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第十一話:偽りの聖女と、王都の勅命
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私たちが「竜の喉笛」と名付けた、北の川岸にある小さな村は、奇跡的な速さで復興を遂げていた。
サイラスが改良を重ねた解毒薬は、村から病の影を完全に消し去った。ヴァレリウスは、騎士団の兵士たちを巧みに使い、村に衛生的で恒久的な上下水道を建設していた。かつて死を待つだけだった村は、今や王都のどの区画よりも清潔で、活気に満ちた場所へと生まれ変わっていたのだ。
その光景を、ギデオンは複雑な表情で丘の上から見つめていた。私は、報告書を手に、彼の隣に並ぶ。
「これが、村の最終的な被害状況と、復興計画の概要です。騎士団の協力に、心から感謝します」
「……礼を言われる筋合いはない。私は、ただ騎士としての務めを果たしているだけだ」
彼はそっけなく答えたが、そのオーラに以前のような敵意はない。ただ、深い混乱の色だけが渦巻いていた。
「首都に送った報告に対し、まだ何の返答もない。嵐の前の静けさ、というやつかもしれんな」
「ええ」
私は、彼が見つめる先──遥か彼方にある王都へと視線を向けた。「次の一手は、向こうがどう動くか次第です」
その「次の一手」は、私たちが想像していたよりも、遥かに速く、そして悪意に満ちた形で届けられた。
王城の玉座の間は、かつてないほどの緊張に包まれていた。
みすぼらしい姿で逃げ帰った代官が、涙ながらにギデオンの「反逆」と、アニエスの「妖術」を訴え、大臣たちは対応を決めかねていた。その中で、聖女セレスティーナは、静かに、しかし力強く立ち上がった。
「お父様、そして皆様。もはや、躊躇している時ではございません」
その声は、鈴のように凛と響いたが、私の『鑑定眼』を持つ者がいたならば、彼女の黄金色のオーラの奥底で、嫉妬と憎悪の黒い炎が燃え上がっているのが見えただろう。
「姉は……アニエスは、邪悪な魔女となりました。国から追われた異端者たちを唆し、禁断の術を用いて、偽りの奇跡を起こしています。そして、あろうことか、王家の騎士団長までも誑かし、王国に反旗を翻したのです!」
彼女の悲痛な叫びは、見事な芝居だった。婚約者を奪われ、国を憂う、健気な聖女。その姿に、優柔不断な国王も、廷臣たちも、完全に心を奪われていた。
「このままでは、国が二つに割れてしまいます! 邪悪は、芽生えたうちに、根絶やしにしなければなりません!」
セレスティーナの言葉に呼応するように、一人の男が進み出た。神殿騎士団を束ねる、大審問官タイベリウス。聖女の最も狂信的な崇拝者であり、その冷酷さで知られる男だ。
「聖女様のお言葉、まことにございます。かの者どもは、もはや王国にとっての『病』そのもの。速やかに『浄化』せねば、国全体が蝕まれましょう。このタイベリウスに、聖なる討伐の許可を!」
その声が、評議会の空気を決定づけた。国王は、青ざめた顔で、弱々しく頷いた。
復興した村に、一騎の伝令が砂塵を巻き上げて駆け込んできたのは、その三日後のことだった。王家の紋章を掲げたその伝令は、ギデオンと、彼の隣に立つ私の前で、高らかに勅命を読み上げる。
「国王陛下、並びに聖女セレスティーナ様からの勅命である!」
その場にいた村人たちが、緊張して息を呑む。
「元凶たる魔女アニエス、異端者サイラス、国賊ヴァレリウス、そして彼らに与した反逆者ギデオンとその配下の者たちに告ぐ!」
伝令の言葉は、まるで罪人の名を読み上げるかのように、一人一人の名を断罪していく。
「貴殿らの行いは、王国と神への最も悪質な反逆と認定された。よって、大審問官タイベリウス卿を総司令官とする『聖浄軍』を派遣する。速やかに投降し、聖なる裁きを受けよ。さもなくば、村ごと浄化の炎に焼かれるであろう!」
勅命を読み終えた伝令は、羊皮紙を叩きつけるように私たちに投げ渡し、馬首を返して去っていった。
後に残されたのは、死のような沈黙。
村人たちの顔から、ようやく取り戻したばかりの笑顔が消え、再び絶望の色が浮かぶ。
だが、私の心は、不思議なほどに静かだった。
ヴァレリウスが、サイラスが、そして、ギデオンが、静かに私の隣に並び立つ。その瞳に、もはや迷いはない。
偽りの聖女が、ついに牙を剥いた。対話や交渉の余地などない、殲滅宣言。
「……面白い」
私は、小さく呟いた。
「望むところですわ。私たちの『力』が、彼らの『権威』に勝ることを、証明して差し上げましょう」
