雨の日に

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小雨だから

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シトシト シトシト
ベッドの上でふと目を覚ましたラノは、すぐにそれに気付いた。

「今日は何?」
いつもは定位置にいるはずのぬいぐるみ、ウサギのミミがベッドの端で項垂れている。
ミミの耳がだらりと下がり、表情のないはずのぬいぐるみが落ち込んでいるように見える。

『真夜中の、イングリッシュティーなんてしたいと思わない』
「えー、辛気臭いウサギとはちょっと…」
現れ方が微妙で、つい断ってしまった。
『何でよ!』
「いや、自分の姿を見てから言って」
シトシト シトシト

私の冷静な言葉に、ミミは首を傾げる。
『いつも通りキュートな顔に、我儘ボディ、最&高でしょ』
「何か、湿気でそうなってるの?」
何か、全体的にじめっとしている気がするんだけど…。

『あー、これ?最近のお気に入りよ』
「どういうこと?」
『女子たるもの、湿り気は大事でしょ?』
「意味が分からない」
シトシト シトシト

今日も内緒の、真夜中の女子会が開催される。
小雨の日だけに訪れる、いつもの訪問者。
括り的に“女子”として良いのか悩むが、この布の塊は気にしていない。
ピンクブロンドのオシャレな毛並み、琥珀色の澄んだ瞳、そして右耳に着いたシルクのリボン。
ミミは、私が物心ついた時からいるぬいぐるみだ。
それが、何で真夜中にお喋りをするようになったのか…。

ミミが初めて喋った日、私は自分の気が触れたのかと、本気で精神科に行こうとしていた。
なのにそれを阻んだのが、このぬいぐるみだった。
『そんなこと気にして、わざわざ自分から心疾患のレッテルをもらいに行くの?』
『私が喋ったからって、ラノの人生や日常に影響ある?』
『逆に、この出来事から何かを学んだ方が人生豊かになると思わない?』

辛辣すぎる言葉、現実的過ぎる言葉、夢なのか分からない言葉。
諦めた私は、ぬいぐるみとの共存を選んだ。
確かに私の日常に、何ら変化は生まれなかった。
そうして受け入れている日常。
シトシト シトシト

ちょっとした失敗。
取り戻せない言葉。
しなくていいミス。
いつもの日常に、少し落ち込む出来事。
小雨の中に、静かに滲んでいくような、些細なモヤモヤ…。
シトシト シトシト

『今日、雨の予報って聞いていたのに、油断しすぎじゃないの?』
「雨と小雨は違いますけど?」
『雨が降ったら、私との時間でしょ?』
「そんな決まりあった?」
『本当に、ラノはマイペースね』
「ありがとう」

『褒めてないわよ?』
「嘘」
『嘘なんかついてどうするのよ』
「そうは言っても、小雨の概念が良く分からない」
『小雨って言ったら、ほらじっとり濡れていくような感じよ』
「ホラーじゃん」

『こんな可愛い私を、髪の伸びていくモノと一緒にしないで』
「え?仲間だったの」
『ある意味ね』
「すごいじゃん」
『そうでしょ?だから、私との時間は過ごした方が良いってこと』
「だから?」
『ちゃんと、お茶の準備をしておきなさいって言っているの』

「え?いつでも自分が優先されると勘違い?」
『まあ良いわ。この紅茶、何か茶葉が新しくなってから、香りが少しスパイシーすぎじゃない?』
「ウケる、違いの分かるウサギ(布)」
『何で、もっとちゃんと試飲しなかったの?』
「いやー、店員さんの進め方が絶妙で…」
『ま、冒険もたまには必要よね』

シトシト シトシト
会話はいつも、どうでも良い。
覚えていても、覚えていなくても、私の明日に影響はない。
『そろそろ、ホットじゃなくてアイスの時期かしら?』
「そうね、アイスティーにしたら、グラスも大きいものにすれば良いし。あのタンブラー活躍できる」
『カップに拘りがないのも、どうかと思うわよ』

私にない女子力を、何故かこのぬいぐるみは所有している。
やれカップはソーサーとのバランス、やれ季節と関係させて選ぶべし、やれお供にはこんなお菓子が良い、どうして知っているのか不思議だが、考えても仕方がないことに時間を割くのは意味がない。
目の前のウサギに、そんなことを尋ねても『暇ねえ』で終わりだ。
「はいはい」
相槌を打ちながら、さっきから細々と聞こえていた雨の音が止んでいることに気付いた。

「そろそろ、今日はお開きかしら?」
『そうね、早く寝ないと美容に悪いわ』
「何度でも言うけれど、ぬいぐるみに睡眠は必要なの?」
『オフコース』

流れる雲の狭間には、薄い月が浮かんでいた。
それじゃ今日も片付けて、ゆっくり眠りにつきましょう。
次の小雨で、会いましょう。
私のデトックスに、協力感謝。

不思議なウサギと開催される、小雨限定の真夜中の女子会。
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