転生先で動く推しカプのスケベを見て興奮していたら友人と妙な関係になった話

小村辰馬

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非常に困った。

「フェリシア、具合はどう」
「ええと、少し良くなってきたかな。だからもう戻ってもらって大丈夫だよ」
「いやそういう訳にはいかないでしょ。途中で倒れられでもしたら寝覚め悪いし」

背中に手を添えられながら、私は違う意味で更に顔色を悪くさせる。
なんとも有難迷惑なことに、私の体調を案じたユーグリッドが会場の外まで付いて来たのだ。もう大丈夫だと言っても心配だの一点張りで、これは私を部屋に送り届けるまで諦めなさそうだ。くそうこの男の外面の良さとフェミっぷりを舐めていた。
時間は惜しいが、いっそどこかの部屋に入り込んで撒いてから、改めて件の部屋に向かった方が賢明かもしれない。
必死に頭の中で王宮内の地図を展開していたが、不意に背中のユーグリッドの手がもぞりと動いたものだから変に体が反応してしまい、思考が中断されてしまった。

「前々から思っていたけどフェリシア細すぎない? ちゃんと食べてる?」
「た、食べてるよ! 食べても身になり難い体質なの。筋肉もなかなか育たないし」
「へぇ。道理でどこもかしこもふにゃっとしてるわけだ。この体でここまでやってくるのはさぞ大変だっただろうに」

歩きながらも横目でジロジロ全身を眺められて、ぞわりと肌が粟立つのを感じる。騎士としてあるまじき体質であることは自覚しているけれど、ユーグリッドにどうこう言われる筋合いは無い。
努めてむっとした表情を作ってユーグリッドを睨み上げると、彼はおどけたように肩を竦ませた。

「ごめんごめん、女性に体のことをあれこれ言うのはタブーだよね。けど、それでも竜騎士になりたかった確固たる理由があったんでしょ?」
「理由と、言われても」
「やっぱりマルクス様?」

弾かれたようにユーグリッドを見上げる。

「なっ……なんで知って……!」
「第8部隊のメンバーはみんな知ってるよ。お前酔っ払うとマルクス様トークしかしなくなるし」
「うそぉ」

知らなかった。情報保守ガバガバすぎるでしょ私。

「フェリシアも意外と俗なとこあるよね。まあ、気持ちは分かるけど」

ううう居た堪れない……次元の違うアイドルなどではない分恥ずかしさが大きい。頰に熱が集まるのを感じる。

「あれ、照れてる?」
「いや、家族のためだったり国への忠義だったり、みんなきちんとした確固たる理由を持って騎士になったのを知ってるから。恥ずかしいやら情けないやら」
「そう? 別に良いんじゃない不純な動機でも。俺なんて竜騎士という経歴があった方が箔がつくと思ったから渋々なっただけだし。だってかっこいいじゃない? 竜騎士」

ウィンクなんてこっ恥ずかしい動作をキメながらなんて事ないように言うユーグリッドに、思わず呆けてしまう。確かに彼の家柄ならわざわざ王都に出て騎士にならずとも、家督を継ぐだけで一生食い扶持には困らないだろう。
しかしそんなことしなくてもユーグリッドはそこそこにイケメンだ。目鼻立ちは整っているし、垂れ目の甘い瞳は世の女性の心を擽るだろう。実際に使用人や、街を歩けば女性達に囲まれている姿をよく見かける。軟派で親しみ易い性格もモテの一因なのだろう。
まあ、私の推しはマルクス様なのでちっとも心がぐらついたことはないのだけれど。

「だから気負うことはないと思うよ。騎士の職に就けたこともフェリシアの努力あってこそのものだと思うし。まあ、いくらお慕いしていると言えど、跡をつける行為は頂けないけどね」
「ぎくっ」

曲がり角に至ると、突然ユーグリッドが私を手で制して立ち止まったため、釣られて私も歩みを止めた。
ユーグリッドの背後からそぅっと先の廊下を覗き込むと、マルクス様と彼に手を引かれたアシュリーヌちゃんが一つの部屋に入って行くのが見えた。
だらだらとこめかみから冷や汗が垂れるのを感じる。

「さっきもマルクス様がホールから出て行くのを追おうとしたんでしょ。フェリシア嘘下手すぎるからすぐ分かったけど」
「うっ……」

め、めちゃくちゃお見通されてた……。
相手がユーグリッドだからか自分に落ち度があったのか分からないけれど、これは凹む。今後は自分の身の振り方を改めなければならないかもしれない。

「もしかしてマルクス様のこと本気だった? あのアシュリーヌさん相手じゃ流石のフェリシアでも軍配が上がるのは難しいと思うけれど、一応こちらは貴族だし上手いこと根回しすれば彼女を遠避けることくらいはできると思うけど」
「なっ何言ってんの!! アシュリーヌちゃんが傍にいないマルクス様なんて苺の乗ってないショートケーキみたいなもんだよ?!」

勿論マルクス様単推しでもあるけれど、二人が揃ってこその萌えの完成形なのだ。アシュリーヌちゃんを好いていないマルクス様なんて、私の推しているマルクス様じゃない。解釈違いで死んでしまう。
思わず胸元に摑みかかりながらユーグリッドに詰め寄ったものの、両手首を掴まれ、あっさりと勢いを御されてしまった。

