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第21話:救国の英雄? いいえ、ただの散歩です。あと王女様、求婚されても困ります
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「た、退却ぅーッ! 全軍退却ぅーッ!!」
帝国軍3万が、蜘蛛の子を散らすように水平線の彼方へ消えていく。
後に残ったのは、巻き上げられた土煙と、静寂だけだった。
「ふぅ、運動したな。帰るか」
俺はサンダルをペタペタと鳴らしながら、きびすを返した。
シロ(フェンリル)は砲弾を食べたせいか少し胸焼け気味で、クロ(古竜)は「走り足りない」と不満げに鼻を鳴らしている。
拠点に戻ると、ガストロン大臣が地面に額を擦り付けて震えていた。
「じ、ジン殿ォ……! いや、ジン閣下ァ……!!」
「大臣、大袈裟ですよ。ただの犬の散歩です」
「これが散歩なわけありますかッ! 帝国の機甲師団ですよ!? それを『邪魔だ』の一言で追い払うなんて、神話の英雄でもやりませんぞ!」
ガストロンは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、俺の手を握りしめた。
「貴方はこの国を救ったのです! ああ、なんと報告すればよいか……!」
その時、アイリス王女が持っていた通信用の魔道具が、眩い光を放った。
空中にホログラムが展開され、一人の威厳ある老人の姿が映し出された。
この国の頂点、国王陛下その人だ。
『……見せてもらったぞ、ジンよ』
国王の声は、微かに震えていた。
どうやら、王女の配信(または軍の監視映像)を通して、一部始終を見ていたらしい。
「父上! ご覧になりましたか!? ジン様のあの勇姿! 戦車をデコピンみたいに弾き飛ばしましたのよ!」
王女が興奮気味に報告するが、国王は青ざめた顔で頷くだけだ。
『ジン殿……いや、ジン様』
国王の口調が、臣下に対するそれから、他国の元首に対する敬語へと変わった。
『我が国の危機を救ってくれたこと、心より感謝する。その功績に報い、貴殿には最高位の勲章である「救国英雄勲章」と、「公爵位」を授与したいと思うのだが』
公爵。
王族に次ぐ地位だ。広大な領地と莫大な年金、そして権力が約束される。
普通の冒険者なら泣いて喜ぶ提案だろう。
だが、俺は即答した。
「いりません」
『……へ?』
国王が素っ頓狂な声を上げた。
「俺、そういうの面倒なんで。公爵とかになったら、毎日パーティだの会議だので忙しくなるでしょう? 俺はここで畑を耕して、シロたちと昼寝していたいだけなんです」
『し、しかし! それでは王家の面目が……!』
「じゃあ、このダンジョンの固定資産税を免除してください。それだけでいいです」
俺の言葉に、配信を見ていた視聴者たちが沸いた。
『公爵位を断ったwww』
『固定資産税の免除で手を打つ英雄』
『無欲すぎる』
『王様、困惑してて草』
『まあ、この戦力なら国ひとつ作れるしな』
国王が頭を抱えていると、それまで黙っていたアイリス王女が、突然一歩前に出た。
「父上! でしたら、こうしてはいかがでしょう!」
王女は瞳をキラキラと輝かせ、俺の方をバッと振り返った。
嫌な予感がする。
彼女は俺の手を取り、その場に跪いた。
まるで、騎士が姫に忠誠を誓うように。いや、逆か。
「ジン様! 地位も名誉もいらないという、その無欲で高潔なお姿……わたくし、我慢できませんわ!」
王女の顔が真っ赤に染まる。
「わたくしを! 貴方のお嫁さんにしてくださいまし!!」
……は?
