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残り九か月
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よくわからんくっさい薬品の臭いに、使い方がよくわからん機械とか器具。おれはあんまりここが好きじゃない。
手術着?みたいなのを渋々着て、せんせーの真ん前にある丸椅子へと腰をかけた。おれの担当医のこの人は相変わらず仏頂面で、愛嬌のかけらもなくて、でもおれは月一で検査があるから、最低月に一回は顔を合わせなきゃいけない。おれは丸椅子に手ぇついて、せんせーに向かって顔を突き出した。
「ねえ」
「はい」
「帰っていい?」
「絶対に駄目です」
「ケチ」
せんせーはおっきいため息をついて、ぎらりと睨みつけてきた。やたら背が高くて、イケメンで、モテるためだけに生まれたとした言いようがないこの人は、おれの余命を宣告してきた張本人。
イケメンで医者やってるとかマジで勝ち組すぎだろ、この人。男として負けた気分になるから、正直あんまこの人と関わりたくないんだよな。
「何度電話をしたと思ってるんですか、海くん」
せんせーの言葉に、今度はおれがおっきいため息をついた。そうそう、なぜかこの人、検査サボるとめちゃくちゃ電話かけてくるんだよね。意味分からん。たかが患者なんだからほっとけばいいのに、おれの病気が珍しいからかよく分からんけど、すげーウザ絡みしてくる。
「どうせもうすぐ死ぬんだから検査しなくてもいいじゃん」
「駄目です」
せんせーのお綺麗な唇が空気を吸ったのを見ておれは後悔した。あ、始まる。
「海くんは世界的に発症例の少ない非常に稀な難病を抱えているんです。場合によっては論文に掲載されていないような症状も発生しうる。キミは人の百倍以上のリスクを有しているんです。今は何の支障もなく日常生活を送れているかもしれませんが……」
はいはい分かりましたって、毎回聞いてますよそれ。って言ってやりたいけど、それはのれんにくぎ……じゃなくて、ぬかにのれん……じゃなくて、まあ、要するに意味ないからやめた。テキトーに相づち打ってたら満足したみたいで、せんせーは立ち上がってグレーのおれの髪を撫でた。
「おれ子供じゃないんだけど」
「すみません、つい。わんぱくな甥がいるものですから」
「……馬鹿にしてる?」
「してませんよ」
性懲りもなくまた腕を伸ばしてきたから思いっきり叩いてやったら、一部始終を目撃していたらしい看護婦さんにくすくす笑われた。最悪。あの人めっちゃ可愛いって思ってたのに、恥ずいとこ見られた。
「まずは心電図から取りましょうか」
イヤミみたいに長い足でスタスタ歩いてくその後ろを、わざとゆっくりと着いてく。そいえば、さっきめちゃくちゃ自然に頭撫でてきたけど、あーいうの女子にもやってるんかね。だとしたらフツーに犯罪だ。だってこんなイケメンに頭ポンポンされて、オチない女がいないわけない。
なんて考えてたら、ちょっとした疑問が頭に浮かんだ。
「ねえ」
「はい」
「せんせー、カノジョいるの?」
白衣に向かって問いかける。イヤな思いしてココに来てやってんだから、少しは面白い話の一つや二つしてもらわないと。
「いましたよ」
「マジ!?」
走って追い抜いてせんせーの顔を覗き込んだら、すっげー眉間に皺寄せてて爆笑した。おれが大声出して笑うからせんせーに口塞がれたけど、結局おれは片腹が痛くなるまで笑い続けた。この人でも女と別れることとかあるんだな。でもさ、いかにも「触れてくんなよ」って感じの顔されたら逆に気になるじゃん。
「っくく、フラれたの?」
「……」
「せんせーが喋るまでこっから動かないからね」
「……」
ニヤニヤ笑ってせんせーの前に立ちはだかってやったら、急に視界がぐるん!って回転した。なにが起こったか分かんなくて二、三回まばたきして、どうやらおれはせんせーに担がれてるらしいことに気付いた。
「あぁ!?」
いい年した派手髪の男が、白衣の男に担がれてるっていう光景は相当面白いらしい。廊下ですれ違った人全員から笑われるし、しかもちっちゃい子供にまで指さされたし、マジで最悪。
「離せえ!!」
「再び駄々をこねられては敵いませんから」
「もうしないって!!」
手足をバタバタ動かしてもせんせーは全然下ろしてくんなくて、結局検査室までおれはせんせーに担がれてた。散々暴れ倒したせいでおれ息上がりまくりなんだけど。病院に検査来ただけで息切れ起こすとかそんなことある?
「ではそちらの台に横になってください」
おれのプライドをバキバキに傷つけてきたくせにせんせーはしらーっとしてるから、ムカついて両手組んで無視してやった。一言謝ってくれたらまあ許してやらんでもない。
「海くん?」
「……」
「仕方ないですね」
「ちょ、分かった!分かったから!!」
せんせーの両腕がにゅって伸びてきたから間一髪で回避。あっぶな。また抱きかかえられたらメンタル死ぬから、舌打ちして仕方なく、仕方なーく検査台に横になってやったら、せんせーは大人しく離れてった。
子供みたいにゴネてるってのは分かってる。てかおれ普段こんなんじゃないし。イエスマンだし。でも、おれの本能がこの人に対して警鐘を鳴らしてる。なんでか分からんけど。うーん、イケメンすぎてウザいからかな。
……ま。おれ馬鹿だからな。難しいことは分かんねえわ。
てかおれ、あと九回はこの人に会わなきゃいけないわけ?フツーにイヤなんだけど。九か月後に死ぬのは変わらないんだから、どうせ検査しても意味ないだろって感じなんだけど。
手術着?みたいなのを渋々着て、せんせーの真ん前にある丸椅子へと腰をかけた。おれの担当医のこの人は相変わらず仏頂面で、愛嬌のかけらもなくて、でもおれは月一で検査があるから、最低月に一回は顔を合わせなきゃいけない。おれは丸椅子に手ぇついて、せんせーに向かって顔を突き出した。
「ねえ」
「はい」
「帰っていい?」
「絶対に駄目です」
「ケチ」
せんせーはおっきいため息をついて、ぎらりと睨みつけてきた。やたら背が高くて、イケメンで、モテるためだけに生まれたとした言いようがないこの人は、おれの余命を宣告してきた張本人。
イケメンで医者やってるとかマジで勝ち組すぎだろ、この人。男として負けた気分になるから、正直あんまこの人と関わりたくないんだよな。
「何度電話をしたと思ってるんですか、海くん」
せんせーの言葉に、今度はおれがおっきいため息をついた。そうそう、なぜかこの人、検査サボるとめちゃくちゃ電話かけてくるんだよね。意味分からん。たかが患者なんだからほっとけばいいのに、おれの病気が珍しいからかよく分からんけど、すげーウザ絡みしてくる。
「どうせもうすぐ死ぬんだから検査しなくてもいいじゃん」
「駄目です」
せんせーのお綺麗な唇が空気を吸ったのを見ておれは後悔した。あ、始まる。
「海くんは世界的に発症例の少ない非常に稀な難病を抱えているんです。場合によっては論文に掲載されていないような症状も発生しうる。キミは人の百倍以上のリスクを有しているんです。今は何の支障もなく日常生活を送れているかもしれませんが……」
はいはい分かりましたって、毎回聞いてますよそれ。って言ってやりたいけど、それはのれんにくぎ……じゃなくて、ぬかにのれん……じゃなくて、まあ、要するに意味ないからやめた。テキトーに相づち打ってたら満足したみたいで、せんせーは立ち上がってグレーのおれの髪を撫でた。
「おれ子供じゃないんだけど」
「すみません、つい。わんぱくな甥がいるものですから」
「……馬鹿にしてる?」
「してませんよ」
性懲りもなくまた腕を伸ばしてきたから思いっきり叩いてやったら、一部始終を目撃していたらしい看護婦さんにくすくす笑われた。最悪。あの人めっちゃ可愛いって思ってたのに、恥ずいとこ見られた。
「まずは心電図から取りましょうか」
イヤミみたいに長い足でスタスタ歩いてくその後ろを、わざとゆっくりと着いてく。そいえば、さっきめちゃくちゃ自然に頭撫でてきたけど、あーいうの女子にもやってるんかね。だとしたらフツーに犯罪だ。だってこんなイケメンに頭ポンポンされて、オチない女がいないわけない。
なんて考えてたら、ちょっとした疑問が頭に浮かんだ。
「ねえ」
「はい」
「せんせー、カノジョいるの?」
白衣に向かって問いかける。イヤな思いしてココに来てやってんだから、少しは面白い話の一つや二つしてもらわないと。
「いましたよ」
「マジ!?」
走って追い抜いてせんせーの顔を覗き込んだら、すっげー眉間に皺寄せてて爆笑した。おれが大声出して笑うからせんせーに口塞がれたけど、結局おれは片腹が痛くなるまで笑い続けた。この人でも女と別れることとかあるんだな。でもさ、いかにも「触れてくんなよ」って感じの顔されたら逆に気になるじゃん。
「っくく、フラれたの?」
「……」
「せんせーが喋るまでこっから動かないからね」
「……」
ニヤニヤ笑ってせんせーの前に立ちはだかってやったら、急に視界がぐるん!って回転した。なにが起こったか分かんなくて二、三回まばたきして、どうやらおれはせんせーに担がれてるらしいことに気付いた。
「あぁ!?」
いい年した派手髪の男が、白衣の男に担がれてるっていう光景は相当面白いらしい。廊下ですれ違った人全員から笑われるし、しかもちっちゃい子供にまで指さされたし、マジで最悪。
「離せえ!!」
「再び駄々をこねられては敵いませんから」
「もうしないって!!」
手足をバタバタ動かしてもせんせーは全然下ろしてくんなくて、結局検査室までおれはせんせーに担がれてた。散々暴れ倒したせいでおれ息上がりまくりなんだけど。病院に検査来ただけで息切れ起こすとかそんなことある?
「ではそちらの台に横になってください」
おれのプライドをバキバキに傷つけてきたくせにせんせーはしらーっとしてるから、ムカついて両手組んで無視してやった。一言謝ってくれたらまあ許してやらんでもない。
「海くん?」
「……」
「仕方ないですね」
「ちょ、分かった!分かったから!!」
せんせーの両腕がにゅって伸びてきたから間一髪で回避。あっぶな。また抱きかかえられたらメンタル死ぬから、舌打ちして仕方なく、仕方なーく検査台に横になってやったら、せんせーは大人しく離れてった。
子供みたいにゴネてるってのは分かってる。てかおれ普段こんなんじゃないし。イエスマンだし。でも、おれの本能がこの人に対して警鐘を鳴らしてる。なんでか分からんけど。うーん、イケメンすぎてウザいからかな。
……ま。おれ馬鹿だからな。難しいことは分かんねえわ。
てかおれ、あと九回はこの人に会わなきゃいけないわけ?フツーにイヤなんだけど。九か月後に死ぬのは変わらないんだから、どうせ検査しても意味ないだろって感じなんだけど。
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