「こら、空気を読め、火斂」
余裕あるかけ合いを頼もしく思いつつ、テレジアは砕けんばかりに歯を噛み締めているシュタルクへと視線を向けた。
二人を加え、四方からシュタルクを取り囲んでいる今の状態は完全に詰みだ。
「私は慈悲深い。兄上には選択肢を与えて差し上げよう。今この場で死ぬか、無様に〈魔導界ヴェルタール〉に戻って父上に処断されるか。……さあ、好きな方を選べ」
「俺は……他の雑魚共とは違い、父上に必要とされている」
「っ! 何を勝手な――」
そんな兄の都合のいい考えに苛立ちを覚え、思わず銃の引き金に指をかけてしまう。
「テレジア様」
しかし、窘めるような征示の呼びかけに、テレジアは眉をひそめながらも指を外して絞り出すように声を出した。
「そう思うのなら、帰ればいい。そして、二度とこの世界に現れるな!」
〈魔剣グレンツェン〉を構え直して両手剣と化し、異世界への扉を作り出す。
膨大な魔力によって扉を操り、シュタルクを呑み込ませる。目的地は〈魔導界ヴェルタール〉〈帝都ユスティーツ〉〈首城ヴァイクラフト〉の謁見の間だ。
そして、兄の姿が消え去る直前、テレジアはさらに言葉を投げつけた。
「父上に伝えておけ。この世界を脅かす者は誰であれ排除する、とな!」
「愚かなテレジア。父上に勝てるつもりか?」
「私達には秘策がある。たとえ父上が相手だろうと、勝って見せる!」
そう啖呵を切るテレジアを見たシュタルクは「ふん」と鼻で笑うような音を残し、そのまま次元の穴の中へと消えていった。
「ここには私の大切なものがある。大切な、心を繋いだ本当の家族がいる。だから、何があろうとも奪わせない。必ず……勝つ」
二五年越しの初陣を終え、嘘のような静寂が戻った空の中。
テレジアは自らを鼓舞するように小さく呟いたのだった。
攻勢に転じた彼等を見て、シュタルクが驚愕の声を上げる。
(……皆、よく育ってくれた)
数の不利をものともせず、敵へと挑んでいく姿に不覚にも目頭が熱くなる。二五年という時の確かな成果を目の当たりにして。
だからこそ、テレジアは己の道に誇りを持って力強く告げることができる。
「言っただろう。彼等は私などよりも真っ当に強い、と」
「く、ならば、さらに数を増やせば――」
「させると思うか? さあ、力を示せ、〈魔剣グレンツェン〉!」
テレジアは天高く構えた剣に呼びかけ、その力を発現させた。
瞬間、戦域全体におびただしい数の空間の穴が生じ始める。
「な、何をするつもりだ!?」
「証明するのさ。強さを」
そう言葉を返す間にも空間の穴は増殖を続け、やがて周囲の空間は穴が占める割合の方が大きくなる。こうなるとシュタルクは、テレジアさえも身動きがままならない。
とは言え、身体属性魔力化や〈魔剣グレンツェン〉を用いた空間転移なら退避は不可能ではないが、前者には対策がある。それは〈魔導界ヴェルタール〉では周知の方法故、あちらの人間は安易に身体属性魔力化を使うことはない。
また、慢心の塊の如きシュタルクが後者のような逃げを今この場で実行することはないだろう。あるいは冷静であれば分からなかったが、まだ根本的な部分では己の優位を信じ、油断が抜け切っていない様子を見るに、選択肢そのものが頭から抜け落ちているかのようだ。
故に、ここまでで既に王手。そして次で詰みだ。
「私一人の力では兄上には敵わない。だが、私達の絆は兄上を超える!」
だから、テレジアは顔だけを彼に向けて全力で叫んだ。
「征示いいいいいっ!」
戦場を切り裂く程の大音声。その呼び声は八体の魔造精霊を叩き伏せていた征示に確かに届き、そして、彼は空高く手を掲げてテレジアに応えるように叫んだ。
「〈大収斂・流星煌雨・無量大数〉!」
極限まで収束されて放たれた無数の光は、全て空間の穴に吸い込まれ――。
「終わりだ、兄上! 〈無限次元蜂刺〉!」
吸い込まれた光はシュタルクを完全に包囲した無数の穴からランダムのタイミングで撃ち出され、空間の穴に動きを封じられた彼に襲いかかる。
もはや回避不可能だ。
「く、ぐおおおおっ!」
それでも尚、魔力の盾を生み出し、致命傷となる光の直撃だけは防ぎ続けるシュタルクはさすがと言うべきだろう。もし一対一の真っ向勝負だったなら、テレジアでは触れることもできなかったに違いない。しかし――。