「わたくしが嫁げば、ここは実質王家の領地! 父上の面目も立ちますし、ジン様は王配殿下としてスローライフし放題! わたくしは毎日シロちゃんをモフり放題! Win-Winですわ!」
「いや、Winなのはあんただけだろ」
俺は冷静にツッコミを入れた。
王女との結婚? 一番遠ざけたい面倒ごとの極みじゃないか。
「お断りします」
「ええっ!? 即答!? 一国の王女ですのよ!? 結構カワイイって評判ですのよ!?」
「カワイイとか関係ないです。俺は静かに暮らしたいんです。王女様みたいな騒がしいのがいたら、シロが安眠できません」
「ワフッ(俺は別にいいけど)」
「お前は黙ってろ」
シロが空気を読まずに尻尾を振ったので、俺はジロリと睨んだ。
「うぅ……っ! ふられましたわ……! 全世界への配信中で、盛大にふられましたわ……!」
王女がガックリと項垂れる。
その様子に、コメント欄は爆笑と「尊い」の嵐に包まれた。
『公開失恋www』
『姫様ドンマイ』
『「騒がしい」で切り捨てられる王族』
『おっさん、そこは貰っとけよwwww』
ホログラムの向こうで、国王が長く、深いため息をついたのが聞こえた。
『……分かった。これ以上、其の方を既存の枠組みに当てはめようとするのは無理なようだ』
国王は意を決したように顔を上げた。
『ジンよ。其の方の望み通り、静かな暮らしを保証しよう。その代わり――』
国王の目が鋭く光る。
『その廃棄ダンジョンを中心とした一帯を、王国法が適用されない「独立特別自治区」……すなわち【聖域】として認定する。外交権も自治権も全て認める。だから頼むから、他国に行ったり、我が国に敵対したりしないでくれ。これが王としての精一杯の譲歩だ』
事実上の「独立宣言」だった。
俺は驚いたが、まあ、税金もかからず、国の干渉もなくなるなら悪くない条件だ。
「……分かりました。敵対するつもりはありませんよ。平和に暮らせるなら、隣人として仲良くやりましょう」
俺が頷くと、国王は安堵のあまり椅子に崩れ落ちたようだった。
こうして、俺の住む辺境の地は、正式に地図から消え――世界最強の生物と、世界一の配信者が住む、不可侵の『聖域』として生まれ変わることになった。
平和なスローライフの始まりだ。
……と、思っていたのだが。
「師匠! 独立祝いに、村の拡張工事を始めますぞ!」
「ジン様! 失恋の傷を癒やすために、しばらくここに滞在しますわ!」
「ジン殿! 各国の王族から『聖地のレストランを予約したい』と問い合わせが殺到しております!」
……全然、静かになりそうになかった。
帝国軍3万が、蜘蛛の子を散らすように水平線の彼方へ消えていく。
後に残ったのは、巻き上げられた土煙と、静寂だけだった。
「ふぅ、運動したな。帰るか」
俺はサンダルをペタペタと鳴らしながら、きびすを返した。
シロ(フェンリル)は砲弾を食べたせいか少し胸焼け気味で、クロ(古竜)は「走り足りない」と不満げに鼻を鳴らしている。
拠点に戻ると、ガストロン大臣が地面に額を擦り付けて震えていた。
「じ、ジン殿ォ……! いや、ジン閣下ァ……!!」
「大臣、大袈裟ですよ。ただの犬の散歩です」
「これが散歩なわけありますかッ! 帝国の機甲師団ですよ!? それを『邪魔だ』の一言で追い払うなんて、神話の英雄でもやりませんぞ!」
ガストロンは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、俺の手を握りしめた。
「貴方はこの国を救ったのです! ああ、なんと報告すればよいか……!」
その時、アイリス王女が持っていた通信用の魔道具が、眩い光を放った。
空中にホログラムが展開され、一人の威厳ある老人の姿が映し出された。
この国の頂点、国王陛下その人だ。
『……見せてもらったぞ、ジンよ』
国王の声は、微かに震えていた。
どうやら、王女の配信(または軍の監視映像)を通して、一部始終を見ていたらしい。
「父上! ご覧になりましたか!? ジン様のあの勇姿! 戦車をデコピンみたいに弾き飛ばしましたのよ!」
