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第十六話:最後の突撃と、砕け散る狂信
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理性を失った聖浄軍の総攻撃は、もはや戦術と呼べるものではなかった。それは、ただ獲物に向かって殺到する、獣の群れの突進だった。
「もはや軍隊ではありません。ただの暴徒です」
見張り台の上で、私は冷静に呟いた。
「ヴァレリウス、第二防衛線を起動。ギデオン、正面ゲートを死守してください。サイラス、お客様が退屈しないよう、最高のおもてなしを」
私の指示は、即座に実行に移された。
タイベリウス率いる先陣が、村の目前に迫った時、彼らの足元の地面が、再び崩落した。ヴァレリウスが仕掛けた、最後の隠し罠だ。しかし、今回はただの穴ではない。穴の底からは、粘り気の強い、燃える油が噴き出した。火矢が放たれると、瞬く間に炎の壁が出現し、敵の進軍を分断する。
「怯むな! 進め!」
タイベリウスは、燃え盛る味方を文字通り踏み越えて、なおも前進を命じる。その狂気に満ちた兵士たちが、炎を回り込んで城壁に取り付こうとした瞬間、今度はサイラスの「もてなし」が彼らを襲った。
壁の上から投げ込まれた無数のガラス玉が、地面に叩きつけられて砕け、中から、目も眩むほどの閃光と、鼓膜を突き破るほどの轟音が放たれた。サイラスが調合した、光と音の爆弾だ。方向感覚を失い、混乱して同士討ちを始める兵士たち。戦場は、もはや地獄の様相を呈していた。
しかし、その地獄の中心を、大審問官タイベリウスだけは、悪鬼の如き形相で突き進んでいた。彼の黒曜石のオーラは、怒りによって、人のものとは思えぬほどに膨れ上がっている。
「魔女め……! アニエスはどこだ!」
彼は、ついに村の正門に到達し、その巨大な戦斧で、扉を粉々に打ち砕いた。その先で彼を待ち受けていたのは、蒼穹のオーラを静かに燃やす、騎士団長ギデオンだった。
「ここから先へは、一歩も通さん」
「裏切り者が! 神の敵に与する、万死に値する罪人め!」
ギデオンとタイベリウス。二人の騎士の、壮絶な一騎打ちが始まった。タイベリウスの攻撃は、狂信からくる、重く、破壊的な一撃。対するギデオンは、それを冷静な剣技で受け流し、好機を窺う。実力は拮抗していたが、憎悪に身を任せるタイベリウスの猛攻に、ギデオンは徐々に追い詰められていく。
私は、見張り台から、その戦いのすべてを見ていた。そして、『鑑定眼』を、タイベリウスの一挙手一投足に集中させる。彼の動き、彼のオーラ、そのすべてを。
見えた。
彼の強大なオーラの中に、一点だけ、僅かな「揺らぎ」が。それは、彼が過去の戦いで負った、左脇腹の古傷。彼は、無意識にそこを庇い、右からの大振りの攻撃の後に、ほんの一瞬だけ、左側の防御が甘くなる癖があった。
「伝令!」私は叫んだ。「ギデオン様に伝えなさい! 『右を誘い、左を突け』と!」
伝令兵が、決死の覚悟で戦場の只中を駆け抜ける。私の言葉は、タイベリウスの斧を剣で受け止め、膝をつきかけていたギデオンの耳に、確かに届いた。
ギデオンは、覚悟を決めたように、あえて隙だらけの右側をタイベリウスに晒した。
「終わりだ、裏切り者!」
タイベリウスが、勝利を確信して、渾身の力で戦斧を振り下ろす。ギデオンは、その一撃を紙一重で身を翻してかわし、がら空きになった彼の左脇腹に、洗練された、一筋の閃光のような突きを放った。
甲冑を貫く、鈍い音。
タイベリウスの動きが、完全に止まった。彼は、信じられないという顔で、自らの脇腹に突き刺さる剣を見下ろし、そして、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
総大将の敗北。それは、すでに混乱の極みにあった聖浄軍の士気を、完全に粉砕した。誰かが「退却だ!」と叫ぶのを合図に、彼らは武器を捨て、我先にと逃げ出していく。
戦いは、終わった。
後に残されたのは、無数の武器と、傷ついた兵士たち、そして、大地に響き渡る、私たちの勝利の雄叫びだった。
ギデオンが、倒れたタイベリウスの前に立ち、静かに剣を構える。私は、見張り台から降り、彼の元へと歩み寄った。
