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とある騎士の思い込み
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私は騎士だ。
性別は女だが、元々女性らしいことに興味は薄かった。
加齢と共に、兄と同じように騎士への道を迷いなく進み、見事尊敬できる主人の元に配属された。
そんな私に、主が送ってくれた装飾品。
小さな頃は、お茶会だの園遊会だのと、着飾ることが何度かあった。
何度か身に着けていたと思う装飾品とは、趣が異なっていた。
執着しない質だと思っていたが、このエメラルドは初めて見た時から自分の半身のような気持ちになった。
自分が仕える主が決まり、それとほぼ同時に手にした加護付きのブローチ。
それが、エメラルドとの出会いだった。
身に着けていると、まず心が落ち着く。
そして、落ち着くことでその時の自分のベストの動きが可能になった。
その積み重ねで、自分の騎士としての年数が実りのあるものになった。
気が付いたら、手で触る手触りも何もかもが全て気に入っていた。
伸びている蔓の装飾も、形も手にしないとそわそわする自分。
だが、先日主を守ろうとした際に、不測の事態が起きた。
まさかの“呪い”という、時間も手間もかかる攻撃が用いられた。
過去に、数件しか事例のない現象。
しかし、その呪いは何を犠牲にしたのか不明だったが、確かに目の前で発動したのだ。
水飴のように、どろりとした存在を目の前にし直感で“良くないもの”と判断した。
色は濃い茶色で、すぐにでも飛び掛かりそうな動きを繰り返していた。
騎士の勘で、主の目の前に飛び出した時、その呪いが襲い掛かってきた。
主の盾になれるのであれば、こんなに本望なことはないと悔いはなかった。
しかし、飛び出した自分の持つブローチに見事吸い込まれたそれ。
まるで魔法のような、本当に一瞬の出来事だった。
自分も、主も何もなかった。
その場は騒然となったが、念入りに調査し黒幕はしっかりと捕らえることができた。
今後の警護のためにも、呪いという不確かな攻撃にもきちんと対応しなければならないことが確定した。
その後、神殿でしっかりと調べてもらったが、本当にこのブローチが代償になったようだった。
神殿に預けることを騎士であるアマンダは懸念していた。
ずっと手にした時から、このエメラルドとは一生を共にすると思っていた。
その位、気に入っている自分がいた。
神官も巫女も、このブローチを預かりたくないと前面に出していた。
言葉では言わなかったが、主がいなければ確実にそう告げていただろう。
お節介な雇い主が付いてきてくれたことで、その言葉は聞かずに済んだ。
そして、行動力のある主は諦めなかった。
神殿が頼りにならないのであれば、職人の元へ行けば良いのだと言う。
そして、勝手に持って来てしまったのだろう。
気が付いたら、手元になくなっていたブローチに焦ったのを思い出す。
そして、巡り合った小さな職人。
元々、作った時のみしか縁のない関係だと思っていた。
工程が遅い職人という思い込み、それだけでいい加減な人間を勝手に想像していた自分。
しかし、目の前にした時にそれは間違いだと思った。
誰よりも石を尊重し、誰よりも石に敬われている崇高な人間だった。
しかも、今回の補修には1日もかからないという。
驚くことに、加護のかけ直しならすぐにでもできるという。
自分の力を何も過信していない、純粋に目の前の出来事に没頭する職人だった。
それは、石を目の前にした時にはっきりと分かった。
勝手に鑑定したのは悪いと思ったが、それは聖女や勇者などが一種のトランス状態になるのと何ら変わりはなかった。
しかも、そのオンオフの差は全くない。
日常的に行える、その性能の高さ。
彼女は言った、「少しお時間を頂戴しますが」と。
彼女は知らないのだろう。
少しのお時間で直せるのは、確実に彼女が実力者だということだ。
元々人にも興味はない。
仕事柄、多くの人間を覚えることが求められたが、自分の世界が狭いことは自分でも良く理解している。
そんな自分でも知っていること。
おどおどしている様子とは打って変わり、石のこと、自分の作る作品のことを語る口調は、確かに熟練職人のそれだった。
自分に臆することもなく、石を大事にしてほしいという気持ち。
自分にもエメラルドにも叱咤するその姿。
それを目の前にして、確実に思い込みは散り散りになった。
この職人は、本物だということ。
噂のみで、彼女のことを知ろうとしなかったことを純粋に恥じた。
すぐに考えれば分かるはずだ。
あんなに素晴らしいエメラルドを作った職人が、いい加減であるわけがないことを。
でも、その時の自分は考えることをしなかったのだろう。
縁のない人間のことだと、考える時間を割かなかった。
しかし、その当時の自分の考えに間違いはないと思っていた自分。
主から、今後のメンテナンスは他を当たるように言われた時も、自分で作った物の責任も取らないのは何ていい加減な人間なのだと憤りを感じたくらいに。
素晴らしいエメラルドを作ったのは、単に気まぐれで自分の元に届いたのは運が良かっただけというだけのこと。
そう、信じていた自分。
それは、全て間違いだった。
主のいう勘違いなんて可愛いものではない。
この職人はきちんと評価をされ、敬われないといけない。
しかし、そこでも主はそれを良しとしなかった。
納得はできないが、主も職人殿も彼女を取り巻く石達も、現状を気に入っているのなら、私も何も言うまい。
しかし、今後は必ずこの職人を頼ろうと思えた。