王女が興奮気味に報告するが、国王は青ざめた顔で頷くだけだ。
『ジン殿……いや、ジン様』
国王の口調が、臣下に対するそれから、他国の元首に対する敬語へと変わった。
『我が国の危機を救ってくれたこと、心より感謝する。その功績に報い、貴殿には最高位の勲章である「救国英雄勲章」と、「公爵位」を授与したいと思うのだが』
公爵。
王族に次ぐ地位だ。広大な領地と莫大な年金、そして権力が約束される。
普通の冒険者なら泣いて喜ぶ提案だろう。
だが、俺は即答した。
「いりません」
『……へ?』
国王が素っ頓狂な声を上げた。
「俺、そういうの面倒なんで。公爵とかになったら、毎日パーティだの会議だので忙しくなるでしょう? 俺はここで畑を耕して、シロたちと昼寝していたいだけなんです」
『し、しかし! それでは王家の面目が……!』
「じゃあ、このダンジョンの固定資産税を免除してください。それだけでいいです」
俺の言葉に、配信を見ていた視聴者たちが沸いた。
『公爵位を断ったwww』
『固定資産税の免除で手を打つ英雄』
『無欲すぎる』
『王様、困惑してて草』
『まあ、この戦力なら国ひとつ作れるしな』
国王が頭を抱えていると、それまで黙っていたアイリス王女が、突然一歩前に出た。
「父上! でしたら、こうしてはいかがでしょう!」
王女は瞳をキラキラと輝かせ、俺の方をバッと振り返った。
嫌な予感がする。
彼女は俺の手を取り、その場に跪いた。
まるで、騎士が姫に忠誠を誓うように。いや、逆か。
「ジン様! 地位も名誉もいらないという、その無欲で高潔なお姿……わたくし、我慢できませんわ!」
王女の顔が真っ赤に染まる。
「わたくしを! 貴方のお嫁さんにしてくださいまし!!」
……は?
「わたくしが嫁げば、ここは実質王家の領地! 父上の面目も立ちますし、ジン様は王配殿下としてスローライフし放題! わたくしは毎日シロちゃんをモフり放題! Win-Winですわ!」
「いや、Winなのはあんただけだろ」
俺は冷静にツッコミを入れた。
王女との結婚? 一番遠ざけたい面倒ごとの極みじゃないか。
「お断りします」
「ええっ!? 即答!? 一国の王女ですのよ!? 結構カワイイって評判ですのよ!?」
「カワイイとか関係ないです。俺は静かに暮らしたいんです。王女様みたいな騒がしいのがいたら、シロが安眠できません」
「ワフッ(俺は別にいいけど)」
「お前は黙ってろ」
シロが空気を読まずに尻尾を振ったので、俺はジロリと睨んだ。
「うぅ……っ! ふられましたわ……! 全世界への配信中で、盛大にふられましたわ……!」
王女がガックリと項垂れる。
その様子に、コメント欄は爆笑と「尊い」の嵐に包まれた。
『公開失恋www』
『姫様ドンマイ』
『「騒がしい」で切り捨てられる王族』
『おっさん、そこは貰っとけよwwww』
ホログラムの向こうで、国王が長く、深いため息をついたのが聞こえた。
『……分かった。これ以上、其の方を既存の枠組みに当てはめようとするのは無理なようだ』
国王は意を決したように顔を上げた。
『ジンよ。其の方の望み通り、静かな暮らしを保証しよう。その代わり――』
国王の目が鋭く光る。
『その廃棄ダンジョンを中心とした一帯を、王国法が適用されない「独立特別自治区」……すなわち【聖域】として認定する。外交権も自治権も全て認める。だから頼むから、他国に行ったり、我が国に敵対したりしないでくれ。これが王としての精一杯の譲歩だ』
事実上の「独立宣言」だった。
俺は驚いたが、まあ、税金もかからず、国の干渉もなくなるなら悪くない条件だ。
「……分かりました。敵対するつもりはありませんよ。平和に暮らせるなら、隣人として仲良くやりましょう」
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平和なスローライフの始まりだ。
……と、思っていたのだが。
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