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標的の花
見せしめのように
しおりを挟む本部からの連絡で向かったのは、三人も初めて来る小さな村だった。
山奥にあるこの村は、普段事件や事故も起きない平和な村だと言う。
三人がそこへ到着しても、騒がしさも無く閑静な田舎村の雰囲気。
ただ綺麗な空気が流れ、悪の気配など少しもしなかった。
「前田さん…依頼はこちらで間違いないですよね?」
「ああ。しかし、静かだな」
依頼を出したのは村長だと聞いていたが、村長の姿が見当たらない。
普段の出動ならば、すぐ挨拶しに来てくれるものだ。
しかしそれ以外は周りを見渡しても何も不自然なことは無い。
「おかしいですね…」
「村長の屋敷の場所を誰かに尋ねるか」
「すみません、村長の屋敷はどちらに――」
「そ、村長の屋敷には近づかない方がよろしいかと!」
銀壱が村人に屋敷の場所を訊くと、村人は焦った様子で答えた。
何故なのかと訊いても村人はそそくさと去っていってしまった。
慌てぶりが明らかにおかしい、三人はそう思った。
村人の視線の先には小高い丘。
その上にひとつ、立派な屋敷があった。
恐らくそこが村長の屋敷なのだろう。
三人は屋敷の方向に足を進めた。
「あの村人、慌てていたよな」
「そうですね。声も震えていました」
「もしかしたら、依頼を出してすぐ、
何者かに村長が襲われたのかもしれない」
「だとしたら…危ない。
急ぎましょう」
梅乃が先頭をきって走っていく。
それに続いて銀壱や前田も駆け足になる。
屋敷のある丘を上るには、石で出来た階段を上っていかねばならない。
階段は百段以上あり、息を切らしながら三人は必死に駆け上った。
階段を上り終えると、そこには立派な門と屋敷。
周りにはたくさんの木や花が植えられていた。
そして門の扉が片方だけ開いている。
人が出入りした痕跡だ。
なるべく周囲を警戒しながら、大きな音をたてないようその扉の隙間から、ゆっくりと中へ入る。
屋敷の明かりは消えていた。
「ここからは各自で分かれて行動しよう。
どこで怪しい奴に出くわすか分からない。
気をつけろよ」
「はい!」
「危ない時はその笛を吹け」
華捜には古くから使用されてきた伝統的な持ち物がある。
ひとつは、利き手に巻く濃紺の桜。
もうひとつが、銀壱の採用試験の際も使用していた笛だ。
それを「警桜笛」と呼ぶ。
新人のうちは特にこの警桜笛を首から提げ、身の危険を感じた時に吹いて他の捜査官へそれを知らせるのだ。
この笛は、至近距離で聞くと鼓膜が破れそうなほど大きい嫌な音がする。
三人はそれぞれ道を分かれ、屋敷に近づいていく。
そして一番先に屋敷の戸に手をかけたのは、梅乃だ。
屋敷の中からは音がしない。人の気配もない。
慎重に、梅乃はその戸を開けた。
「下駄がある…男性のもの…」
玄関には村長の物と思われる下駄が置いてあった。
綺麗に向きも揃えられている。
他に履き物はなく、誰かが土足で侵入した形跡もない。
梅乃はまたゆっくりと様子を伺いながら屋敷へ上がった。
長い廊下を歩いていくと、障子の開いた居間に着いた。
「はっ…!?」
明かりをつけた瞬間、その光景を見た梅乃は思わず息を呑んだ。
そして口に手を当て、絶句した。
そこに前田と銀壱も合流し、衝撃の事実を目の当たりにした。
「お、おい…これは…!」
そこには、紅く染まった畳の上に、村長らしき人物が血だらけで倒れていた。
その男性の左腕には、梅の花が血の如く紅く咲いていた。
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