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第一部 光の序章
第3話 天使
しおりを挟む「なっ…、この方は…? 空から降ってくるなんて…、まさか天使さん…?」
その少年は優美の方を見やり、ニッとイタズラな笑みを浮かべる。
「はーい! 正解♪ 僕は天界と人間界の魂を管理している天使のルキでーっす!」
ルキと名乗る天使は、天使のイメージとは程遠い。
ゆるめの黒のタンクトップ、ゆるめのズボン、それにサンダル姿でなんとも掴みどころのないおちゃらけた雰囲気だった。
「おい、ルキ、どういう事か説明してくれるな?」
溜息を漏らしながら不機嫌そうに温人が詰め寄る。
「言われなくてもするから、怒らない怒らない! えーっと、優美ちゃん、だよね? 君さ、今朝車に轢かれそうにならなかった?」
「…あ!」
優美は遅刻しそうになって急いでいた今朝のことを思い出す。
間一髪だった緊張感が蘇り思い出すだけでも脈拍は速まった。
「実はさ、君はあの時に事故で死ぬ予定だったんだよね! なんだか知らないけど、天界の管理ミスで君の魂が処理出来なくなっちゃって~」
「死…、へ!?」
死ぬ予定だの、魂の処理だの…。安らぎのイメージを持つ天国、天使からは想像もつかないワードがペラペラとルキから出てくるのに唖然とする。
「だからさ、ここで死んで天界に行こっ♪」
「え!? 嫌ですよ!!」
ギャグ漫画かのようなやり取りに、温人と空奈は慣れているのか肩をすくめた。
「まあ誰だって死ぬのは嫌かぁ…、仕方ないなあ。でも、死ぬ運命だった人間をこのまま生かしとく訳にはいかないんだよ」
「かといって死ぬ訳にはいきませんよ!」
「そうだよねえ。じゃあさ、生きるチャンスをあげるよ」
「チャンス…?」
「温人から少し聞いたでしょ? 生きるチャンスを得るために闇の勢力と闘ってるってさ。闇に打ち勝つにはクロスの力が必要なのさ。だから僕たちはクロスを探して集めてるって訳。クロスの持ち主は不思議な能力を使いこなせるんだ。実はまだ他にもいるみたいなんだよね、能力者」
能力者?
クロスの力?
そんなことを言われても理解が全く追い付かない。
それもそのはず、優美はただ両親の形見として、宝物として身に付けていただけなのだから。
温人も疑問に思ったのか、さらにルキに詰め寄る。
「そこなんだが…、なんで能力のことを分からない人間がこのクロスを持ってるのか説明しろよ」
「まあ~、突然変異ってやつ? 天界の事情でクロスは各地にばら撒かれてしまってね。その時に天界と人間界で、なんらかの歪みが起きてしまったらしい。その影響で、能力者であることを自覚していない人間が持っている可能性もゼロではないらしいことが判明したんだよねえ」
「それを早く説明しろよ!」
「えー、だって温人が僕の話を聞かないままクロス探しの旅に出ちゃったんじゃーん」
「な…、なんだか夢のような話です…」
優美は話に追いつけず目眩がした。
「ってことで! 死ぬか、闘うか。君が選んでよ♪」
相変わらず天使とは思えぬ発言の連発である。
それでも、選ぶはただ一択。
「そりゃ、闘いますよ!」
死を選ぶなんてとんでもない。
優美は状況を飲み込めずにいたが、咄嗟に闘うことを選んだ。
「おっけー♪ ま、そういう事だから後はよろしく♪」
ルキがそのまま姿を消してしまうと、優美の変身は解けた。
「元に戻りました…、良かった」
制服姿に戻りホッとしていると、バツが悪そうな顔で温人が頭を下げる。
「…さっきは悪かった」
「あ…、いえ、そんな事情があるとは知らなかったので…」
無愛想で不器用な温人に、空奈が困ったように笑いながら二人に駆け寄る。
「もー! 温人ったらいつもこうなのよ。でも、悪いやつじゃないからそこは分かってね。改めまして、私は火野空奈。火の能力者で、温人と協力して能力者を探していたの。よろしくね」
まさか、途中でぶつかった美人女子生徒が能力者だったとは。
「転校してきた天空優美です、よろしくお願いしますっ!」
バタバタと大変な状況ではあったが、初めての友達が出来たような気がして優美は嬉しさのほうが大きかった。
「慌ただしかったけれど、これからよろしくね。そろそろ昼休みも終わるし戻りましょう。今後についてはまた話し合わないとね」
「それもそうだな」
足早に戻る空奈の後ろで温人は小さく口を開いた。
「…空奈も俺と同じく自殺した者なんだ」
「え?」
「自らを殺しておいて、また生きたいだなんて傲慢だよな」
その時初めて温人は笑ったが、その表情は哀しさを物語っているようだった。
さっさと教室へ戻ろうとする2人の背中が見えなくなるまで、ただ呆然と見つめながら優美の足は止まり立ち尽くす。
(なにも言えない、なんて言えば良いのか分からない…)
自殺――。
二人に何があったのか。自殺の理由は?
そんなこと聞けない、聞いちゃいけない。
なんと言葉を返せば良かったのか、分からない。
自分の無力さに優美は自然と涙がこぼれた。
「あらあら。泣いてるの? 可哀想に」
突然クスクスと後ろで笑い声が聞こえる。
「だ、誰…!?」
後ろを振り返るも人の気配はない。
「ふふ、生きていたってね、虚しいだけよ。力ずくで奪う世界こそ、完璧な世界だわ」
今度は天使とは明らかに違う、黒い羽根の生えた女性が屋上のフェンスに座りながら不気味に笑っていた。
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【後書き】
温人達にも重たい過去があるようです。
これは本編が進むと明らかになっていくのでお楽しみに!
そして、また不穏な空気…彼女は一体!?
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