追放された薬師は北の辺境で真実の薬を作る

希羽

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第二十四話:夜明けの治療

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 コービンが引きずられていった後の謁見の間は、まるで嵐が過ぎ去ったかのようだった。呆然と立ち尽くす貴族、床に倒れたままの毒見役、そして玉座で意識を失いかけている国王。その混沌の中心で、響き渡ったのはリアン様の冷静で力強い声だった。

「ギデオン、王城の全ての門を封鎖しろ! バークレイ子爵、衛兵を指揮し、コービン・ランカスター派の貴族を全員、自室にて軟禁せよ! 一人の逃亡も許さん!」

 彼の号令一下、北の騎士たちと、今や完全に彼の指揮下に入った王宮衛兵たちが、驚くべき効率で動き出す。昨日まで北の蛮族と蔑んでいた男の、その圧倒的な統率力と威厳を前に、もはや誰一人として異を唱える者はいなかった。

 私は、アレスター先生の先導で、国王陛下の寝室へと急いだ。

 そこは、豪華絢爛ではあるが、病人のいる場所とは思えぬほど空気が澱み、薬草ではない、甘ったるく不快な香りが満ちていた。『生命の雫』の香りだ。

「陛下、治療を始めます」

 私は震える国王の手を取り、そう語りかけた。そして、アレスター先生の助けを借りながら、『極光の霊薬』を数滴、水に溶かして、ゆっくりと彼の口へと運ぶ。これから始まるのは、彼の体と、そしてこの国に巣食った深い毒を浄化するための、長く、地道な戦いだった。

 私が陛下にかかりきりになっている間、リアン様と子爵は、コービンが築き上げた腐敗の根を次々と断ち切っていた。彼の私室からは、国王の判断を鈍らせるための他の薬物や、諸外国と交わした不審な密約書まで発見されたという。彼はただの名誉欲に駆られた偽薬師ではなく、この国そのものを内側から蝕み、乗っ取ろうとしていたのだ。

 その日の夜遅く、私は王城のバルコニーに出て、ようやく一人で息をついた。

 王都の夜景が、宝石箱のように眼下に広がっている。かつて、絶望の中で見上げたこの街の灯りが、今は全く違う色に見えた。

「眠れそうか」

 静かな声に振り返ると、リアン様がそこに立っていた。

「陛下の御容態は?」
「安定しています。今夜は、穏やかに眠っておられます。……ですが、本当の治療は、これからです」
「そうか」

 彼は私の隣に立つと、同じように眼下の夜景を見下ろした。

「……見事だった、クララ。お前は今日、蛇の巣の中心で、たった一人で竜に立ち向かった」
「一人ではありませんでした」

 私がそう言うと、彼はふっと口元を緩めた。

「そうだな」

 彼は手を伸ばし、戦いの中で乱れた私の髪の一筋を、そっと優しく直してくれた。その、あまりにも自然な仕草に、私の心臓が大きく跳ねる。戦いを終えた今、彼の瞳には、領主としての厳しさではなく、ただ一人の男としての、深い優しさが宿っていた。

「リアン様……」
「リアンでいい」

 彼の低い声が、夜の静寂に溶けていく。

「お前はもう、ただの薬師ではない。この国を救った、英雄なのだから」

 国王は、数ヶ月にわたる治療の末、少しずつ快復へと向かうことになる。コービンの一派は一掃され、リアン様は一時的に国政を預かる摂政評議会の議長として、その辣腕を振るうことになった。

 そして私は、王都に残ることを決めた。

 アレスター先生の補佐として、宮廷薬師の職務に就き、『生命の雫』によって毒された人々の治療に専念するためだ。

 あの絶望の日に逃げ出した王都は、今や、私が癒すべき人々がいる、私の新たな戦場となっていた。

 だが、もう何も怖くはない。私の隣には、厳しい冬を越えて結ばれた、誰よりも強く、そして温かい絆があるのだから。
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