そのくらいの出来事が、確実に起こっていたのだから。
この思い込みは、信じても良いのだろう。
性別は女だが、元々女性らしいことに興味は薄かった。
加齢と共に、兄と同じように騎士への道を迷いなく進み、見事尊敬できる主人の元に配属された。
そんな私に、主が送ってくれた装飾品。
小さな頃は、お茶会だの園遊会だのと、着飾ることが何度かあった。
何度か身に着けていたと思う装飾品とは、趣が異なっていた。
執着しない質だと思っていたが、このエメラルドは初めて見た時から自分の半身のような気持ちになった。
自分が仕える主が決まり、それとほぼ同時に手にした加護付きのブローチ。
それが、エメラルドとの出会いだった。
身に着けていると、まず心が落ち着く。
そして、落ち着くことでその時の自分のベストの動きが可能になった。
その積み重ねで、自分の騎士としての年数が実りのあるものになった。
気が付いたら、手で触る手触りも何もかもが全て気に入っていた。
伸びている蔓の装飾も、形も手にしないとそわそわする自分。
だが、先日主を守ろうとした際に、不測の事態が起きた。
まさかの“呪い”という、時間も手間もかかる攻撃が用いられた。
過去に、数件しか事例のない現象。
しかし、その呪いは何を犠牲にしたのか不明だったが、確かに目の前で発動したのだ。
水飴のように、どろりとした存在を目の前にし直感で“良くないもの”と判断した。
色は濃い茶色で、すぐにでも飛び掛かりそうな動きを繰り返していた。
騎士の勘で、主の目の前に飛び出した時、その呪いが襲い掛かってきた。
主の盾になれるのであれば、こんなに本望なことはないと悔いはなかった。
しかし、飛び出した自分の持つブローチに見事吸い込まれたそれ。
まるで魔法のような、本当に一瞬の出来事だった。
自分も、主も何もなかった。
その場は騒然となったが、念入りに調査し黒幕はしっかりと捕らえることができた。
今後の警護のためにも、呪いという不確かな攻撃にもきちんと対応しなければならないことが確定した。
その後、神殿でしっかりと調べてもらったが、本当にこのブローチが代償になったようだった。
神殿に預けることを騎士であるアマンダは懸念していた。
ずっと手にした時から、このエメラルドとは一生を共にすると思っていた。
その位、気に入っている自分がいた。
神官も巫女も、このブローチを預かりたくないと前面に出していた。
言葉では言わなかったが、主がいなければ確実にそう告げていただろう。
お節介な雇い主が付いてきてくれたことで、その言葉は聞かずに済んだ。
そして、行動力のある主は諦めなかった。
神殿が頼りにならないのであれば、職人の元へ行けば良いのだと言う。
そして、勝手に持って来てしまったのだろう。
気が付いたら、手元になくなっていたブローチに焦ったのを思い出す。
そして、巡り合った小さな職人。
元々、作った時のみしか縁のない関係だと思っていた。
工程が遅い職人という思い込み、それだけでいい加減な人間を勝手に想像していた自分。
しかし、目の前にした時にそれは間違いだと思った。
誰よりも石を尊重し、誰よりも石に敬われている崇高な人間だった。
しかも、今回の補修には1日もかからないという。
驚くことに、加護のかけ直しならすぐにでもできるという。
自分の力を何も過信していない、純粋に目の前の出来事に没頭する職人だった。
それは、石を目の前にした時にはっきりと分かった。
勝手に鑑定したのは悪いと思ったが、それは聖女や勇者などが一種のトランス状態になるのと何ら変わりはなかった。
しかも、そのオンオフの差は全くない。
日常的に行える、その性能の高さ。
彼女は言った、「少しお時間を頂戴しますが」と。
彼女は知らないのだろう。
少しのお時間で直せるのは、確実に彼女が実力者だということだ。
元々人にも興味はない。
仕事柄、多くの人間を覚えることが求められたが、自分の世界が狭いことは自分でも良く理解している。
そんな自分でも知っていること。
おどおどしている様子とは打って変わり、石のこと、自分の作る作品のことを語る口調は、確かに熟練職人のそれだった。
自分に臆することもなく、石を大事にしてほしいという気持ち。
自分にもエメラルドにも叱咤するその姿。
それを目の前にして、確実に思い込みは散り散りになった。
この職人は、本物だということ。
噂のみで、彼女のことを知ろうとしなかったことを純粋に恥じた。
すぐに考えれば分かるはずだ。
あんなに素晴らしいエメラルドを作った職人が、いい加減であるわけがないことを。
でも、その時の自分は考えることをしなかったのだろう。
縁のない人間のことだと、考える時間を割かなかった。
しかし、その当時の自分の考えに間違いはないと思っていた自分。
主から、今後のメンテナンスは他を当たるように言われた時も、自分で作った物の責任も取らないのは何ていい加減な人間なのだと憤りを感じたくらいに。
素晴らしいエメラルドを作ったのは、単に気まぐれで自分の元に届いたのは運が良かっただけというだけのこと。
そう、信じていた自分。
それは、全て間違いだった。
主のいう勘違いなんて可愛いものではない。
この職人はきちんと評価をされ、敬われないといけない。
しかし、そこでも主はそれを良しとしなかった。
納得はできないが、主も職人殿も彼女を取り巻く石達も、現状を気に入っているのなら、私も何も言うまい。
しかし、今後は必ずこの職人を頼ろうと思えた。
そのくらいの出来事が、確実に起こっていたのだから。
この思い込みは、信じても良いのだろう。
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