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過去と重なる
真っ向勝負
しおりを挟む寿々が逃げて行った先には、ひとつだけひっそり佇む蔵があった。
寿々はその扉の前で息を切らしていた。
前田は追いついたが、寿々に近寄る影を見つけ、柱に身を潜める。
「…お前は臆病者だな」
「な…!」
「あいつらをせっかく呼び寄せたのに勿体ない」
「私は、そんなにひ弱じゃないですよ…!」
寿々と話すのは大柄の男だ。
スーツを着ていて、靴下で足首は見えない。
それにハットを被っていて、瞼も確認できなかった。
寿々はその男に促され、再び梅乃たちが居た場所まで戻ろうと走り出し、前田も後ろを着いていく。
蔵から少し離れたところで寿々が足を止めた。
「後をつけるのは、姑息だと思わない?」
後ろをつけていた前田に対し、寿々が話しかける。
前田も観念して姿を現した。
「これも捜査の一環なんでね」
「私はあんたより、あの二人を狙ってるの」
「申し訳ないが相手は俺だ」
「うるさいなぁ。
あんたなんかどうでもいいのよ!」
そう言った寿々は懐からまた別の刃物を取り出して前田に襲いかかる。
前田はその素早い動きに圧倒されながらも、長年の経験で培った護身術を生かし、上手く攻撃をかわす。
前田の特技は剣術だった。
しかしこのご時世、真剣を持って闘う事など許されない。もうサムライは居ないのだ。
前田は落ちていた太い木の枝を剣に見立て、寿々が持つ刃物を打ち返していた。
しかし、さすがに前田も年齢を重ね、体力も衰えているのか寿々よりも先に息が切れてきた。
寿々はまだ余裕の表情だ。
「あら?もう疲れたの?」
「ナメるな…俺が何年華捜やってきたと思っている」
「そんなの知らない。
邪魔者は殺すだけよ!」
寿々が前田にさらに勢いをつけて刃物を刺そうとしてきた。
――バチン!!
「早河!?」
突き刺そうとした刃物の柄を、梅乃の竹刀が綺麗に弾き飛ばしたのだ。
腕の傷が痛む状況にも関わらず、梅乃は無我夢中で前田を守ろうとしていた。
「寿々さん、お久しぶりです」
「早河…梅乃…!」
「随分と、変わられてしまいましたね」
寿々は竹刀の速さに驚き、腰を抜かしていた。
梅乃の眼には、薄らと失望の涙が光っていた。
そこに銀壱も慌てて駆け寄る。
梅乃は竹刀を再び構えて、更に続けた。
「寿々さん。私と、ちゃんと勝負しましょう」
「あんた何様よ…調子乗って」
「どうぞ怒ってください。私は失望しました。
仲間だと思っていたのに」
梅乃はわざと寿々の気持ちを煽っているように見えた。
そうする事で真正面からぶつかり、寿々が何かを抱えているのならそれを解き放とうとしたのだ。
前田は心配そうに見つめたが、今は静かに見守ることにした。
「黙れ!!私より後から来たのに、
偉そうなのが腹立つのよ!」
「さぁ、私を、斬りたいなら斬ればいいのです」
その言葉を合図にするように、寿々と梅乃の闘いが始まった。
怪我を負っていても、少しもブレない梅乃の動き。
しかし感情がこもっているが故に竹刀で隙を一突きするのも躊躇っているようだった。
梅乃は利き手の濃紺の桜が視界に入る度、自分がもう華罪捜査官として任務を背負い、闘っていることを自覚した。
そして遂に、寿々の首に渾身の一撃を食らわせた。
寿々は気を失って倒れ込む。
「寿々さん…どうして…」
「本部へ連行する。銀壱、手伝え」
捜査官に、悲しむ暇はない。
そう分かっていても、梅乃には寿々と闘って感じるものがあった。
失神している寿々を、すぐに前田と銀壱で車に運ぶ。
銀壱も冷静ではなかったが、誰の命も奪われずに済んだことで少し安心したようだ。
「この子が目を覚ましたら、
お前ら二人で詳しい話を聞け」
「分かりました」
「早河、お前は先に帰って医務室へ行けよ」
羽織りの端をちぎって傷口を止血していたが、また血が滲んできた梅乃を気遣って、前田は指示をした。
それは、不器用な前田ができる精一杯のお礼だった。
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