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第八話:根付く信頼
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あの日を境に、打ち捨てられた炭焼き小屋は私の新しい城となった。
噂を聞きつけた村人たちが、どこからか古びた木材や布を運んできては、雨風をしのげるようにと壁の隙間を塞ぎ、壊れた屋根を修繕してくれたのだ。日中は次々と訪れる村人たちを診察し、夜はランプの灯りの下で薬を調合する。そんな新しい日常が、驚くほど穏やかに過ぎていった。
この辺境の地は、病や怪我の種類も王都とは全く違った。厳しい寒さがもたらす凍傷、狩りの最中に負った獣の爪痕、そして魔霧が引き起こす慢性の不調。私は父の手記を唯一の師として、この土地に自生する未知の薬草と向き合った。
「この『氷壁草』は凍傷の特効薬に……。『狼の苔』は驚くほど強力な止血作用があるわ……」
未知の効能を発見するたび、薬師としての血が沸き立った。コービン様に見せた知識など、メドウズ家の薬学のほんの上澄みに過ぎなかったのだと思い知る。
そして、私の研究は、最も大切な人に最初の希望をもたらしてくれた。
この土地の薬草で作った滋養の薬を根気よく飲ませ続けると、父の顔に少しずつ血のりが戻り始めたのだ。意識はまだない。だが、苦しげだった呼吸は穏やかな寝息に変わり、衰弱は明らかに食い止められていた。
「父さん、もう少しですよ……」
眠る父の手を握りながら、私はこの地で生きていく決意を、改めて固めていた。
そんなある日の午後、小屋の前に数人の男たちが現れた。先頭に立っていたのは、領主であるリアン・スターリング様だった。彼の従者たちは、米や干し肉、そして山と積まれた薪を黙々と小屋の前に運び始める。
「……村からの礼だ。受け取れ」
リアン様は、相変わらずぶっきらぼうにそう言った。
「ありがとうございます。皆様に、よろしくお伝えください」
私が頭を下げると、彼は小屋の中へと視線を移した。壁一面に吊るされた乾燥薬草や、分類されて並べられた研究道具。そして、ランプの灯りでかすかに照らされる父の手記。
「……お前は、本当に薬のことしか頭にないのだな」
呆れたような、それでいてどこか感心したような口調だった。
「ええ。それが、私ですから」
私が微笑んで答えると、彼の灰色の瞳が少しだけ和らいだように見えた。以前のような凍てつく厳しさは、もうそこにはない。
リアン様が小屋を出ようとした時、ふと足を止めた。
「……ひとつ、頼みがある」
彼は少し躊躇うように、だが意を決したように続けた。
「私の側近の一人が、古い戦の傷で、この時期になるとひどく痛むらしい。お前の薬で、どうにかならんか」
それは、領主としての命令ではなかった。彼の瞳には、大切な部下を心から気遣う色が浮かんでいる。この厳格な領主の、初めて見る優しい一面だった。
驚きながらも、私の胸には温かいものが込み上げてくる。薬師として、これほど嬉しい言葉はない。
「お任せください、スターリング様」
私は、彼の灰色の瞳をまっすぐに見つめ返した。
「私が、必ずその痛みを和らげてみせます」
私の力強い返事に、リアン様の口元にかすかな、本当にごくかすかな笑みが浮かんだように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。
噂を聞きつけた村人たちが、どこからか古びた木材や布を運んできては、雨風をしのげるようにと壁の隙間を塞ぎ、壊れた屋根を修繕してくれたのだ。日中は次々と訪れる村人たちを診察し、夜はランプの灯りの下で薬を調合する。そんな新しい日常が、驚くほど穏やかに過ぎていった。
この辺境の地は、病や怪我の種類も王都とは全く違った。厳しい寒さがもたらす凍傷、狩りの最中に負った獣の爪痕、そして魔霧が引き起こす慢性の不調。私は父の手記を唯一の師として、この土地に自生する未知の薬草と向き合った。
「この『氷壁草』は凍傷の特効薬に……。『狼の苔』は驚くほど強力な止血作用があるわ……」
未知の効能を発見するたび、薬師としての血が沸き立った。コービン様に見せた知識など、メドウズ家の薬学のほんの上澄みに過ぎなかったのだと思い知る。
そして、私の研究は、最も大切な人に最初の希望をもたらしてくれた。
この土地の薬草で作った滋養の薬を根気よく飲ませ続けると、父の顔に少しずつ血のりが戻り始めたのだ。意識はまだない。だが、苦しげだった呼吸は穏やかな寝息に変わり、衰弱は明らかに食い止められていた。
「父さん、もう少しですよ……」
眠る父の手を握りながら、私はこの地で生きていく決意を、改めて固めていた。
そんなある日の午後、小屋の前に数人の男たちが現れた。先頭に立っていたのは、領主であるリアン・スターリング様だった。彼の従者たちは、米や干し肉、そして山と積まれた薪を黙々と小屋の前に運び始める。
「……村からの礼だ。受け取れ」
リアン様は、相変わらずぶっきらぼうにそう言った。
「ありがとうございます。皆様に、よろしくお伝えください」
私が頭を下げると、彼は小屋の中へと視線を移した。壁一面に吊るされた乾燥薬草や、分類されて並べられた研究道具。そして、ランプの灯りでかすかに照らされる父の手記。
「……お前は、本当に薬のことしか頭にないのだな」
呆れたような、それでいてどこか感心したような口調だった。
「ええ。それが、私ですから」
私が微笑んで答えると、彼の灰色の瞳が少しだけ和らいだように見えた。以前のような凍てつく厳しさは、もうそこにはない。
リアン様が小屋を出ようとした時、ふと足を止めた。
「……ひとつ、頼みがある」
彼は少し躊躇うように、だが意を決したように続けた。
「私の側近の一人が、古い戦の傷で、この時期になるとひどく痛むらしい。お前の薬で、どうにかならんか」
それは、領主としての命令ではなかった。彼の瞳には、大切な部下を心から気遣う色が浮かんでいる。この厳格な領主の、初めて見る優しい一面だった。
驚きながらも、私の胸には温かいものが込み上げてくる。薬師として、これほど嬉しい言葉はない。
「お任せください、スターリング様」
私は、彼の灰色の瞳をまっすぐに見つめ返した。
「私が、必ずその痛みを和らげてみせます」
私の力強い返事に、リアン様の口元にかすかな、本当にごくかすかな笑みが浮かんだように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。
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