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第二十話:真実の光と、夜明けの王国
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大神殿のバルコニーに立つセレスティーナは、まさに神の使いそのものだった。彼女が『暁の水晶』を天に掲げると、広場を埋め尽くす数十万の民衆から、地鳴りのような祈りの声が湧き上がる。
「聖女様……我らに、聖なる光を……」
セレスティーナは、恍惚とした表情で目を閉じ、袖に隠した音叉を、誰にも気づかれぬよう、微かに震わせた。水晶が、その音に共鳴し、内側から、まばゆい黄金の光を放ち始める。
「ご覧なさい! 奇跡が、今……!」
廷臣の一人が叫んだ、まさにその瞬間だった。
「今です、サイラス!」
私の合図に、時計塔の窓から、サイラスが二つの粘土玉を投げ放った。それは、正確無比な軌道を描いて、セレスティーナが立つバルコニーの両脇にある、巨大な柱の陰へと吸い込まれるように着弾し、音もなく砕けた。
次の瞬間、世界は黄金色に染まった。
セレスティーナが掲げる水晶から、神々しいまでの光が放たれ、広場は真昼のような明るさに包まれる。民衆は、その奇跡にひれ伏し、涙を流して感謝の祈りを捧げた。
だが、その神聖な光景は、わずか一秒後、滑稽な茶番へと姿を変えた。
ボフッ!という間抜けな音と共に、バルコニーの柱の陰から、水晶と全く同じ黄金色の光が、二筋、天へと向かって噴き出したのだ。しかも、その光には、聖女の奇跡とは到底思えぬ、紫色の、卵の腐ったような臭いの煙がまとわりついていた。
「「「…………え?」」」
広場を支配していた熱狂が、急速に冷えていく。人々は、目の前で起きている奇妙な光景を、理解できずにいた。聖女様から放たれる、聖なる光。そして、そのすぐ脇の柱から、悪臭と共に噴き出す、全く同じ色の光。
「な……なにあれ……」
「煙が、臭い……」
「おい、見ろよ……光が、三つあるぞ……?」
セレスティーナは、自らが放つ光の中で、何が起きているのかを把握できずにいた。しかし、民衆のどよめきが、祈りの声から、疑念の声へと変わっていくのに気づき、その顔から血の気が引いていく。私の『鑑定眼』には、彼女のオーラが、借り物の黄金色から、恐怖と混乱に満ちた、濁った泥の色へと変わっていくのが、はっきりと見えていた。
「アニエス、衛兵が時計塔に気づいた! 行くぞ!」
ギデオンが叫ぶ。だが、まだだ。まだ、終われない。
私は、サイラスが用意した、声を集めて遠くへ届けるための、小さなメガホンを手に取った。そして、混乱の渦の中心にある、王都のすべての人々に向けて、私の最後の言葉を放つ。
「王国の民よ! その眼で、真実を見なさい!」
増幅された私の声が、広場に響き渡る。人々は、声の主を求め、一斉に時計塔を見上げた。
「あなた方が奇跡と崇めるその光は、からくり仕掛けの手品に過ぎない!」
私は、バルコニーを指さした。
「洪水から人々を救ったのは、聖女の祈りではない! 技術者ヴァレリウスの、知恵と努力です!」
「あなた方の病を癒したのは、聖女の祝福ではない! 薬師サイラスの、知識と探求心です!」
「真の奇跡とは、誰か一人の聖女が起こすものではない! 国を想い、人のために働く、名もなき人々の、誠実な心の中にこそ宿るものだ!」
私の叫びは、人々の心に深く突き刺さった。彼らは、北の村で起きた、もう一つの「奇跡」の噂を思い出していた。
「私はアニエス! 国に捨てられた者たちと共に、真実を取り戻すために、ここへ来た!」
セレスティーナは、時計塔の上に立つ私を見て、狂ったように叫んだ。
「魔女め! あの魔女を捕らえよ!」
しかし、彼女の権威は、すでに失墜していた。民衆の眼は、もはや崇拝ではなく、冷たい疑惑の色を宿している。その視線に耐え切れず、セレスティーナは水晶を取り落とし、腰を抜かしてへたり込んだ。
偽りの聖女が堕ちた、その瞬間だった。
その後、王都は大混乱に陥った。私たちは、ギデオンの機転で、時計塔から地下水道へと逃れ、追手を撒くことに成功した。
聖女の失墜により、国王とその側近たちは、すべての権威を失った。民衆の支持を得たのは、ヴァレリウスが進める治水事業によって、着実に国を豊かにし始めていた、私たち「反逆者」だった。
数月後。
国王は退位し、聡明であった第一王子が、新たな王として即位した。彼の治世のもと、ヴァレリウスは、国のインフラを整備する建設長官に。サイラスは、身分を問わず、誰もが最新の医療を受けられる、王立研究所の所長に就任した。ギデオンは、国民を守るための、真の騎士団長として、その職務に復帰した。
セレスティーナは、すべての罪を告白し、王都から遠く離れた修道院で、静かにその罪を償う日々を送っているという。
そして、私は──。
「アニエス様、次の候補者のリストです」
「ありがとう、ボルグ」
私は、プロデューサーとして、この国に埋もれている、数多の「本物の輝き」を見つけ出す旅を続けていた。国に捨てられた者、不当に評価されなかった者。私の『鑑定眼』は、今、この国を、真に豊かにするために使われている。
