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第七話:夜明けの奇跡
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炭焼き小屋の夜は、凍えるほどに冷たく、そして長かった。
燃えさしが時折パチパチと音を立てる他は、腕の中の子供の、苦しそうな呼吸音だけが響いている。私は眠ることもせず、濡らした布を何度も替え、彼の小さな体を拭き続けた。
隣では、母親が祈るようにじっと手を組んでいる。
「あの子の父親も……二年前に、同じような咳で……」
ぽつりと漏れた彼女の言葉は、この辺境の地で生きることの過酷さを物語っていた。ここでは、病は死と限りなく近い意味を持つのだ。
「大丈夫です。この子は、強い子です」
私は母親の手をそっと握った。それは薬師としてではなく、同じように大切な人を想う一人の人間としての、心からの言葉だった。
長く感じられた闇を裂くように、小屋の壁の隙間から、一本の白い光が差し込んだ。
夜明けだ。
ふと、腕の中の子供の顔を見ると、あれほど苦しげに歪んでいた表情が、穏やかになっていることに気づく。恐る恐るその額に手をやると、燃えるようだった熱が、嘘のように引いていた。呼吸も、すぅすぅと穏やかな寝息に変わっている。
その時、子供がゆっくりと瞼を開けた。虚ろだった瞳はしっかりとした光を取り戻し、隣にいる母親の顔を認めると、かすかに微笑んだ。
「……おかあさん」
そのか細い声を聞いた瞬間、母親はわっと泣き崩れた。
「ああ……よかった……! 本当に、よかった……!」
彼女は私の手を両手で握りしめ、何度も、何度も頭を下げた。
「ありがとうございます……! ありがとうございます、薬師様……!」
元気になった息子を抱きしめ、母親は夜明けの道を村へと帰っていった。
私は、ようやく訪れた安堵に、その場に座り込んでしまいそうになる。だが、休んでいる暇はなかった。
母親がもたらした「奇跡」の噂は、乾いた大地に染み込む水のように、瞬く間に村中へと広がったのだ。
最初は一人、また一人と、おずおずと小屋を訪れていた村人たちは、昼前には長い列を作っていた。
「うちの爺さんの咳も診てくだせぇ!」
「娘が、もう何日も熱を出していて……」
昨日まで私をあからさまな警戒心で見つめていた瞳は、今や尊敬と、藁にもすがるような必死の光を宿していた。
私が次々と人々を診ていると、その人だかりを割るようにして、領主であるリアン様が現れた。
村人たちは道を開け、辺りは水を打ったように静まり返る。
彼は、一番最初に診た男の子が、母親の隣ですっかり元気そうにしている姿を一瞥し、次に私の顔を見た。彼の灰色の瞳には、何の感情も浮かんでいないように見えた。
だが、彼の口から発せられた言葉は、昨日とは違う響きを持っていた。
「……大した腕のようだ」
低い声だったが、そこには確かな事実を認める響きがあった。
「約束だ。しばらくここにいろ。必要なものがあれば、村長に言え。食料くらいは融通してやる」
それだけ言うと、彼は私に背を向けた。素っ気ない、あまりにも領主らしい言葉。だが、それは彼なりの、最大限の評価なのだろう。
「ありがとうございます、スターリング様!」
私が深く頭を下げると、リアン様は一瞬だけ足を止めたが、振り返ることはなく、そのまま去っていった。
彼の背中が見えなくなると、村人たちから安堵のため息と、新たな活気が生まれる。私の周りには、希望の光を見出した人々の顔、顔、顔。
薬師クララ・メドウズとしての私の人生は、この厳しくも美しい北の辺境で、確かに、新たな一歩を踏み出したのだった。
燃えさしが時折パチパチと音を立てる他は、腕の中の子供の、苦しそうな呼吸音だけが響いている。私は眠ることもせず、濡らした布を何度も替え、彼の小さな体を拭き続けた。
隣では、母親が祈るようにじっと手を組んでいる。
「あの子の父親も……二年前に、同じような咳で……」
ぽつりと漏れた彼女の言葉は、この辺境の地で生きることの過酷さを物語っていた。ここでは、病は死と限りなく近い意味を持つのだ。
「大丈夫です。この子は、強い子です」
私は母親の手をそっと握った。それは薬師としてではなく、同じように大切な人を想う一人の人間としての、心からの言葉だった。
長く感じられた闇を裂くように、小屋の壁の隙間から、一本の白い光が差し込んだ。
夜明けだ。
ふと、腕の中の子供の顔を見ると、あれほど苦しげに歪んでいた表情が、穏やかになっていることに気づく。恐る恐るその額に手をやると、燃えるようだった熱が、嘘のように引いていた。呼吸も、すぅすぅと穏やかな寝息に変わっている。
その時、子供がゆっくりと瞼を開けた。虚ろだった瞳はしっかりとした光を取り戻し、隣にいる母親の顔を認めると、かすかに微笑んだ。
「……おかあさん」
そのか細い声を聞いた瞬間、母親はわっと泣き崩れた。
「ああ……よかった……! 本当に、よかった……!」
彼女は私の手を両手で握りしめ、何度も、何度も頭を下げた。
「ありがとうございます……! ありがとうございます、薬師様……!」
元気になった息子を抱きしめ、母親は夜明けの道を村へと帰っていった。
私は、ようやく訪れた安堵に、その場に座り込んでしまいそうになる。だが、休んでいる暇はなかった。
母親がもたらした「奇跡」の噂は、乾いた大地に染み込む水のように、瞬く間に村中へと広がったのだ。
最初は一人、また一人と、おずおずと小屋を訪れていた村人たちは、昼前には長い列を作っていた。
「うちの爺さんの咳も診てくだせぇ!」
「娘が、もう何日も熱を出していて……」
昨日まで私をあからさまな警戒心で見つめていた瞳は、今や尊敬と、藁にもすがるような必死の光を宿していた。
私が次々と人々を診ていると、その人だかりを割るようにして、領主であるリアン様が現れた。
村人たちは道を開け、辺りは水を打ったように静まり返る。
彼は、一番最初に診た男の子が、母親の隣ですっかり元気そうにしている姿を一瞥し、次に私の顔を見た。彼の灰色の瞳には、何の感情も浮かんでいないように見えた。
だが、彼の口から発せられた言葉は、昨日とは違う響きを持っていた。
「……大した腕のようだ」
低い声だったが、そこには確かな事実を認める響きがあった。
「約束だ。しばらくここにいろ。必要なものがあれば、村長に言え。食料くらいは融通してやる」
それだけ言うと、彼は私に背を向けた。素っ気ない、あまりにも領主らしい言葉。だが、それは彼なりの、最大限の評価なのだろう。
「ありがとうございます、スターリング様!」
私が深く頭を下げると、リアン様は一瞬だけ足を止めたが、振り返ることはなく、そのまま去っていった。
彼の背中が見えなくなると、村人たちから安堵のため息と、新たな活気が生まれる。私の周りには、希望の光を見出した人々の顔、顔、顔。
薬師クララ・メドウズとしての私の人生は、この厳しくも美しい北の辺境で、確かに、新たな一歩を踏み出したのだった。
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