私たちの戦いは、まだ終わっていない。
偽りの聖女が君臨する、あの王都。
私の眼は、すでに、次の戦場を見据えていた。
「もはや軍隊ではありません。ただの暴徒です」
見張り台の上で、私は冷静に呟いた。
「ヴァレリウス、第二防衛線を起動。ギデオン、正面ゲートを死守してください。サイラス、お客様が退屈しないよう、最高のおもてなしを」
私の指示は、即座に実行に移された。
タイベリウス率いる先陣が、村の目前に迫った時、彼らの足元の地面が、再び崩落した。ヴァレリウスが仕掛けた、最後の隠し罠だ。しかし、今回はただの穴ではない。穴の底からは、粘り気の強い、燃える油が噴き出した。火矢が放たれると、瞬く間に炎の壁が出現し、敵の進軍を分断する。
「怯むな! 進め!」
タイベリウスは、燃え盛る味方を文字通り踏み越えて、なおも前進を命じる。その狂気に満ちた兵士たちが、炎を回り込んで城壁に取り付こうとした瞬間、今度はサイラスの「もてなし」が彼らを襲った。
壁の上から投げ込まれた無数のガラス玉が、地面に叩きつけられて砕け、中から、目も眩むほどの閃光と、鼓膜を突き破るほどの轟音が放たれた。サイラスが調合した、光と音の爆弾だ。方向感覚を失い、混乱して同士討ちを始める兵士たち。戦場は、もはや地獄の様相を呈していた。
しかし、その地獄の中心を、大審問官タイベリウスだけは、悪鬼の如き形相で突き進んでいた。彼の黒曜石のオーラは、怒りによって、人のものとは思えぬほどに膨れ上がっている。
「魔女め……! アニエスはどこだ!」
彼は、ついに村の正門に到達し、その巨大な戦斧で、扉を粉々に打ち砕いた。その先で彼を待ち受けていたのは、蒼穹のオーラを静かに燃やす、騎士団長ギデオンだった。
「ここから先へは、一歩も通さん」
「裏切り者が! 神の敵に与する、万死に値する罪人め!」
ギデオンとタイベリウス。二人の騎士の、壮絶な一騎打ちが始まった。タイベリウスの攻撃は、狂信からくる、重く、破壊的な一撃。対するギデオンは、それを冷静な剣技で受け流し、好機を窺う。実力は拮抗していたが、憎悪に身を任せるタイベリウスの猛攻に、ギデオンは徐々に追い詰められていく。
私は、見張り台から、その戦いのすべてを見ていた。そして、『鑑定眼』を、タイベリウスの一挙手一投足に集中させる。彼の動き、彼のオーラ、そのすべてを。
見えた。
彼の強大なオーラの中に、一点だけ、僅かな「揺らぎ」が。それは、彼が過去の戦いで負った、左脇腹の古傷。彼は、無意識にそこを庇い、右からの大振りの攻撃の後に、ほんの一瞬だけ、左側の防御が甘くなる癖があった。
「伝令!」私は叫んだ。「ギデオン様に伝えなさい! 『右を誘い、左を突け』と!」
伝令兵が、決死の覚悟で戦場の只中を駆け抜ける。私の言葉は、タイベリウスの斧を剣で受け止め、膝をつきかけていたギデオンの耳に、確かに届いた。
ギデオンは、覚悟を決めたように、あえて隙だらけの右側をタイベリウスに晒した。
「終わりだ、裏切り者!」
タイベリウスが、勝利を確信して、渾身の力で戦斧を振り下ろす。ギデオンは、その一撃を紙一重で身を翻してかわし、がら空きになった彼の左脇腹に、洗練された、一筋の閃光のような突きを放った。
甲冑を貫く、鈍い音。
タイベリウスの動きが、完全に止まった。彼は、信じられないという顔で、自らの脇腹に突き刺さる剣を見下ろし、そして、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
総大将の敗北。それは、すでに混乱の極みにあった聖浄軍の士気を、完全に粉砕した。誰かが「退却だ!」と叫ぶのを合図に、彼らは武器を捨て、我先にと逃げ出していく。
戦いは、終わった。
後に残されたのは、無数の武器と、傷ついた兵士たち、そして、大地に響き渡る、私たちの勝利の雄叫びだった。
ギデオンが、倒れたタイベリウスの前に立ち、静かに剣を構える。私は、見張り台から降り、彼の元へと歩み寄った。
私たちの戦いは、まだ終わっていない。
偽りの聖女が君臨する、あの王都。
私の眼は、すでに、次の戦場を見据えていた。
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