かつて、偽りの光が照らしていたこの国に、今、無数の、本物の小さな光が灯り始めている。それらが集まり、やがてこの国全体を照らす、大きな夜明けが来ることを、私は、確信していた。
「聖女様……我らに、聖なる光を……」
セレスティーナは、恍惚とした表情で目を閉じ、袖に隠した音叉を、誰にも気づかれぬよう、微かに震わせた。水晶が、その音に共鳴し、内側から、まばゆい黄金の光を放ち始める。
「ご覧なさい! 奇跡が、今……!」
廷臣の一人が叫んだ、まさにその瞬間だった。
「今です、サイラス!」
私の合図に、時計塔の窓から、サイラスが二つの粘土玉を投げ放った。それは、正確無比な軌道を描いて、セレスティーナが立つバルコニーの両脇にある、巨大な柱の陰へと吸い込まれるように着弾し、音もなく砕けた。
次の瞬間、世界は黄金色に染まった。
セレスティーナが掲げる水晶から、神々しいまでの光が放たれ、広場は真昼のような明るさに包まれる。民衆は、その奇跡にひれ伏し、涙を流して感謝の祈りを捧げた。
だが、その神聖な光景は、わずか一秒後、滑稽な茶番へと姿を変えた。
ボフッ!という間抜けな音と共に、バルコニーの柱の陰から、水晶と全く同じ黄金色の光が、二筋、天へと向かって噴き出したのだ。しかも、その光には、聖女の奇跡とは到底思えぬ、紫色の、卵の腐ったような臭いの煙がまとわりついていた。
「「「…………え?」」」
広場を支配していた熱狂が、急速に冷えていく。人々は、目の前で起きている奇妙な光景を、理解できずにいた。聖女様から放たれる、聖なる光。そして、そのすぐ脇の柱から、悪臭と共に噴き出す、全く同じ色の光。
「な……なにあれ……」
「煙が、臭い……」
「おい、見ろよ……光が、三つあるぞ……?」
セレスティーナは、自らが放つ光の中で、何が起きているのかを把握できずにいた。しかし、民衆のどよめきが、祈りの声から、疑念の声へと変わっていくのに気づき、その顔から血の気が引いていく。私の『鑑定眼』には、彼女のオーラが、借り物の黄金色から、恐怖と混乱に満ちた、濁った泥の色へと変わっていくのが、はっきりと見えていた。
「アニエス、衛兵が時計塔に気づいた! 行くぞ!」
ギデオンが叫ぶ。だが、まだだ。まだ、終われない。
私は、サイラスが用意した、声を集めて遠くへ届けるための、小さなメガホンを手に取った。そして、混乱の渦の中心にある、王都のすべての人々に向けて、私の最後の言葉を放つ。
「王国の民よ! その眼で、真実を見なさい!」
増幅された私の声が、広場に響き渡る。人々は、声の主を求め、一斉に時計塔を見上げた。
「あなた方が奇跡と崇めるその光は、からくり仕掛けの手品に過ぎない!」
私は、バルコニーを指さした。
「洪水から人々を救ったのは、聖女の祈りではない! 技術者ヴァレリウスの、知恵と努力です!」
「あなた方の病を癒したのは、聖女の祝福ではない! 薬師サイラスの、知識と探求心です!」
「真の奇跡とは、誰か一人の聖女が起こすものではない! 国を想い、人のために働く、名もなき人々の、誠実な心の中にこそ宿るものだ!」
私の叫びは、人々の心に深く突き刺さった。彼らは、北の村で起きた、もう一つの「奇跡」の噂を思い出していた。
「私はアニエス! 国に捨てられた者たちと共に、真実を取り戻すために、ここへ来た!」
セレスティーナは、時計塔の上に立つ私を見て、狂ったように叫んだ。
「魔女め! あの魔女を捕らえよ!」
しかし、彼女の権威は、すでに失墜していた。民衆の眼は、もはや崇拝ではなく、冷たい疑惑の色を宿している。その視線に耐え切れず、セレスティーナは水晶を取り落とし、腰を抜かしてへたり込んだ。
偽りの聖女が堕ちた、その瞬間だった。
その後、王都は大混乱に陥った。私たちは、ギデオンの機転で、時計塔から地下水道へと逃れ、追手を撒くことに成功した。
聖女の失墜により、国王とその側近たちは、すべての権威を失った。民衆の支持を得たのは、ヴァレリウスが進める治水事業によって、着実に国を豊かにし始めていた、私たち「反逆者」だった。
数月後。
国王は退位し、聡明であった第一王子が、新たな王として即位した。彼の治世のもと、ヴァレリウスは、国のインフラを整備する建設長官に。サイラスは、身分を問わず、誰もが最新の医療を受けられる、王立研究所の所長に就任した。ギデオンは、国民を守るための、真の騎士団長として、その職務に復帰した。
セレスティーナは、すべての罪を告白し、王都から遠く離れた修道院で、静かにその罪を償う日々を送っているという。
そして、私は──。
「アニエス様、次の候補者のリストです」
「ありがとう、ボルグ」
私は、プロデューサーとして、この国に埋もれている、数多の「本物の輝き」を見つけ出す旅を続けていた。国に捨てられた者、不当に評価されなかった者。私の『鑑定眼』は、今、この国を、真に豊かにするために使われている。
かつて、偽りの光が照らしていたこの国に、今、無数の、本物の小さな光が灯り始めている。それらが集まり、やがてこの国全体を照らす、大きな夜明けが来ることを、私は、確信していた。
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