国に捨てられた者たちの反撃は、今、国そのものを相手取る、大いなる戦いへと姿を変えようとしていた。
サイラスが改良を重ねた解毒薬は、村から病の影を完全に消し去った。ヴァレリウスは、騎士団の兵士たちを巧みに使い、村に衛生的で恒久的な上下水道を建設していた。かつて死を待つだけだった村は、今や王都のどの区画よりも清潔で、活気に満ちた場所へと生まれ変わっていたのだ。
その光景を、ギデオンは複雑な表情で丘の上から見つめていた。私は、報告書を手に、彼の隣に並ぶ。
「これが、村の最終的な被害状況と、復興計画の概要です。騎士団の協力に、心から感謝します」
「……礼を言われる筋合いはない。私は、ただ騎士としての務めを果たしているだけだ」
彼はそっけなく答えたが、そのオーラに以前のような敵意はない。ただ、深い混乱の色だけが渦巻いていた。
「首都に送った報告に対し、まだ何の返答もない。嵐の前の静けさ、というやつかもしれんな」
「ええ」
私は、彼が見つめる先──遥か彼方にある王都へと視線を向けた。「次の一手は、向こうがどう動くか次第です」
その「次の一手」は、私たちが想像していたよりも、遥かに速く、そして悪意に満ちた形で届けられた。
王城の玉座の間は、かつてないほどの緊張に包まれていた。
みすぼらしい姿で逃げ帰った代官が、涙ながらにギデオンの「反逆」と、アニエスの「妖術」を訴え、大臣たちは対応を決めかねていた。その中で、聖女セレスティーナは、静かに、しかし力強く立ち上がった。
「お父様、そして皆様。もはや、躊躇している時ではございません」
その声は、鈴のように凛と響いたが、私の『鑑定眼』を持つ者がいたならば、彼女の黄金色のオーラの奥底で、嫉妬と憎悪の黒い炎が燃え上がっているのが見えただろう。
「姉は……アニエスは、邪悪な魔女となりました。国から追われた異端者たちを唆し、禁断の術を用いて、偽りの奇跡を起こしています。そして、あろうことか、王家の騎士団長までも誑かし、王国に反旗を翻したのです!」
彼女の悲痛な叫びは、見事な芝居だった。婚約者を奪われ、国を憂う、健気な聖女。その姿に、優柔不断な国王も、廷臣たちも、完全に心を奪われていた。
「このままでは、国が二つに割れてしまいます! 邪悪は、芽生えたうちに、根絶やしにしなければなりません!」
セレスティーナの言葉に呼応するように、一人の男が進み出た。神殿騎士団を束ねる、大審問官タイベリウス。聖女の最も狂信的な崇拝者であり、その冷酷さで知られる男だ。
「聖女様のお言葉、まことにございます。かの者どもは、もはや王国にとっての『病』そのもの。速やかに『浄化』せねば、国全体が蝕まれましょう。このタイベリウスに、聖なる討伐の許可を!」
その声が、評議会の空気を決定づけた。国王は、青ざめた顔で、弱々しく頷いた。
復興した村に、一騎の伝令が砂塵を巻き上げて駆け込んできたのは、その三日後のことだった。王家の紋章を掲げたその伝令は、ギデオンと、彼の隣に立つ私の前で、高らかに勅命を読み上げる。
「国王陛下、並びに聖女セレスティーナ様からの勅命である!」
その場にいた村人たちが、緊張して息を呑む。
「元凶たる魔女アニエス、異端者サイラス、国賊ヴァレリウス、そして彼らに与した反逆者ギデオンとその配下の者たちに告ぐ!」
伝令の言葉は、まるで罪人の名を読み上げるかのように、一人一人の名を断罪していく。
「貴殿らの行いは、王国と神への最も悪質な反逆と認定された。よって、大審問官タイベリウス卿を総司令官とする『聖浄軍』を派遣する。速やかに投降し、聖なる裁きを受けよ。さもなくば、村ごと浄化の炎に焼かれるであろう!」
勅命を読み終えた伝令は、羊皮紙を叩きつけるように私たちに投げ渡し、馬首を返して去っていった。
後に残されたのは、死のような沈黙。
村人たちの顔から、ようやく取り戻したばかりの笑顔が消え、再び絶望の色が浮かぶ。
だが、私の心は、不思議なほどに静かだった。
ヴァレリウスが、サイラスが、そして、ギデオンが、静かに私の隣に並び立つ。その瞳に、もはや迷いはない。
偽りの聖女が、ついに牙を剥いた。対話や交渉の余地などない、殲滅宣言。
「……面白い」
私は、小さく呟いた。
「望むところですわ。私たちの『力』が、彼らの『権威』に勝ることを、証明して差し上げましょう」
国に捨てられた者たちの反撃は、今、国そのものを相手取る、大いなる戦いへと姿を変えようとしていた。
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