「私は弱い。だが、私達は強い」
圧縮された魔力を用いて発動した光の魔法を堪え切ることは、如何に彼でも叶わない。
やがて光が弱まり空間の穴が消え去った後、そこにあったのは全身を光に貫かれて焼かれ、虫の息となった兄の姿だった。
「私達の勝ちだ。兄上」
「ふ、ふふ。早、計……だな。愚かな、テレジア。〈再生の炎〉」
そう告げた瞬間、シュタルクの全身が炎に包まれる。
己の身体を再生させると共に反撃に繋げるために、身体異物質化を行ったのだ。
「甘いっ! 征示っ!」
「はい、テレジア様! 〈超振指向・黒死大共鳴〉!」
既に魔造精霊を消し去り、傍に控えていた征示が魔法を発現させる。
同時に僅かな耳鳴りがテレジアの頭の中を駆け巡った。しかし、予想はしていたことなので、顔を僅かにしかめただけで済む。
いつか彼がゲベットとして旋風に使用した、周囲に魔力の波を放つ魔法。その強化版。
それは圧縮魔力を用いて発動し、指向性を持たせたことで、比較的魔力の波に耐性を持つ身体異物質化状態の敵にすら耳鳴りでは済まない衝撃を与え、無力化することができる。
「ぐ、く、ああああああああああっ!」
そして、絶叫と共にシュタルクが再び生身の姿を取る。熱傷こそ時間を戻したように治っていたが、彼は頭を抑え込み、苦悶の表情を浮かべていた。
実体と化したからには魔法の波にこれ以上の効果はないが、攻撃の隙としては十分だ。
テレジアは〈魔剣グレンツェン〉の代わりに闇の中から銃を取り出し――。
「〈魔銃クラフト・イリス〉全弾解放っ!」
六発の弾丸を同時に射出した。
膨大な魔力が込められたそれらは、容赦なくシュタルクの全身を穿っていく。
「が、はっ」
一瞬置いて、息を吐き出す音と共に空に血飛沫が咲き乱れた。
「ぐっ、テレ、ジアアアアァッ!」
「……言ったはずだぞ、兄上。私達の勝ちだと。もはや兄上に勝ち目はない」
血と共に吐き出された怨嗟に塗れた声と憎悪に満ちた彼の視線を、テレジアは真正面から受け止め、冷淡とも取れる静かな声を返した。
「時間稼ぎの駒すら、もはや存在しない」
それぞれ四体の魔造精霊を倒し、合流した那由多と火斂を一瞥しつつ告げる。
「悪いが、日本語で頼む」
「こら、空気を読め、火斂」
余裕あるかけ合いを頼もしく思いつつ、テレジアは砕けんばかりに歯を噛み締めているシュタルクへと視線を向けた。
二人を加え、四方からシュタルクを取り囲んでいる今の状態は完全に詰みだ。
「私は慈悲深い。兄上には選択肢を与えて差し上げよう。今この場で死ぬか、無様に〈魔導界ヴェルタール〉に戻って父上に処断されるか。……さあ、好きな方を選べ」
「俺は……他の雑魚共とは違い、父上に必要とされている」
「っ! 何を勝手な――」
そんな兄の都合のいい考えに苛立ちを覚え、思わず銃の引き金に指をかけてしまう。
「テレジア様」
しかし、窘めるような征示の呼びかけに、テレジアは眉をひそめながらも指を外して絞り出すように声を出した。
「そう思うのなら、帰ればいい。そして、二度とこの世界に現れるな!」
〈魔剣グレンツェン〉を構え直して両手剣と化し、異世界への扉を作り出す。
膨大な魔力によって扉を操り、シュタルクを呑み込ませる。目的地は〈魔導界ヴェルタール〉〈帝都ユスティーツ〉〈首城ヴァイクラフト〉の謁見の間だ。
そして、兄の姿が消え去る直前、テレジアはさらに言葉を投げつけた。
「父上に伝えておけ。この世界を脅かす者は誰であれ排除する、とな!」
「愚かなテレジア。父上に勝てるつもりか?」
「私達には秘策がある。たとえ父上が相手だろうと、勝って見せる!」
そう啖呵を切るテレジアを見たシュタルクは「ふん」と鼻で笑うような音を残し、そのまま次元の穴の中へと消えていった。
「ここには私の大切なものがある。大切な、心を繋いだ本当の家族がいる。だから、何があろうとも奪わせない。必ず……勝つ」
二五年越しの初陣を終え、嘘のような静寂が戻った空の中。
テレジアは自らを鼓舞するように小さく呟いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる