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ペットなんかじゃない【side環】
②
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「どうしたんですか?」
私の考えを見透かすかのようにこの男は現れた。
ニコニコと一見無害そうな笑みを浮かべて、いかにも「部下」の顔をしてこちらを見つめている。
「副部長がいつまでも戻ってこないので心配になって探しちゃいました。調子でも悪いんですか?」
本当は全て分かっているくせに。
心配そうに覗きこんでくる犬飼の顔を睨みつける。
「…っ」
「顔真っ赤ですよ?熱に浮かされたみたいに目もとろんとしてて…俺、部長に伝えに行きましょうか?」
「いい、さわるな」
指で顎を掴まれ、犬飼と目が合う。
目を見つめてしまったら熱がさらに高まってしまう気がして、すぐに目をそらした。
「でも」
「っ、これ以上私に介入しないでくれ!」
「…分かりました。無理しないでくださいよ?何かあったら連絡ください」
語気を強めてそう告げると、犬飼は小さくため息をついて立ち上がった。
犬飼はぽんぽんと私の頭を叩いて、踵を返した。
「…どうしましたか?」
「え?」
「いや、僕の足を掴んでるので」
指摘されてはじめて気づいた。
私の手が、憎いはずの男の足を掴んでいる。
まるで「行かないで、ここにいて」と言うように。
息が上がる。
私の手は犬飼にすがりついたまま、離れようとしない。
犬飼に触れている手のひらからぴりぴりと甘い振動が伝わってくる。
「やっぱり体調悪いんじゃないですか。強がらないでくださいよ」
「ちがう、そうじゃなくて」
「そうじゃなかったら、なんですか?」
いつもと変わらない爽やかな表情でこちらを見つめる犬飼。
コイツは待っている。
私が折れるその時を。
「っ、あ」
唇だけが動いて声が出ない。
喋るとして、何を?
触ってほしい?
イかせてほしい?
そんなこと言えるわけがない。
この私が、しかも仕事場で。
はくはくと口を動かしていると、おもむろに犬飼の指が口内に侵入してきた。
人差し指で舌の腹をつつつとなぞられて、それだけなのに身体がびくびくと反応してしまう。
「抵抗しなくていいんですか?」
「ふ、あ」
「ここ会社ですよ?分かってます?」
犬飼の声色が少しずつ蔑みを含んだものに変わっていく。
全部分かってる。でも、身体が動かない。
犬飼のスイッチが切り替わっていく様子を見て、どうしようもなく喜んでしまっている自分がいる。
「ずっと俺に触ってほしかったんですか?」
「ん、ふ」
「言わないとやめちゃいますよ」
「…さわ、さわっ、て、ほしか、った」
「ふふ、やっと素直になりましたね」
「あぐっ」
指が奥の方まで入ってくる。
呼吸がし辛くて苦しいせいで、次第に視界が歪んでくる。
それでも私は犬飼から与えられる苦しみを従順に受け入れてしまっている。
「あ、そういえばさっき部長と話したんですけど、環さんのこと探してましたよ」
「!」
「急いでるような口ぶりでしたね。戻った方がいいんじゃないですか?」
犬飼の指が離れていく。
部長。仕事。急ぎの用事。
自分が「小笠原環」であり続けるために優先するべきものばかりだ。
仕事ができない自分に何が残る。
私は仕事のために生きてきた。
戻らないと。
戻らなきゃいけないのに。
私の考えを見透かすかのようにこの男は現れた。
ニコニコと一見無害そうな笑みを浮かべて、いかにも「部下」の顔をしてこちらを見つめている。
「副部長がいつまでも戻ってこないので心配になって探しちゃいました。調子でも悪いんですか?」
本当は全て分かっているくせに。
心配そうに覗きこんでくる犬飼の顔を睨みつける。
「…っ」
「顔真っ赤ですよ?熱に浮かされたみたいに目もとろんとしてて…俺、部長に伝えに行きましょうか?」
「いい、さわるな」
指で顎を掴まれ、犬飼と目が合う。
目を見つめてしまったら熱がさらに高まってしまう気がして、すぐに目をそらした。
「でも」
「っ、これ以上私に介入しないでくれ!」
「…分かりました。無理しないでくださいよ?何かあったら連絡ください」
語気を強めてそう告げると、犬飼は小さくため息をついて立ち上がった。
犬飼はぽんぽんと私の頭を叩いて、踵を返した。
「…どうしましたか?」
「え?」
「いや、僕の足を掴んでるので」
指摘されてはじめて気づいた。
私の手が、憎いはずの男の足を掴んでいる。
まるで「行かないで、ここにいて」と言うように。
息が上がる。
私の手は犬飼にすがりついたまま、離れようとしない。
犬飼に触れている手のひらからぴりぴりと甘い振動が伝わってくる。
「やっぱり体調悪いんじゃないですか。強がらないでくださいよ」
「ちがう、そうじゃなくて」
「そうじゃなかったら、なんですか?」
いつもと変わらない爽やかな表情でこちらを見つめる犬飼。
コイツは待っている。
私が折れるその時を。
「っ、あ」
唇だけが動いて声が出ない。
喋るとして、何を?
触ってほしい?
イかせてほしい?
そんなこと言えるわけがない。
この私が、しかも仕事場で。
はくはくと口を動かしていると、おもむろに犬飼の指が口内に侵入してきた。
人差し指で舌の腹をつつつとなぞられて、それだけなのに身体がびくびくと反応してしまう。
「抵抗しなくていいんですか?」
「ふ、あ」
「ここ会社ですよ?分かってます?」
犬飼の声色が少しずつ蔑みを含んだものに変わっていく。
全部分かってる。でも、身体が動かない。
犬飼のスイッチが切り替わっていく様子を見て、どうしようもなく喜んでしまっている自分がいる。
「ずっと俺に触ってほしかったんですか?」
「ん、ふ」
「言わないとやめちゃいますよ」
「…さわ、さわっ、て、ほしか、った」
「ふふ、やっと素直になりましたね」
「あぐっ」
指が奥の方まで入ってくる。
呼吸がし辛くて苦しいせいで、次第に視界が歪んでくる。
それでも私は犬飼から与えられる苦しみを従順に受け入れてしまっている。
「あ、そういえばさっき部長と話したんですけど、環さんのこと探してましたよ」
「!」
「急いでるような口ぶりでしたね。戻った方がいいんじゃないですか?」
犬飼の指が離れていく。
部長。仕事。急ぎの用事。
自分が「小笠原環」であり続けるために優先するべきものばかりだ。
仕事ができない自分に何が残る。
私は仕事のために生きてきた。
戻らないと。
戻らなきゃいけないのに。
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