「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第56話:コラボ配信で「歌ってみた」をやったら、世界中のアンデッドが成仏した

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 物理的な投げ銭(財宝)の山を庭の隅に片付けた後。
 聖域のリビングで、フタバが配信端末を見ながら目を輝かせていた。

「パパ! これやりたい!」

 指差した画面には、王都で人気のアイドル歌手が歌って踊る映像が流れていた。

「アイドルか? まあ、フタバなら可愛いからなれるだろうけど」
「うん! フタバ、お歌うたう! みんなに元気とどけるの!」

 その純粋な動機に、俺は頷いた。
 破壊活動(特撮ごっこ)や、お料理(マンドラゴラ解体)もいいが、たまにはこういう平和な企画も悪くないだろう。

「よし。じゃあ次は『歌ってみた』配信だな」

 俺が許可を出すと、ローズとルミナが勢いよく立ち上がった。

「伴奏ならお任せくださいまし! 魔王家では幼少期より英才教育を受けておりますの。ピアノ、バイオリン、パイプオルガン……何でも弾けますわ!」
「コーラスは私がやります! 天界聖歌隊の指揮者は伊達じゃありませんよ! 神のハモりを見せてあげます!」

 豪華すぎるバックバンドが結成された。
 場所は、エルフたちが「音響効果抜群ですぞ!」と即席で建てた、森の音楽堂(野外ステージ)。

 準備は万端だ。

 配信開始。
 タイトルは 【初ライブ】マジカル・フタバの『歌ってみた』! ゲストあり☆。

『待機!』
『今日は歌枠か!』
『投げ銭の代わりにペンライト振るぞー!』

 同接数は安定の数百万。
 画面には、フリフリのドレスを着たフタバと、グランドピアノ(魔界製)の前に座るローズ、そしてマイクを持ったルミナが映し出されている。

「みんなー! こんばんは! きょうは、フタバが作った『お野菜のうた』をうたうよ!」

『オリジナル曲!?』
『タイトルが渋いwww』
『期待しかない』

 ローズが鍵盤に指を置く。

「では、行きますわよ。……ミュージック、スタート」

 ポロロン……♪
 流れてきたのは、童謡とは思えないほど重厚で、かつ繊細な旋律だった。魔界のピアニストの本気だ。

「♪ピーマン~ にんじん~ ダンジョンいも~」

 フタバが歌い出した。
 音程はしっかりしている。透き通るような、鈴を転がすような愛らしい歌声だ。
 だが、問題はその成分だった。
 フタバの歌声には、畑で培った「生命力」と、生まれ持った「規格外の魔力」がたっぷりと乗っていたのだ。

「♪たべると~ げんきが~ わいてくる~」

 そして、サビ。
 ルミナがコーラスを入れた。

「(♪アーーーー、アァーーーーーッ♪)」

 神の声。
 絶対浄化アブソリュート・ピュリファイの特性を持つ女神のハミングが、フタバの魔力と共鳴し、化学反応を起こした。

 カッッッ!!!!!