「その例えの意味はよく分からないけど、まあそうだろうね。フェリシアの普段の様子からしてもマルクス様に対する感情は恋慕のようには感じられないし、フェリシア自身、アシュリーヌさんとも円満なようだし」
「そうだよ。思い違いも大概にしてよね」
「とは言え、きちんと言わないと伝わらないこともあるんだよ。盲目になってしまっている奴には特にね」
「? どう言う意味?」

訳が分からず思わず首を傾げる。

「ノアと今みたいな話、したことある? マルクス様の事を本気で好いているかどうかとか」
「えぇ……ノアと色恋の類の話題になったことないし、照れ臭いし、したことないよ」

親兄弟と恋バナをするのが気まずいアレと同じだ。現にそこそこ長い付き合いだけど、その間ノアに好きな相手や恋人がいたかどうかすら私は知らない。同僚を交えてそんな話題になった時、特にはぐらかしていたのはノアだけど。単に照れ屋なのだと思う。

「大体、訓練学校にいた頃からマルクス様の話を一番聞いてくれていたのはノアだもん。今更すぎるし、一々そんな話しないよ」
「うーん、お前らってほんと……」

私の手首を掴んだまま宙を仰ぐユーグリッド。なんだか馬鹿にされてる感がすごい。というか、そろそろ手を離してほしいのだが。
胡乱げな視線を注いでいると、それに気付いたらしいユーグリッドがにっこりと実に良い笑みを浮かべた。いやな予感。

「それで、フェリシアは体調が優れないのだっけ。さっきマルクス様が入った部屋の隣室も鍵が空いているのを確認されていたし、あそこで休んでく?」
「へっ?! いや、それは嘘だってーー」
「いやいや、さっきからなんだか顔が赤いし。案外、嘘から出た実かもよ。それにほら、あの部屋なら隣室の音もよく聞こえそうだし」

「ね?」と含みのある風に微笑みながら部屋の方へ顎をしゃくってくるユーグリッド。
どうしよう、完全に私の目論見がばれてしまっている。この感じだと部屋の中まで付いて来るに違いない。一旦会場へ戻ろうと言ってもこの男は聞かないだろうし、戻って再び向かうとしても、きっとまた付いて来るに決まっている。というか、何を言っても言いくるめられてしまう予感しかしない。

どうしよう、どうしよう、
このままユーグリッドを連れてでも部屋に入って覗きをするか、はたまた今回は諦めるか。
一際えっちな至近距離の情事か、はたまた友人と一国の王子のあられもない姿を興味本位で付いてきた同僚にまたもや見せてしまう罪を避けるべきか、頭の中で天秤がゆらゆらと揺れている。いや、流石に今回ばかりは……
諦める方の秤がぐぐっと下がろうとした瞬間、突然ユーグリッドが私の手を掴んだまま部屋の方へと歩き出した。なっ、なななっ

「ユーグリッド?!」
「いいじゃんちょっとだけちょっとだけ。俺も二人が何話してるか気になるし。フェリシアだって気になるから跡をつけたんでしょ」

ぐっ……それもそうだけど。しかしいやしかしーー

脳裏にマジックミラーに体を押し付けられながら背面から攻められるアシュリーヌちゃんのスチルが蘇り、股間がほんのり潤った。

ちょ、ちょっとだけなら……

ぐら~っとどうしようもない私の欲望の秤が再び傾き、地に着きそうになったその時、ユーグリッドに掴まれていない方の片腕にものすごい引力を覚えた。
背後を振り返るとよく見知った黒髪の青年が私の手首を掴んでいた。

「の、ノア?!」

どうしてここに、というか、なんだかめちゃくちゃ顔が怖いんだけど何事。見たこともない凄んだ表情で見下ろされ、萎縮してしまう。

「あれ、ノアじゃん。仕事ほっぽってこんなとこまでどうしたの」

私の声に気付いたユーグリッドは手を掛けようとしていた扉から離れ、呑気に笑い掛ける。
剣呑な雰囲気のノアとの温度差に、挟まれた私は気が気でない。
ハラハラ二人を交互に見やっていると、ぐっと手首を握ってくるノアの手に力がこもった。

「グレイス候が探していたから呼びに来た。早く戻った方がいいんじゃないか」

グレイス候、とはユーグリッドのお父上だ。暫く席を外してしまっていたからご心配なさったのだろうか。
ちら、とユーグリッドを見上げると、ノアと私を交互に見やったのち、にっこりと意味深な笑みを浮かべた。

「へぇ、なんだろ。普段はとことん放任主義なんだけど。何か大事な用事かもしれないな。……わざわざありがと」

そう言うとユーグリッドはあっさりと私の手を解放し、元来た会場の方へと歩を進める。

「そうだ、フェリシア体調が優れないらしいから、見ててやってよ。隊長には俺から伝えとくからさ」

すれ違いざまにノアを振り返り、今度こそユーグリッドは戻って行ってしまった。再び廊下に静けさが戻る。
ええと……

「の、ノア……」

気まずい。そもそも疎遠になってしまっていた上に今のノアは頗る機嫌が悪そうだ。空気の重さが尋常じゃない。
なんて言って声をかけたら良いか分からず恐る恐るノアを見上げようとしたものの、視線がぶつかるより先にノアの手によって私は目の前の部屋の中へと引き摺り込まれてしまった。
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