追放された薬師は北の辺境で真実の薬を作る

希羽

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第二十三話:真実の色

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 銀盆に載せられた二つの黄金の杯。侍従が、コービンが作った『生命の雫』を、震える手でそれぞれの杯へと注いでいく。きらきらと光を反射するその液体は、見た目だけは、まるで命の水そのもののように美しかった。

「茶番だ! この女が、自分の杯に解毒薬でも塗っているに決まっている!」

 追い詰められたコービンが、獣のような声を上げた。

 その言葉を待っていたかのように、ギデオン様が一歩前へ進み出た。

「ならば、公平を期すために、杯を交換されては如何かな? ランカスター卿」

 その重々しい提案に、コービンはぐっと言葉に詰まる。彼の顔は、もはや紙のように白い。

 国王が、力なく、しかし拒絶を許さぬ声で命じた。

「……飲め」

 私とコービンは、それぞれの杯を手に取った。

 最後の瞬間、私たちの視線が交錯する。彼の瞳に浮かぶのは、純粋な憎悪と、死への恐怖。私の瞳に映るのは、薬師としての、揺るぎない覚悟。

 私たちは同時に、杯を呷った。

 甘く、そして舌にまとわりつくような、不快な後味。私は静かに杯を下ろす。体の中を、わずかな熱が駆け巡るのを感じたが、それだけだった。私は、まっすぐに玉座を見据えたまま、微動だにしなかった。

 ホール中の視線が、コービンへと注がれる。

 彼は、勝ち誇ったように、にやりと口元を歪ませた。……だが、その笑みはすぐに、引き攣った苦悶の表情へと変わる。

「ぐ……あ……」

 彼の喉から、うめき声が漏れた。彼は自らの首をかきむしり、その顔にはみるみるうちに、不気味な紫色の痣が浮かび上がる。

「あ……が……っ!」

 彼はよろめき、近くにあった装飾用の台座を派手に倒すと、大理石の床の上でのたうち回り始めた。その苦しみようは、毒見役の比ではない。自らが作り出した毒に、自らが最も深く蝕まれていたことの、何よりの証明だった。

「ひぃぃぃっ!」

 貴族たちから、悲鳴と嗚咽が上がる。婚約者のイザベラ嬢は、その場で気を失い、崩れ落ちた。

「……おお……なんということだ……」

 国王は、目の前で繰り広げられる地獄絵図に、ただ呆然と呟くと、糸が切れた人形のように、玉座へと崩れ落ちた。

 混沌がホールを支配する中、冷静に動いたのはリアン様だった。

「衛兵、陛下をお守りしろ!」

 彼の鋭い号令一下、北の騎士たちが国王の周りを固め、うろたえるばかりの王宮の衛兵たちを制圧する。その見事な統率力は、誰がこの場の真の支配者であるかを、雄弁に物語っていた。

 私は、床で泡を吹いて痙攣するコービンには一瞥もくれず、玉座へと進み出た。そして、魂が抜けたように座り込む国王の前に、静かに膝をつく。

 水晶瓶に満たされた『極光の霊薬』を、彼に差し出した。

「陛下」

 私の声は、騒然とするホールの中で、不思議なほど穏やかに響いた。

「偽りの奇跡の時間は、終わりました。ですが、まだ手遅れではございません」

 私は、顔を上げた。その瞳には、憐憫でも、勝利の驕りでもない、ただ薬師としての純粋な使命感が宿っていた。

「どうか、お許しください。この国に巣食った病を癒す、真の治療を、今ここから始めさせていただくことを」

 衛兵に両脇を抱えられ、もはや人間としての尊厳すら失ったコービンが、獣のようなうめき声を上げながら引きずられていく。

 国王は、震える手で、差し出された私の薬を見つめていた。その虚ろな瞳に、ほんのわずかだが、光が戻ったように見えた。彼は、ほとんど聞き取れないようなか細い声で、ただ一言、こう呟いた。

「……頼む……」

 私は、深く頷いた。

 長かった私の復讐は、今、終わった。

 そして、毒されたこの国を癒すための、薬師としての私の本当の戦いが、この瞬間、始まろうとしていた。
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