 配信用の水晶玉が、眩い光を放った。
 ただの映像ではない。
 歌声に乗った「浄化の波動」が、魔力波として世界中の受信端末から物理的に溢れ出したのだ。

 ――その時、世界各地で「奇跡」が起きていた。

 【場所:北の旧古戦場】
 そこは、数千年前の戦争で死んだ兵士たちが彷徨う、大陸有数の心霊スポットだった。
 たまたま近くで冒険者が配信を見ていた、その時。

「♪好き嫌いしたら~ ダメなんだぞ~」

 端末から流れる歌声を聴いた瞬間、ドロドロに腐っていたゾンビや、恨み言を呟いていたスケルトンたちの動きが止まった。

「……あぁ……なんて温かい光だ……」
「ママ……野菜、食べるよ……」

 アンデッドたちの目から涙(のような光)が溢れ、彼らの体が光の粒子となって崩れていく。

「あばよ! 俺たち、成仏するぜ!」
「ありがとうマジカル・フタバ! 来世は農家になるよ!」

 シュゴオオオオオッ!!
 数万体の亡霊たちが、一斉に天へと昇っていった。
 後に残されたのは、浄化されてピカピカになった古びた武具だけだった。


 【場所:呪いの道具屋】
 「へっへっへ、この『呪われた血吸いの剣』、誰に売りつけてやろうか……」

 闇商人が商品を磨きながら配信を見ていた。

 「♪栄養満点~ 美味しいな~」

 歌声が店内に響いた瞬間。
 禍々しいオーラを放っていた魔剣や、呪いの人形たちが、ガタガタと震え出した。

『ギャアアアアッ! 浄化されるゥゥゥ!』
『邪念が! 俺の邪念が消えていくッ!』

 ポンッ! ポンッ!
 呪いのアイテムたちが次々と爆発(浄化)し、神聖なオーラを放つ『聖剣』や『お守り人形』に変質していく。

「ええっ!? 在庫が全部『聖遺物』になっちまった!?」

 商人は腰を抜かしたが、その聖遺物には後に法外な値がついたという。


 【場所:聖教国・療養所】

 かつてフタバに敗れ、さらに神(ルミナ)に拒絶されて寝込んでいた前教皇グレゴリウス。
 彼はベッドの上で、虚ろな目で配信を見ていた。

「……神よ……あなたはなぜ、あんな場所に……」

 腰痛と心の傷に苦しむ老人。
 だが、フタバとルミナのハーモニーが、彼の鼓膜を揺らした時。

 ボワッ!
 教皇の腰が光った。

「……っ!? 熱い! いや、痛くない!?」

 グレゴリウスは跳ね起きた。
 長年彼を苦しめていたヘルニアが、リウマチが、そして心の澱みが、歌声によって洗い流されていく。

「おお……おおぉぉ……!! 体が軽い! 羽が生えたようだ!」

 教皇はベッドの上でブレイクダンスを踊り始めた。

「これこそが真の癒やし! やはりあの方こそが、新時代の聖女だったのだ! ビバ! マジカル・フタバ!」

 教皇は即座にペンライト(祭壇のロウソク)を振り回し、熱狂的な古参ファンへと転向した。


 そんな世界規模の騒動など露知らず。
 聖域では、フタバが最後のフレーズを歌い上げていた。

「♪みんなでたべよう~ おやさ~い~! ……ジャンッ!」

 ローズが最後の和音を力強く弾き、ルミナが高らかにハミングを響かせる。

 完璧なフィナーレだ。

『…………』

 コメント欄が静止した。
 そして数秒後、サーバーがダウンする勢いで文字が流れた。

『泣いた』
『浄化された』
『肩こりが治ったんだが?』
『じいちゃんの幽霊が「いい歌だった」って言って消えたぞ』
『世界規模の除霊活動』
『これもう国教だろ』
『投げ銭させろォォォッ!!』

 俺はカメラの外で、空を見上げた。
 聖域の上空には、成仏していく霊魂たちが作り出した、美しいオーロラがかかっていた。

「……すごいな。歌一つで世界平和か」

 俺が感心していると、歌い終わったフタバが駆け寄ってきた。

「パパ! どうだった? じょうず?」
「ああ、最高だったぞ。世界中の霊も喜んでた」
「ほんと? えへへ!」

 フタバは満足げに笑い、ルミナとローズとハイタッチをした。
 こうして、フタバの「歌ってみた」配信は、世界中のアンデッドを壊滅させ、医療費を大幅に削減するという伝説を残して終了した。
 だが、この配信を見ていた人物の中に、一人だけ「穏やかでない感情」を抱いた者がいた。
 魔界の玉座で、ペンライトを振っていた魔王ヴェルザードだ。

「……ぐぬぬ。ローズとフタバちゃんが楽しそうに……。ワシも! ワシも混ぜろォォォッ!!」

 疎外感に耐えられなくなった魔王が、ついに立ち上がる。
 次回の配信、史上最大の「親子喧嘩(ごっこ遊び)」が勃発する。
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